疾走!地下迷宮!
明るく照らし出された通路をのんびりと一行は歩く。
通路に無数に散らばる正体不明の骨をジョナサンが踏み割った。
何度も周囲を見渡して、幾分つまらなさそうにしていた。
先程の虐殺以来、魔物が警戒して出てこないのだ。
ましてや闇に紛れるほどの影になった場所も無い。
群れで突撃する程の知恵をもった魔物もいない。
そうして余裕でジョナサンが昔、タイラーから聞いたエレベーターまで到着した。
石造りの箱は異様に大きく、魔法で作動するらしい。
箱には扉が無い分、事故の危険性があった。
「さて、三〇階へこいつで降りる。……トレバー、今度こそ戦闘させてくれよ?」
「わかった。わかってるって……流石に鉛弾だけじゃ勝てんのはよくわかってるしな」
ストレスで爆発しそうなジョナサンに詰め寄られ、トレバーは苦笑した。
この先、物理ごり押しで勝てないのも理解していた。
(どこまでやれるか? 頼みの綱はブラウンの剣だ)
ブラウンの佩刀、青龍の剣は魔力増幅装置付きの名剣であった。
これならば魔法しか効かない相手でもなんとか戦えるだろう。
前を見つめながらトレバーはキャリアーを前に進めた。
次の目的地は
文字通り、上下垂直に伸びる竪穴が各階層を繋ぐ。
風系の魔法を使ってあるので任意の階層まで運んでくれる。
特に最下層である百階の手前、九十九階まではこれで行くのだ。
此の中央洞しか階層間を移動できる手段は無かった。
但し、道のりは厳しい。
三十階から先には強敵が出てくる。
道を誤り、どっぷりと狂気に魂ごとゆだねた冒険者の成れの果て達……。
冒険者、探索者達を襲う盗賊団……。
そういった輩を餌にして自身の魔法生物、魔物を育成する者……。
それらが手ぐすねを引いて待っているのだ。
「はいストップ」
いきなりトレバーが足を止めるよう叫び、ブラウンがつんのめる。
「おい、トレバー!」
「罠だ。アガト、殻を前に投げろ」
キャリアーで後方監視ついでに煎り豆を食べていたアガト達は豆の殻を投げた。
殻が着地して小さく弾んだ瞬間、横合いの隙間から矢が放たれた。
進行方向への地雷探知機がキャリアーには付いている。
しかし、地雷があるわけではない。
設置された罠に反応したのだ。
「うひゅ!?」
その勢いと鋭さにブラウンは訳の分からない言葉を叫ぶ。
隣のジョナサンが気配を察知し、大太刀をスチャっと抜いた。
「お客様だぜ? おもてなししちゃうぞっ」
「さて‥‥‥お好みをどうぞってね」
腰の両側ホルダーからトンファーを抜いてトレバーが構えた。
他の手は背後に隠してある。
ライトが照らす先から六人程度の一団が現れた。
先頭で走る金属の樽のようなヘルムを被った騎士が盾から剣を抜く。
焦点の定まらぬ目で盗賊らしい男がヘラヘラ笑いながら後を追う。
走りながらも手に持った無数のナイフを巧みに操っていた。
その隣で毛皮に包まれた大男が真っ黒な棍棒を担いで歩いて来る。
「騎士と盗賊、バーバリアンの組み合わせ……強そうだで?」
冷や汗をかくブラウンが呟き、ビビりはじめる。
「アホゥ、今じゃお前の方が格上だぞ? しゃんとせぇ!」
不甲斐無さにジョナサンが一喝するも、次の言葉で絶句する。
「なぁ、一発で連中ぶっ飛ばせる
「却下、いい加減真面目にやれや……たく、最近の若いもんと来たら」
愚痴りながらジョナサンは相手の動きを観察に入った。
狂ったように飛んだり駆けたりしている。……その目論見を看破して笑う。
(こいつら罠の場所わかってんじゃねぇかよ)
巧みに狂人を装っているがその走り方、目の動きには正気があった。
「なんだ、この小芝居集団……ライフルで撃っていい?」
銃をサブアームに持たせようとするトレバーをブラウンがあおる。
「よぉし、トレバー、いっちょ粉砕してみんかぃ!」
「バカタレども、ちったぁ働けや」
飛びかかって来る騎士へジョナサンは真っ向上段で太刀を叩き付けた。
続いて飛び込んで来た盗賊からナイフを連続で投げつけられる。
飛んでくる無数のナイフをトレバーはサブアームで全て掴み、投げ返してみせた。
そのトレバーの頭上にゴツイ棍棒が渾身の力で振り下ろされる。
ガシッと音を立ててトンファーで受け止め蹴り飛ばす。
派手に転がったバーバリアンが驚いて起き上がる。
「とりゃぁ!」
バーバリアンの脇をブラウンが斬り抜けようとする。
それをサブアームの一本に襟首を掴まれ、強引に引き戻された。
「何だ…。……うへぇ」
起き上がった視界には罠が作動し、矢ぶすまになった前衛たちが佇んでいた。
攻撃の踏み込みを全て弾き返され、着地地点を潰された末路である。
だが、その後方には呪文を詠唱する魔法使い達が居た。
「ちっ」
腰に下げたナイフでジョナサンが狙おうとする。
その間に銃声が聞こえて魔法使い達が崩れ落ちた。
「まぁ、緊急的だから良いだろ?」
サブアームのライフルを下ろしたトレバーが笑いながら問い掛けた。
「まぁな……しかし、迂回するか……」
仮にトラップを解除しても次の装置がある。
時間をそれほどかけられないのだ。
