九九階にて
終着点である地下九九階を目前にすると下から風が巻きあがった。
それがトレバー達を包み込むとゆっくりと足から着地出来た。
「景気よぅ落ちるもんだで、わしゃ気が気でにゃーわ」
「まぁ最悪、ワイヤーで止めるつもりだったが、何とかなったか」
サブアームの手首部分にはいろいろと機能が付いている。
ブレードガードの他、アース代わりにもなるワイヤーが付いていた。
最悪の時は二人を小脇に抱え、残り四本で壁にワイヤーを撃ち込むつもりだった。
「確かに気味悪いな……とりあえず順調なので良しとするか……」
安堵のセリフを口にしながら、大太刀を抜いたジョナサンは周囲を警戒した。
自分が襲撃者なら着地して気を抜いた今が好機と狙うからだ。
実際は誰も気を緩めてはいなかった。
唯一の穴であるブラウンでさえ、持ち前のビビりを発動していたからだ。
「周囲に何かおるで?」
「おー? よくわかったなぁ……でなんだと思う?」
警告を発したブラウンに大太刀を構えたジョナサンが尋ねた。
「分からんわっ!?」
「えーっ、よく聞いて感じてみろよ……なぁ、トレバー」
「おん? 同じ爬虫類の呼吸音が複数する。しかし移動する音は一つ……複数の頭部を持つヒドラだな」
分からんと返したブラウンに対し、トレバーは見切って見せた。
「呼吸音を出すってことは人間系じゃない。人間なら息を殺すという知恵を使う。それに移動音が一つの癖に爬虫類の呼吸音が複数となると……そういう事だ。俺が斬ったらトレバーは首を焼いてくれ」
答えを解説、指示するとジョナサンはバンダナでマスクをし、前に集中した。
「わしは?」
「トレバーとおちびちゃんずを援護しろ」
ブラウンが問い掛けた瞬間、通路の角から大蛇が口をパカッとひらいて飛びだす。
それでジョナサンを飲む込もうとする。
指示を出しながらジョナサンは複数の風切り音と共に上下左右四つに切り裂く。
大太刀による斬撃の傷口から泡が出てくる。
再生が始まったのだ。
再生に気が付いたトレバーは早速、サブアームから火炎放射を出して焼く。
泡が消えて消し炭状態になり再生が止まった。
アームの万能性に最初、困惑したトレバーもかなりの便利さに苦笑する。
動きを読んだジョナサンが飛びのくと一行の前に八つの頭が胴体と共に出て来た。
牽制ついでの威嚇をするが、ブラウンは剣を抜き威嚇し返す。
「ひゃぁ、ホントにヒドラだて……でも足ないで?」
「ヒドラって蛇だろ? 蛇に足無いぞ?」
「でも創作界隈だと……」
「燃えそうなネタ出すんじゃないよ!」
軽口を叩けるほどブラウンは胆が据わってきた。
それに呼応したトレバーが真顔で返すが、ジョナサンが一喝する。
(ついでに炎上はめんどくさいので作者的に勘弁してほしい)
独特の揺らぐようなダイナミックなリズムで咬撃を避け、鎌首を叩き斬る。
見事なジョナサンの技に思わずブラウンが見惚れる。
「うはー、なーんであのタイミングで避けれるんだて……」
「先に動きを予測しているのもあるが、癖のある真似ができないリズム、流れるような
ライフルをぶっ放し、炎で援護しつつトレバーが解説して尻を叩く。
その一方で感心もしていた。
たぶんこの世界の最高級の技術であり、トレバーでも盗み切れない動きであった。
「しっかしまぁ……斬って焼いてもまだ生えてくるな……」
何度目かすべての首を落とした後、息を整えながらジョナサンがボヤく。
火傷が癒えるとにょきにょきと生えてくる鎌首に閉口する。
「心臓狙うか? どうせそれは一つだろ?」
「まぁ、そりゃそうだが……」
トレバーの提案にジョナサンは同意しかねていた。
根元に行けばそれだけ避けにくい。
振りを察知してトレバーは気配を消していたブラウンに振った。
「ブラウン、お前の剣、あの付け根に投げてみろ」
「また、わしの先祖伝来の剣をスローイングナイフ代わりにするんかて!」
「じゃ、お前あそこまで行ってぶった切れるか?」
「え? あ、あそこに投げればええんかね?」
リスクのある行動に即座に逃げを打ったブラウンは投擲姿勢を取った。
見事な転進ぶりに苦笑しながらトレバーは指差して援護する。
「ヘラクレスって意外とお前みたいだったかもな! 景気よく刺して来い!」
ライフルで怯ませて隙をつくると見事に根元にさっくりと剣が刺さった。
刺さるとすぐに蛇たちは悶え苦しみ出す。
後は丁寧に頭部を粉砕すれば良いだけだった。
「ふぃーやれやれ、めんどくせぇのがいきなり来たな」
「まだ、
トレバーの愚痴に答えつつ、ジョナサンが大太刀をヒドラの腹に突き刺す。
ヒドラの胴体部をかっさばいてジョナサンがトドメを差した。
倒した魔物にトドメを差すのは基本である。
特に再生能力付きならなおさらであった。
さらに切り裂いた胴体をトレバーは上段で蹴り倒して先に進む。
先に進むと噂のアイアンゴーレムとどこかの戦士達が激闘を繰り広げ。
