抵抗軍の騎士
戦士団に担がれた鬼神達は岩山の隙間にある洞穴に運び込まれた。
突き当りは階段になっており下に向かって伸びていた。
下は洞窟になっており、海に面した港に整備されている。
そこには三隻の船が泊まっていた。
一隻はブラウン達と乗って来た船、もう二隻は知らない中型船がいた。
波止場の一角に行くと無数の箱が置かれている。
そこに怪我人や負傷者が呻き声をあげて寝かされていた。
下手な野戦病院よりも粗末な治療現場であった。
「潜水艦基地みたいな造りだな。これじゃ衛星もロストしたかな……」
机の様なベッドに寝かせられた鬼神は岩で構成された天井を見て呟く。
脳震盪から回復した鬼神は変身を解除し、トレバーに戻る。
「兄ちゃんっ! 大丈夫かぃ?」
「怪我していない?」
心配そうなアガトにテュケがベッドに駆け寄って来る。
「おお、大丈夫だ、心配かけたな」
そこに同じベッドで寝かされていた大太刀の男が起き上がる。
「あー、いてぇなこの野郎……このジョナサン・レス・ポール様をタコ殴りにしやがって……」
幾分ムッとした顔のジョナサンが絶句するトレバーを見る。
「いや、いてぇなって……
たんこぶぐらいは出来ているかもしれない頭部を見てトレバーは困惑する。
まともな人間なら間違いなく脳挫傷するレベルの打撃力だった。
それをいってぇなで済まされては改造人間の立場が無い。
「はぁ? テメ舐めてんのか? 抵抗軍最強戦力の一人、ゴッドオブアリーナ《闘技場の神》の俺様がへなちょこパンチで倒れるわけねェだろがぁ!」
またキレ始めたジョナサンはベッドからスタッと降りる。
怒号に気が付いたブラウンが駆けこんできた。
「ちょう待ったってジョナサン! こいつ
怒れるジョナサンとトレバーの間に割って入り必死に弁護を始めた。
しかし、お互い引っ込むことはしなかった。
「んだよ。ブラウン、こいつ知り合いか? やけに撃たれ強いのは脳筋だからだろ? なぁ?」
「脳筋? そりゃいい誉め言葉だねぇ、" オデにガチ殴りされて "……ってか? あんなもん屁でもねぇよ!」
「おみゃーら!
お互いに挑発を始めるが、間で四苦八苦して宥めるブラウンを無視して対決を始める。
「どけ、ブラウン、こういう馬鹿は凄さよりどっちがつえぇか勝負した方が分かりやすい」
「へぇ、どこぞの大口
大口魔術師と言われてトレバーの脳裏にバティル城にいたあのイラつく魔術師が浮かぶ。
「大口……奇遇だな俺も良い印象が無いと来た。……あのオレンジジュースオヤヂめ……」
オレンジジュースと聞いたジョナサンの顔に困惑と怒りが混じる。
「何だと?! お前、タイラー・シンクレアの知り合いか? てめぇ手下かなんかか?」
「あ? 失礼だなてめぇは?! ちげぇよ。知り合いっつーか、バティル城で魔法について尋ねただけだ」
「ふん、あのたい焼き泥棒、いつか焼き入れてやる!」
たい焼きに言及したした時点でタイラーの知り合いらしいと判断した。
情報を聞き出すべくトレバーは聞き手に回った。
「アンタ、おっさんと因縁でもあるのか?」
「おう、あの糞野郎、大好物のたい焼きを訓練後のおやつにとって置いたら……全部残さず貪り食いやがった。俺の楽しみを……」
「シンクレア師とジョナサンは若いころに組んでてな、どえりゃー暴れまわってたんだて……けどいきなり別れたんだわ……」
経緯をブラウンが話し出す。
どうやらタイラーと好物が被るらしく、争奪戦が毎度起こるらしい。
「そら、タイラーのおっさんが悪いな……人の好物を全部喰っちゃぁだめだな」
「おお、お前よくわかってんじゃねぇか! 奴は人としてダメだな!」
我が意を得たジョナサンが頷いてトレバーの肩を景気良くパンパンと叩く。
そこに置いてけぼりにされかかったブラウンとアガト達が突っ込む。
「おい、おみゃーら、勝手に納得してんじゃねぇーて!」
「兄ちゃん! オイラ達忘れちゃだめだよ!」
「お? おお、悪いな……兎に角、至急ここを引き払った方が良い」
ツッコミに現実に引き戻されたトレバーはいきなり無茶な進言を始めた。
「何でだて! おみゃーは!? やっと船員さんたち一息ついたんだでよ?」
「いや、ブラウン。こいつの言うとおりだ。俺らさっきノイン・テーターとやり合ってたからな」
「はははっ……ジョナサンがジョーダンを……ふぁっ!? ぶっ! 部隊長っ! 船長!」
ジョナサンの口添えするもブラウンは最初、冗談かと思ったが事実と分かる。
次の瞬間、真っ青な顔でブラウンが走って船長の所へ向かう。
それを見ながらジョナサンはトレバーに細いが硬い印象の手を差し出す。
「はっはっはっ、あのおっちょこちょいが……俺はジョナサン、お前は?」
「俺はトレバー。トレバー・ボルタック、別名で鬼神大佐と呼ばれてる。よろしくな」
がっちり握手を交わし微笑む。
そこに船長たちが慌てて走って来た。
「トレバー! スキュラの次は
「ジョナサン! おみゃーは
部隊長らしき外套状の遊牧民みたいな長衣を着た髭面男が怒り出す。
