偶然と言う魔

治癒しかかる前に鬼神はランチャーとグレイブをひっつかむ。

一度苦しむ犬の頭部を足場に顔面へランチャーを連射し跳んだ。


「これでどうだっ!」


苦しむ喉元へレーザー刃を展開したグレイブでザックリと一閃し、鮮血を噴出させる。

返す刃をそのまま心臓へ突き立てて抉ると柄を蹴り込んでトドメを差す。


「ふん!」


そして、胸を蹴り飛ばして甲板へ着地した…。

振り上げたその視界では愕然とする光景が起こっていた。

ジュクジュクと泡を出してパックリと開いた傷口が埋まっていく!

胸のグレイブが溶けて爆発し、ポロポロと吐き出すように破片が落ちる。


「チィ、体内からぶち破るか!」

「まてまてっ! 喰われちゃ意味ねぇだろが! 逃げるぞ! ああいう手合いは魔法か魔法剣でもありゃ別だがな」


船長がはやる鬼神を止めて転進を指示する。


「魔法? んなもんありゃ苦労しねぇよ!」


そう返した鬼神は城でタイラーに言われた事を反芻する。


(お前にゃ、無理だ……んなこたー分かっているよ!)


 マシンガンを手に取り、マガジンを交換して撤退の時間を稼ぐ!

対するスキュラはまだ不調らしく、手を伸ばして覚束ない足取りで迫る。

回復するのは時間の問題であった。


転進する船尾で鬼神はマシンガンを構える。


「ぎゃあぁぁぁぁぁっ! 放せぇ!」


構える横を舞い戻って来たハーピーに掴まれたブラウンが連れ去られた!

自慢の銘剣をいくら振り回しても当たっていない!


「ブラウン?! 待ってろ!」


 鬼神が追いかける様に飛ぶ!

しかし、鍵爪を離されたブラウンは真っ逆さまにスキュラに向かって落ちていく!


「うわぁぁぁ! たーけかぁ!? ここで放すなぁ!」


剣を振り回しながら我侭にブラウンが叫ぶ!

焦った挙句に剣がすっぽ抜け、目に剣がサクッと刺さる。


「オ、グァァァッァッ!」


乙女と言うには野太い、捩じれた悲鳴を上げてスキュラが顔を押さえる。

その指先にブラウンが辛うじて引っ掛かった。


「ひやぁぁぁぁっ!?」


 涙目のブラウンがスキュラの苦悶に振り回される。

跳躍の機動が修正できない鬼神は振られた髪の毛を必死に掴む。

振られた勢いを使い、指先のブラウンを捕まえた。


「捕まえた……?! クッ!」


 握り込まれる指に気が付いた鬼神は咄嗟にブラウンを上空に放り投げた。

鬼神を握り込んだ指の上に尻もちをついたブラウンは視線を感じ振り向いた。


「おい! 何だてぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」


怒りに満ちた片目で凝視するスキュラが居た。

閉じられた眼にはブラウンの剣、青龍の剣が溶けずに刺さっている。

休む暇もなく尻の下から猛烈な衝撃が突き上げられた。

それが、二度、三度と連続で来る。


「ひぃぃぃぃぃっ、まー、勘弁してくれてーっ!?」


身の危険を感じたブラウンが混乱して身近にあるスキュラの鼻先に飛び付く!

その途端、叫びと共に握られた手の甲が爆散する。


「馬鹿野郎! 俺はバッタじゃねぇぞ!」


 中手骨の間から血塗れの鬼神が顔を出し、指の上に飛び上がる。


「おい、もう勘弁してくれてぇ! 帰らしてちょー!」


涙目で哀願するブラウンを鬼神は何かに気が付き叱咤する!


「おい! ブラウン! 目の前にあるお前の剣を抜け!」


右手の先には剣が溶けずにそのまま目に刺さったままだった。


「抜けばええんだな! ほら抜いたで、帰ろまい!」

「それを俺に貸せ! 俺がやる!」


 ブラウンを急かして剣を抜かせ、こちらへ投げさせる。

それを受け取って構えた瞬間、鬼神は違和感を覚えた。

光り輝いていたサファイアが急速に鈍い輝きになる。


(なに、この感覚! 使えない?!)


受け取った剣は握ると直ぐに覇気を失った人間の様な雰囲気を出す。

そして手が動くのを察知しブラウンに投げ返した!