気の狂った侍部隊と切り結ぶ騎士団たちが雄叫びを上げる。
無数の戦闘が至る所で勃発していた。
「派手だねぇ……」
「巻き込まれんうちにはよ行こまい」
面白そうに戦闘を見ているトレバーはその場でくつろぎ始めた。
その傍らで逃げ出すブラウンに呆れながらジョナサンは急かす。
「目的地はもう一つ下だ。お前らもちっと頑張ってくれよ……」
そのフリーダムさに呆れつつ、ジョナサンは昔話を思い出す。
この先の行く道筋を若い頃聞いたタイラーのバカ話から割り出す為だ。
あれはボグドーの鴈の群れ亭でタイラーとニール、三人で飲んでいた。
「あっはははぁ、ジョー、聞いてくれよ。
短髪に刈った地味な顔立ちの男、ニール・クロウが笑いながらエールをあおる。
それなりのイケメンであるタイラーとジョナサンに挟まれたら逆に目立つ。
各地で大暴れする
札付きの二人をまだ出禁にしていない心の広い店であるのだ。
また数少ない親友ニールの
「うるせっ、マジで行ったんだよ。なぁ、ジョー、信じてくれよ」
「お前が一か月ほど消えてたのは知っては居たが……トリネコの迷宮に行ってたなんて信じられねぇな。正直に言え……女の所だろ?」
「マジだぜ。下まで行ったルートをきっちり教えてやるぜ! お代はそれで行けたら頼み事一つ聞いてくれればいい」
「おう、任せな、言ってみろ」
「ああ、なんなりとな」
興味津々にジョナサンとニールが耳を傾けた……。
(あの後、絡んで来たどこかのバカ野郎とやりあって記憶飛んでんだよなぁ)
内心愚痴りながらも飛んだ記憶の断片をかき集めた。
そこでようやくキーワードを思い出した。
「地下水道がどうとか言ってたな……けれどこんな地下に水の音って聞こえんわな」
「待て……この先に水の流れる音がする」
立ち止まり耳を澄ますと、トレバーが答えた。
「そこへ行ってみよう。ただ、気を付けろ水飲み場って場は遭遇率がヤバイ」
サバンナやジャングルの場合、水飲み場でさえ野生生物同士の生存競争はある。
魔物でも狂った戦士達でも水飲みには来る。
そこで鉢合わせしたら結果は火を見るより明らかだ。
それゆえ前衛はトレバーとジョナサン、後衛にブラウンを配置した。
ただ、その思惑通りにはいかなかった。
光が煌々と照らされると同時にあらゆる角、部屋から魔物や狂戦士共が現れた。
「ぶっ! ライト消してずらかるぞ!」
「置き土産も置いとくぜ」
「
光が消えた通路に数発のマイクロミサイルが
その爆発音と炎を合図に後方に居た魔物同士と狂戦士達が激突し始めた。
「こりゃ、ちょうどいいが……暫くはこの近辺には来れんな」
「いや、俺らも忙しくなりそうだ……二人張り付いている」
あたふたと逃げるジョナサンとトレバーは顔を見合わせた。
やるつもりだったがつぎのテュケの叫びでギョッとした。
「兄ちゃん! 違うよ! 三人居るよ!?」
「マジ……うはわ!」
トレバーの感覚さえ聞こえない無音で走る込んで来る。
無表情の仮面を被った男が迫る。
全身黒……タイツでもなくチャックもズボンでもなかった。
音も無く忍び寄った男は手に持った錫杖でブラウンの足を刈った。
だが、それより早くブラウンは足がもつれて大転倒をして転がる。
道に転がる何かの骨が錫杖に触れたら綺麗な切り口を見せた。
「止まれ! やるぞ!」
立ち止まり振り向きざまにジョナサンは大太刀を抜いた。
目前に迫る白刃に押し込まれつつも迎え撃つ。
その向こうには真っ黒で豪華な細工が施された鎧の武人が狂気の笑みで力を入れた。
空かして背中越しの巻き打ちで仕留めるどころか背に背負った剣で大太刀を防がれる。
おまけの肘打ちまでやってのけた。
「この
ここに最大の敵を迎え、ジョナサンが武者震いをした。
隣では錫杖の男とトレバーが文字通りの火花を散らす。
錫杖の超高速連撃をサブアームで受けまくる。
互角以上に攻防戦を展開した。
「ほほう、こいつ人間じゃねぇな……いっちょ仮面対決したろかい」
観察しながら無呼吸で連撃を続ける男に余計な対抗心が生まれた。
改造人間並みの心肺機能は正直あり得ない。なんらかの強化を受けていると推察した。
しかし、ジョナサンという例外を思い出して苦笑した。
そうして勢いつく仮面男に張り倒すべく動き出す。
両手で高速のショートパンチに肘と膝を織り交ぜて全力で仮面の男を追い詰める。
その隣で絶え間なく繰り出される槍を必死で避けまくるブラウンが居た。
相手は馬鹿長い騎馬槍を持った騎士であった。
長距離の間合いを活かしつつ驚異的な技術で突き叩き追い詰めて来る。
「ひゃーっひゃーっ! こっちくんなてー!」
だが、派手に叫ぶわりに紙一重で避ける回避運動は援護のアガト達もびっくりした。
しかし、三体とも一行に脅威を与えるには十分な敵であった。
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