「いや、あのままここに入ってれば俺ら全滅してたぜ。アイツ、外に兵と共に伏せてたからな」
「マジかてーっ!? つか、俺らもう死んでたん?」
髭面がそっくり返って驚く。
それを見たトレバーはストレートに答える。
「おう、カウンターで蹴散らしてやっただけだ。態勢整えたらまた来るぞ」
『撤収! 重要物資や怪我人を載せろ! 出直しだて!』
『全乗組員は詰み込み終わったら即、出航するぞ! もう知らん!』
答えを聞いた途端、涙目で船長たちは周囲に聞こえるデカい声で緊急指令を出す。
乗組員や兵士、戦士達が一斉に大慌てで動きだす。
「さて、俺らも動くか、水と食い物をついでにくれ。三人分な」
「おう、分かった、まっとれて」
トレバーの頼みにブラウンは素直に聞いた。
それを不思議に思ったジョナサンが尋ねる。
「ん? 戦闘前に三人前も喰うのか?」
戦闘前に前衛担当は腹一杯になるのは動きが悪くなるので嫌がる。
それをトレバーは無視したと思ったのだ。
「いや、もう二人前はこいつらの分だ」
横に腰掛けるアガト達を見る。もう昼時だ。
「ああ、そうか、それは大事だな」
「お前さんもたい焼きくっとけ、力でねぇぞ」
「だな、おーい、ブラウンたい焼きも寄越せー!」
お互い笑いながら見張り台に歩いて行った。
船員に見張りに立つ事を告げ、ジョナサンが先頭に立ち階段を登る。
そこでトレバーは疑問に思って居た事を口にした。
「なぁ、ジョナサン、聞きたいことがあるんだが良いか?」
「おう、何でも聞けや」
「お前最初にゴッドオブなんちゃらって言ったよな? あれって二つ名かなんかか?」
「はぁ? いきなり何を言うかと思ったら……あれは位階みたいなもんだ。つか、お前なんも知らんのな……職業だぜ。それはな」
先へ行くジョナサンにトレバーが尋ねると半分納得、半分呆れたように説明し出した。
戦士系の職業は途中で三つに分岐する。
最初は魔術師のようにビギナー・ノービス・アドバンスに進化する。
そこを超えると初めて一人前、ファイターとして認可を受ける。
問題はその後だ。
「修める武器や条件に応じて職業が変わるんだよ。めんどくせぇだろぉ? どこのバカが考えたか知らねぇがね」
説明を始める前にジョナサンが笑って切って捨てた。
位階はレベルみたいなものだが職業はクラスである。
扱える武器や鎧、技術を意味していた。
剣を修める事を選ぶと一介の
一刀流や二刀流を修めるのである。
経験や技は戦場や闘技場、ギルドの任務の実績を積むことで職を上げていく。
ソードファイター、ソードウォリアー、最後には
またあらゆる武器習得を選択すると
剣と盾、弓、銛、短刀等様々な武器を使いこなすのだ。
それを駆使し闘技場で勝利したり、任務を遂行すると職も上がる。
グラデュエーター・ウォーロード・ゴッドオブアリーナがそれだ。
「へぇ、最上位じゃねぇか!? そりゃ御見逸れいたしました」
「よせやい。だが、こいつが最上位じゃない。まだ他の系統がある」
茶化すトレバーにジョナサンは謙遜をしながら話を続けた。
武器の中でも槍に特化するとナイトとなる。
ナイトは任務と戦場、それと
ハイランダー・パラディン・ナイツオブアラウンドと進化する。
「ほうほう、ブラウンがそれだな?」
「ああ、そうだ。まぁアイツは方言きつくて万年ナイトだけどな」
トレバーが例を上げるとジョナサンが笑って肯定した。
そうしている内に階段を登り切り、見張り台に立つ。
海を背にした岩山に立つ、それ以外はほぼ黄土色……砂漠であった。
乾いた風が砂埃を起こして走り去って行く。
「ジョナサン、それでお前さんナイトに行くのか?」
「いや、ナイトは終わらせた。その三系統を修めたらその先がある」
砂漠を見渡しながらウォッチが振動した事にトレバーは気が付く。
衛星とのリンクが戻った合図であった。
「その三つを終わらせるとな、特化型最上位になれるんだ」
「へぇ、最上位って?」
ジョナサンは複雑な表情で話し出した。
特化型と言うのは魔法を付加して攻撃する職業であった。
多彩な魔法剣を使う万能型剣士、ルーンフェンサー。
聖霊力を纏いし、神の使徒、アンデッドバスター。
その三つに分かれる。だが、ジョナサンはまだ迷っていた。
「だってよぅ、俺、神の使徒ってがらじゃねぇしな。ルーンはあのクソタイラーと被るのは御免だから…・‥ダークロードがベストなんだけどなぁ……」
「なら進めばいいじゃん」
「いやぁ、大成した奴は初代しかいないんだよ。ハードだぜ? ダークロードって」
特効対象が多い魔法や聖霊力と違い、気合いのみで戦い抜くのは至難の業だ。
欠点が多い職は淘汰されていくのが定めだ。
それでも挑む者が出るのは武芸者の性ゆえにか?
己が身体一つで極みへ挑む……その精神が高みへ導く。
「でも二つ消えたら、一択だろ? 大丈夫だ。お前さんなら初代を超えれるさ」
悩むジョナサンにトレバーは笑顔で太鼓判を押す。
何故なら
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