「ガッァッ!」


投げ返した所を鬼神はバシッと首だけ出した状態で握られ身動きが取れない。

だが、剣はなんとかブラウンの目の前に刺さった。


「おい! あぶねぇがや!」


 文句を言うべく振り向くがその相手は苦悶の呻きを上げていた。

怒りを込めて握り締められ、鬼神は全力で振りほどこうとした。

だが、全身の骨格と強化服が悲鳴を上げる。


「ブ、ブラウン! その剣でたっ、戦え! どこで、も良いから斬れ!」


必死に抗いながら鬼神が指示を出す。


「えっ!? いや、無理だがね……」

「むっ、無理でもやれや! 死ぬぞ!」


戸惑うブラウンに対し、己の直感を信じて鬼神は叱咤する。

握り潰されそうな鬼神にブラウンは仕方なく腕を伸ばし剣の柄を握った!

蒼き宝珠に豊かな輝きが戻り、易々とスキュラの目元に捻じ込まれる。


「オグッぅ」


感覚器の近くにを打ち込まれたスキュラは苦痛に握った手を緩めた。

その隙に鬼神が抜け出し、ブラウンを払おうとした手を蹴り飛ばす。


「今だ! 目を刺せ! 視界奪えば俺が連れて逃げるぞ!」


剣で付けられた傷に手を突っ込んで鬼神が叫ぶ!


「ええぃ、やったるがやっ! 見とけよ!」


焚き付けられたブラウンが叫びながら目に向かって飛んだ!

白刃が深々と眼球を瞼ごと横一文字に切り裂く!


「あぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 両目に大ダメージを受けたスキュラが悲鳴を上げてのた打ち回った。

その隙に鬼神が落ちるブラウンを抱え込み、岩場に向かって飛ぶ!


「あかんておちるてもうダメだて」

「うるせぇ! 黙ってろ!」


肩に担ぐファイヤーマンズ方法キャリーに空中で持ち替え着地する。

救出に来た船を見つけるとそのまま向かって飛ぶ。


「よぉし! こんな糞博打打てる船長は……エライ!」


 跳躍しながら再度転進の判断した船長を鬼神が絶賛する。

二人が甲板に着地した途端、大声で船長が号令した。


『帆を張れ! 全力で逃げるぞ! これで俺らは伝説の船乗りだ!』

『おう‼』


 興奮した船長のあおりに船員たちが応える!

伝説の魔獣、スキュラ相手に一人も犠牲を出さずに撃退したのだ。

陸地に降りたら一躍有名人扱いだ。

その中で一番の英雄であるブラウンはへたりこんでいた。

おもむろに後ろのしぶきを上げて暴れるスキュラを呆然と見た。


「なぁ……なんでワシにやらせたんだ? おみゃーがやればええだろ?」


半分恨み、半分理由が効きたくなって変身を解いたトレバーに尋ねる。


「お? ありがと、なんでかって? それじゃお前の剣を抜いてみろ」


 手ぬぐいと果物を持って来たアガト達に礼を言ってトレバーは答えた。

意味が分からんという表情でブラウンは剣を抜く。

その動きに船長や船員たちが集まって来る。


「その青い宝珠の輝きを見てみろ、光っているだろ? じゃこれ斬ってみろ」

軽い動作で黄瓜の様な果物を投げると持っているだけでスッと両断した。


「ウチの銘剣は包丁じゃにゃあでよぅ?」

「知っている。じゃ、剣を貸して俺に投げてくれ」


今度はトレバーが剣をかざし、それに対しブラウンが黄瓜を投げる。

黄瓜はスッとは切れず、半分を刃に食い込ませて甲板に落ちた。


「それはおみゃーが下手……ん?」

ブラウンが文句を言いながらトレバーに近寄る。

しかしトレバーは輝きを失った宝珠を指差していた。


「お? どうなってんだ?」


訝しがる船長にも剣を持たせる。トレバーよりも輝きを取り戻す。


「これは俺の推論だが、この銘剣、特に宝珠は魔力増幅装置のような働きがあるのかもしれん」

「だで、なんだて?」

「それにより魔力を刀身に注入し、化け物斬るって奴じゃねぇか? 魔法剣の簡易版みたいな」


トレバーの推論に船長が意見を付けたす。


「まぁ、それは分かった。それがスキュラに効くってよくわからんて……」

「俺にも分からんが、魔力には弱いのかもしれん。まぁ、俺にはからきしないがな」


へたりこむブラウンの疑問にトレバーは推論だけ言って自虐で締めた。

魔法装備の重要性を自覚しながら……。








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