裏切り
バティル城急襲の
現場に居合わせたタイラーに転移魔法の対応を尋ねた所、答えはすぐであった。
「無理だろ~、大陸全土で転移無効にする方法なんてよぉ? 上位精霊級か中級神クラスの
そういう答えであった。
事実、精霊等に救済を願っても答えは無いのだ。
音信はあの邪神の頃から途絶えていた。
彼らへの感謝と祈りの場である祭りは今でも行われている。
但し、慣例と観光資源としての目的として継続しているだけであった。
新調された大広間にて報告を受けた堕天は椅子に腰掛けて溜息をつく。
「結局は対症療法、出て来た敵を叩いてそれまでだ。予防は各々防衛に努めるしかないとは」
一応オカルト系担当のバクシアンを伴い、大首領と今後の戦略を協議していた。
「我々の得意とするゲリラ戦を敵がやるとは……ラゴウと言う男、意外と柔軟性があるのだな」
大首領が感心する様にラゴウを評価した。
王道である正攻法、物量による正面突破を信条にすると思われたからだ。
その余裕にバクシアンが不満を口にした。
「しかしながら大首領、我が方は大佐とウォリアーだけが侵攻作戦とはいささか弱すぎます」
「ああ、指摘があると思いメソッドに
バクシアンの不満に堕天が次の作戦提案する。
だが、製作担当者であるメソッドが会議の時間になっても来ないのだ。
余りの無礼さにヤキを入れるつもりで堕天は自分の副長に迎えに行かせた。
その副長が驚きの報告して来た。
「大変です! 所長の部屋が……ありません!」
「はぁ? 部屋が無いとは……攻撃でか?」
驚くバクシアンが想定できる原因を口にした。
すぐに作業員や警備兵が調査に入る。
しかし、ものの数秒で驚くべき答えが返って来た。
「居室周辺のセンサーを予め改装してあり、メインフレームや警備から分からない様にしてありました」
「所長の居室は中規模な開発工廠になってます。そっくりそのままブロック移動したら流石に目立ちます」
作業員や副長たちは気がついた情報を上げて行く。
そこで堕天が額に指を当てて意見を出す。
「最初から逃げるつもりだったかもしれんな……。作業員は擬装パーツの精査、警備兵は技研に急行、人数点呼を厳にせよ。人質か協力者がいるかもしれん。あとメインサーバーのウィルスチェックを厳重にせよ」
「はっ」
「後は改装担当だった作業員にメソッドの不審な動き、怪しい機材、資材等あれば報告せよと伝えろ」
被害を調べる為に堕天は次々に指示を出す。
暫くのちに大変なことが分かってきた。
損傷のあるエリアを復旧する際の事だ。
資材と作業ロボットと資材の数が圧倒的に足りない事があった。
メソッドの指示で最外部の格納庫において新型兵器建造の為に送られていた。
監視カメラにはミサイル製作を延々と行う偽の動画が流してある。
それと同時にゾッとする事も発覚する。
やはりコンピューターウィルスが本部の全てにばら撒かれてあったのだ。
メインサーバーや設計図のファイルにかなり巧妙に隠されていた。
「現時刻を以て速やかに悟られぬように駆逐せよ。大首領、一芝居お願い致します」
「分かった。ところで格納庫で作られた本来のモノは何だったのだ?」
「暫くお待ちを………大型航空機用反応炉がメソッドの指示で搬入されてます」
端末を操作してデータをかなりの勢いで速読した堕天か答えた。
「敵勢力に航空機参入の可能性が有る。奴の検索履歴を見て調べろ」
「はっ!」
報告を聞いた大首領は即座に看破し堕天は動き始める。
端末を駆使して各方面に指示と状況を把握した。
その横であくびをしながらバクシアンが立ち上がる。
「手持ち無沙汰なので例の格納庫へ向かって見る」
「頼む、居たら縛り上げて連れてきてくれ」
「畏まった」
分厚いガウンを翻しバクシアンは出ていく。
そこへメインフレームに感染させたウィルス数千個を除去したと報告があった。
「まだ足りんな、アイツは相当しつこい。全てのPCを三度、精密にくまなくスキャンせよ!」
「それで済めば良いのですが……」
回線に割って入って来た画像には幾分やつれた顔のメソッドが映っていた。
「メソッド、一体どういった
真顔で堕天が問いただした。
かなり怒っているのは火を見るより明らかだ。
対するメソッドは静かに反論し始めた。
「あのですね。大首領は兎も角、お前ら何様だ? こちらが必死こいて作ったマシン、メカをガラクタみたいにぶち壊して文句垂れやがる。アンタらが要求した規格通りナノミクロンの世界、技術限界の精度で部品仕上げてんのに現場で使わんとは……。舐めているのか?」
「それは計画が……」
「だったら大事保管して使え、貴重な資源だぞ? やはりなめとんのか?」
徐々にヒートアップするメソッドに堕天さえ閉口し始めた。
大首領は恫喝と言う説得に入った。
「それでメソッドよ。お前はあのウォリアーでさえ手を組む状況で私を裏切るつもりか?」
「はい大首領、貴方は本当に素晴らしい。私にとって神でありました。だが、もはやこれまでです」
「その神が戻って来い。と命じてもか? 今なら叱責だけで許すが、動けば即座に死をくれてやろう」
「ええ、構いません、今、私は愛に生きております故」
あのビビりのメソッドが恫喝に屈しず、堂々と言い切る。
だが、次の大首領の言葉に堕天でさえ驚く。
「そうか、そこにいる魔族の女が原因なら私の失策だ。さっさとラゴウと共に殺しておけばよかった」
「なんですと?!」
メソッドの隣でカメラから映らないところに居たルクレベッカも絶句する。
あれからメソッドの部屋に侵入したものの本人が逃げ込んできて鉢合わせした。
ひと暴れして逃げ出そうとしたが、防御用マジックアームで捕縛されたのだ。
メソッドは復旧作業の指示をしながら、手柄にしよう
こんな若い可愛い娘に嘘でもお嫁さんにして……と言われた日には大概、詐欺を疑う。
しかし結婚をとうに諦めていたメソッドには救いの蜘蛛の糸であった。
復旧、改装作業中も格好の目くらましになった。
部品やパーツ、資材をちょろまかしては最優先で脱走用の機体を組み立てさせる。
こうして逃走用航空母艦を作り、脱出を決行したのだ。
「バレては仕方ありません。では……」
「お前の嫁がウチに投降すればよい。それもわからんのか?」
「
提案する堕天を侮蔑の笑いで一蹴し、メソッドは手前のレバーを引いた。
最果ての格納庫が開き、大型航空機が姿を現した。
全長は四百メートル、翼を含めた幅は七百メートルもあるだろうか?
翼に組み込まれたエンジンが臨界に達し、轟音を立て始めた。
離陸距離は足りない、その巨大さゆえにカタパルトも不可能。
離陸など不可能、そう思われた。
ゆっくりと航空機の車輪は格納庫の縁に到達し……宙を飛んだ。
翼のエンジンだけでなく、胴体部から強力な圧力ガスを後方へ一斉放出し浮力を得る。
そのまま飛翔し、上昇して行く。
「済まん。間に合わなんだ」
部下を連れて踏み込んだバクシアンが機体を見つめインカムで伝えた。
「仕方ない、奴の闇を見抜けなかった我らの失態だ」
チャフやフレアを撒き散らしながら必死に逃亡するメソッド機を堕天は見つめた。
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