仕方なく後ろに戻る一行の背後で影が動く。
矢だらけのバーバリアンが立ち上がり突進しつつ棍棒を頭上へ振り上げた。
「チィ!?」
「あわわわわっ!」
ジョナサンとブラウンが同時に剣を抜く。
バーバリアンの左右で綺麗に巻き打ちを決める。
それでもバーバリアンは止まらない。
標的のトレバーは踏み込み、バーバリアンの棍棒より疾く連撃を叩き込む。
バーバリアンの正中線にある急所五カ所にボボボボボンと強烈な連撃を打ち込む。
派手に後方へ吹っ飛びながらバーバリアンは事切れた。
「流石、武闘家、見事な連撃だな」
「ああ、先生が優秀で可愛いからな……」
見事な技にジョナサンが感嘆の声を上げるとトレバーは笑って同意する。
トレバーの脳裏には華麗に
一行は周囲に張り付く視線を気になり始め、無理せずに迂回する事に決めた。
「雑魚や罠に関わってもむだだな……回るか……」
「そうしてちょ、
「ああ、面倒じゃなきゃなんでもいいぜ」
残る二人の賛同を得てジョナサンは迂回する道を模索する。
後ろに下がり別の通路に入った。
右側に素朴な造りの両開きのドアがあり、何らかの部屋と思われた。
何事もなくトレバーとジョナサン通り過ぎる。
だが、ブラウンとアガト達は興味津々にドアノブに手を伸ばす。
「おい、此処って……」
「開けるなよ。大概、こういうもんはヤバめな罠だ」
「ひっ!」
軽く脅すトレバーにブラウン達は即座に手を引っ込めた。
「フッ、まぁ、お宝さがしや修行目的なら開けても良いがな……今は中央洞だ」
鼻で笑いながらジョナサンは説明をして先を急いだ。
五~六メーターほど歩くと、ギギィーっとおもむろに後ろのドアが開く。
「お? なんじゃ?」
開いた扉を興味深げにブラウンが見た。
扉からは無数のゾンビ、グールが転がるように飛び出してきた。
「んだようるせぇ……あら、やだ……走るぞ」
通路に呻き声が響きわたる。
めんどくさそうにジョナサンが振り向き……即座に走り出す!
慌てて走り出すブラウンが先へ行くトレバーに叫ぶ!
「おい、トレバー! 自慢の銃で全部やっておしまぃ!」
「アホか! 数多過ぎだ!」
三人が走り出すと部屋から途切れることなくわんさか出てきた。
「兄ちゃん! 滅茶苦茶出て来たよ?! けど、遅い! 遅すぎだぃ!」
「ベーだ! 豆殻アタックでもくらぇい!」
パチンコで殻を飛ばしてアガト達が無駄な抵抗をした。
銃弾ならともかく迫るアンデット達にはナッツ殻では無駄であった。
懸命に疾走する中、トレバーが何かを感じ叫ぶ!
「!? とべぇ!」
その言葉にジョナサンは連動し、ブラウンは必死で飛ぶ!
目の前に落とし穴がパックリとその顎を開けた。
なんとか三人とも穴を飛び越える。
ただ、ブラウンだけが爪先で着地し、アガトとトレバーの助けでギリギリ助かった。
「ふーっ、心臓が
「まだ、ヤバイ、急ぐぞ」
後ろを見たジョナサンが急かして走り出す。
その見立ては正しかった。
アンデットが穴へ吸い込まれるように落ちていく。
だが、穴の大きさにも
穴が一杯になるとその上をヨタつきながら追いかけてきた。
「あ!? 渡って来たよ?」
「アガト坊、そんな事教えんといてちょーよ」
アガトの報告にハァハァ喘ぎながらブラウンが泣き言で返す。
とはいえトレバーと違い限界は近い。
いつまでも甲冑をつけて走り続けるのは無理だ。
そこにT字路の差し掛かった。右と左の分かれ道である。
「おい、ジョー! 次は?」
涼しい顔のトレバーが肩で息するジョナサンに尋ねた。
「あ? ちっ、ちーとまってろ」
左右見比べてみてもささっぱりわからない。
迫るアンデッドの群れに足元には青息吐息のブラウンが転がる。
頭を抱えそうな状態にジョナサンはイラつく。
「ちょいと時間稼ぐか……」
キャリアーを転回してトレバーがアンデットに立ち向かう。
その際、ライトが道の奥を照らす……そこでジョナサンが閃く。
「おいトレバー! ライトで右と左を照らしてくれ!」
「お? ああ、ほらよ」
左右を五秒ずつ照らすと即座にジョナサンが決断した。
「右に走るぞ! 急げ!」
へたりこむブラウンを叱咤し、右へ進む。
そして先に見える闇が徐々に近づく。
「闇に飛び込め!」
叫びと共に三人が闇に飛んだ……。
闇の先は大空洞になっていた。
所々で様々な色彩の光点が輝き、点滅をしている。
それはまるで満天の星空が身体を包んでいるようだった。
「うほーっ!?」
「これが中央洞か?」
落下するスピードに興奮しながらジョナサンに尋ねる。
「ああ、闇のようだが覗くと空洞になってて飛んで九九階まで降りれるそうだ」
ライトが当たっているのに闇との距離が短い事に気が付いた。
タイラーから聞いていた空洞の特徴と一致していた。
先の見えない空洞を真っ逆さまに落ちていくのに恐怖はない。
時折、映画のシーンのように魔物と戦う戦士達が視界の端に出る。
不思議な感覚の中、三人は深淵へ沈んで行った。
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