激闘の果てに

 バッババッババッと六本のアームで錫杖を弾く。

変則的に火花を散らせて、トレバーと仮面男は体術でせめぎ合う。

上回ったのはほんの少しでギアをあげた仮面の男に並ばれた。


(ちっ、隙を作らないと変身もできん)


ほんの少しの隙も致命的になる。

恐ろしい速さと殺傷力を仮面の男は技術として持っている。

だが、同時に改造された者特有の欠点が浮き彫りになっていた。

それを見たトレバーは自嘲気味に笑うと伊橋の事が脳裏に浮かんだ。


(抜け作と同じなんだよなぁ……速いだけで)


 そしてタイミングを計ると大振りの動作にカウンターを合わせる。

唸りを上げて捩じり込んで来る右フックを予測し左サブアームでガードした。

がら空きの鳩尾にくの字になる程の強烈なボディアッパーをズドンと捻じ込む。

そこから急角度の膝蹴りを肘で受け、返すついでに左右のアームを使う。

右こめかみ、左顎、右頸動脈への打撃を入れる。

それにも構わず仮面の男は連打を放つ。それもトレバーは余裕でガードする。

ダメージで動きが止まった鳩尾に前蹴りを放つ。


 堪らず吹き飛ぶが一回転して勢いを殺し、着地態勢に入った。

だが、そこにはブラウンを苦しめていた槍の騎士が居た。

お互い避けずにぶつかり合って倒れ込む。


「トレバー! 助けたついでにこいつも頼むわ!」

「アホ! お前がやれ! チェェェェェェェンジッ! ウォリアァァァァァァァッ!」


リアクターの窓を両手で光が漏れないように隠して変身した。

爆発的な光源は敵を呼びかねないゆえの措置だ。

仮面の男が飛び起きて構えた時に既に変身は終わっていた。


「さて、もう一度競うかね? ついてこられなかったら八つ裂きにするぞ」


 挑発しながら今度は鬼神が突っかかっていく。

そこに槍が突かれてくる。槍騎士の援護だ。

顔に向かって来る槍を鬼神は無造作にパシッとサブアームで掴む。

そこから引っ張りながら騎士に急速に接近する。

いきなりの接近に騎士は慌てて槍を手放し、剣を抜いた。


「ブラウン! アガトでも良い! 受け取れ! そいつで突いてやれ!」


奪った槍を振り回して、つばぜり合いをしていたジョナサンにも一瞬のスキを与えた。

槍を避けたダークロードにそのまま押し倒して馬乗りになる。


「コレでも食らえや!」


 剣を放り出してグラウンドパンチ状態で兜をガンゴンボコンと連打で殴り始めた。

大太刀では縦にも横にも長すぎる。

しかし、ナイフ抜いている隙があれば脱出される。

結論はこうなったが、鬼神のヘルメットを壊した威力が発揮された。

黒い頑丈そうな兜がへしゃげて来たのだ。

堪らずダークロードが裂帛の気合いと共にジョナサンを弾き飛ばした。

しかし、既に兜のバイザーは凹み、視界を奪っていた。


「へっ、次は剣技で超えてやらぁ」


啖呵を切ったジョナサンが肩に太刀を担ぐ八相に構える。


 その後ろでは仮面対決の決着がつきそうだった。

あれから仮面の男は何度も強烈なカウンターを取られていた。

伊橋もそうだったように改造人間には自身のスペックに対する驕り、油断がある。

多少の攻撃なら身体で受けとめ、代わりに全力でぶったたく!

攻撃される前に素早く攻撃せよ!

そうすれば攻撃されない。

しかし、ガードがその分、甘い。

鬼神の様な技術が高い戦士には美味しい打撃ポイントになる。

超高速で大振りの攻撃動作になれば急所はがら空きになる。

そこをモロに痛打される。

しかし改造人間ゆえに動ける。

痛覚を遮断するからだ。


 そして内臓機能はダメージで動きが悪くなり、掴まれ出し投げられた。

最後にはアームに腕を固定されて全身を殴られていた。

一方的に急所のみを狙って……。


「オラオラオラオラァ! 気合い入れんかぁ!」


もはや抵抗する力は残っていない。

だが、顔を鬼神に向けた時、口が開く。

青白く揺らぐ凍れる炎が噴き出されようとした。


「はい、消えた!」


 鬼神は見事なアッパーを顎に入れてもげそうな程、首が跳ね上がった。

当然口は閉じられ、中で暴発して仮面が割れて落ちる。

まだ、二十はたちそこそこの若い男がぐったりしていた。

すでに顔に血の気は無く、白蝋の様な身体を晒す。

その顔が鬼神に向くと口から今度は黒い何かを顔に吐きかけた!


「うげっ、何さら……ん?」


ゴーグル越しに何かを探すように蠢くそれを見た鬼神はその不気味さに危険を感じた。


「リアクター解放、全身に電撃とエネルギー放出!」


口頭で指示し、高電圧と高熱量で一気に燃え上がる。

遺体もその怪しい生物も……。


(どうやらこいつが本体か? 宿主の身体だから無茶できるって訳か)


高電圧と炭化して悶え苦しむ蛭の様な生物はとうとう燃えカスになってしまった。


「クソ、このゲロどうしてくれようか?」


吐き捨てながら戦況が心配なブラウンを見る。


 そのブラウンは意外と善戦していた。

アガト達が必死に繰り出す予測不能な槍を騎士は避けられない。

二人がかりでも筋力不足で重くて長い槍を巧く扱えない。

その動きは予測不能な操作となる。


 剣戟が交わされ、そこに槍が差し込まれる。

避け勘が凄いブラウンは巧みに避けるが、騎士はモロに喰らう。

痛くはない。

貧弱ゆえにダメージが無い。

ただ邪魔なだけ……。

だが、ブラウンの攻撃と同時に対応せねばならず攻撃に移れない。

そこに鬼神が茶々を入れ始めた。


「おい、アガト! テュケ! この前教えただろ? 腰を据えて、先の手は軽く、後ろの手はしっかり握れって!」

「うん、けど、この槍……すごく重いよ……」

「腕がへとへと」


必死で槍を繰り出すアガト達だがその重さに苦戦していた。


「だらしねぇな……貸してみろ……なるほどこりゃイイ重さだ」


 槍を上から奪うとその重さに鬼神は納得した。

それなりの加速さえ出せれば多少の装甲なら貫通できる。


「じゃ試し、よっと」


無造作にブンっと騎士に向かい投げつけた。

咄嗟に盾で防御したが、弾くことなく貫通し壁に突き刺さる。

壁を繋ぐ自分の槍を凝視した後に騎士は思わず鬼神を見た。


「お? あ、隙ありぃ」


鎧の防護が無い喉元にブラウンが無遠慮に剣先をプスッと突き入れた。


「コッ、コフゥ……」


出血が気道に入り悶え苦しみ出し、七転八倒する。

しばらくして騎士は動かなくなった。


「おい、勝ったんか?」

「勝ったんだろ……生体反応ないし」


 剣先で突っつき始めるブラウンのビビりっぷりに呆れつつ鬼神は判断した。

興味は猛烈な剣戟で争うジョナサン達に移っていた。

抵抗軍の切り札は伊達ではなく、高回転での剣裁きで相手と互角にやり合う。

刃が噛み合うたびに火花が散る。

それほど火花自体は大きくない。

尋常ではない速度と圧力で剣を無数に振るう為、刃や刀身がもたない。

それを通常は手首と肘を使い、刃のダメージや衝撃を逃がしてもたす。

だが、それでも追いつかないので全身を使い逃がして斬る。


 だが、相手のダークロードは一歩も動かない。

全身を使う必要が無いのだ。

剣に何かの気を纏わしているためだ。

ジッと見ていた鬼神が後ろで隠れてい見ているブラウンに声を掛ける。


「ブラウン、お前、剣を寄越せ」

「は? ええけど乱入したら殺されるぞ?」


自分の腰から鞘ごと剣を抜き、渡す。


「アホ、んなことするか、あくまで準備だ」


 言い返しながら鬼神は動向をしっかりと見ていた。

それもゴーグル越しにスーツのコンピューターに解析をさせていた。

大太刀は銘の有るものではないが、れっきとした業物級の剣だ。

それを歪ませ、刃毀れをして高熱を内包させていた。

相手の剣は正体不明のエネルギーで保護と強化していた。

攻勢を持たせているのはジョナサンの技術と剣の性能だろう。

助太刀はダメだが剣の交換はありだろう。


 それに気が付いたのかダークロードはいきなり蹴り飛ばし間合いを取る。

上段に振りあげた剣と同時に周囲の息を吸い込む。


「来るぞ! 避けろ!」

「カァッ!」


何をするか察知したジョナサンが警告をして防御の構えを取った。

次の瞬間、力強く踏み込まれた足と共に振り下ろされた剣圧が闘気か何かを纏う。

ブラウン達か張り付く通路を暴れまわりながら突き抜けていく。


ジョナサンは立ってはいたが太刀は中ほどで折れてしまった。

そこを再び上段に構えたダークロードが襲う。


「ジョー!」


 呼びかけて鬼神が青龍の剣を投げ渡す。

パシッと掴むと鞘から刀身を抜いて迎撃した。

根元の蒼い宝玉が勢い良く輝き出す。


「鬼神、ブラウン助太刀あんがとな、これで終わりにするぜ」


刀身に力が漲る事を感じながらジョナサンは一気に圧す。

先程の剣圧技で気力と体力を浪費した今が攻め時と確信した。

実際、剣にまとわせていた気は薄くなり幾分勢いがない。

しかしこちらも次は動けない。

最後の斬り合いに動いた。

お互いを鍔迫り合いから弾き飛ばし、上段からの斬り合いになった。


 剣が振り下ろされ、ジョナサンの前髪の白髪が数本床に落ちる。

一方のダークロードは剣ごと兜が割られ、その場で膝を突く。

頭部から血を流した白髪の老人はジョナサンを見上げ呟いた。


「見事也、戦士よ。名を聞かせてくれ」

「ジョナサン・レス・ポールと申す」

「ダークロード・バーズ・レルフ」

「バーズ卿、アンタまさか……」

「剣の道は一つ違えば修羅の道……友の加勢、努々忘れぬでないぞ」


 そこまで一気に言った後、ダークロード・バーズは息を引き取った。

ジョナサンは手を合わせた後、腕を組ませた。


「鬼神のぉ、荼毘たのまぁ」

「あいよ」


火炎放射で遺体を包み込んで変身を解いたトレバーも手を合わせた。


「バーズ卿といえばかなり前のウルトゥルきっての武芸者なんだて、初老の時に行方不明になった方と聞いていた」

「ああ、独力で腕を磨くことに執着し、ここで強敵を待っていたのだろうな。自分を止めてくれる剣士に」


同じく手を合わせたブラウンにトレバーが呟く。


「いずれにせよ、明日は我が身だ」


剣をブラウンに返してジョナサンは溜息をついた。

自分の未来をそこに見てしまったのだ。強気な男も絶句するしかなかった。

衝撃も大きいが諫言導きもあった……必ず活かすと心に決める。


しんみりしたところにアガト達が警報を鳴らした。


「兄ちゃんたちぃ! 怖いのが一杯こっちにくるよぅ!」

「やばいよ! ミャーミャーおじさんじゃないけど逃げよっ!」


 大人しいテュケまで騒ぎ始めた。

通路の先から音が聞こえ出す。

ゴゴンと岩か何かがズレて当たる音だ。


「剣圧飛ばしたり、荼毘とかしちゃったからなぁ……走るぜ」

「またぁ……」


目を凝らして先を見たジョナサンが走り出す。

武器は脇差しかない。

これでは心もとないが無いよりマシである。

その後ろ、文句を言いながらブラウンが走り始めた。


「文句言わない……ん? ゲッ?!」


 嗜めたトレバーは音が変わった事に気が付いて後ろを見た。

天井がスライドし、大量の水が落ちて来た。


「なにぃ!? 俺らうんこじゃねぇぞ! こらぁ!」


咄嗟にアガト達を強制変身させてトレバー達は水に流されていった。


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