復旧する悪魔たち

 本部に戻った堕天は待っていたメソッドと共に被害状況を視察した。

ラゴウによって破壊された施設や人員達をみて苦笑する。


「あのウォリアーに侵入されてもここまでの被害は無かったな」

「そうですね。基地を自爆は勘弁ですけどね」


 黒焦げになった戦闘員の指を足元にみながら堕天はメソッドの嫌味を聞き流す。

奥まで敵を誘導させ自爆する罠は各支部や前線基地でのお約束定番の罠と言えた。

しかし、裏方であるメソッド達は大首領に自爆禁止の嘆願していた。

自爆の度に貴重な資源や機械を失うのは組織運営にとり痛手なのだ。

そこで敵侵入時に研究、工房、工場、倉庫のエリアは分離可能する。

短距離の独立移動が可能であり、無事なエリアを回収して次の基地に接続させるのだ。

だが、流石にこの世界ではその選択もできない。

一周見て回ったが被害は甚大であった。


「堕天、被害状況は?」


 頭上のスピーカーから大首領の声が響く。

その途端にメソッドが直立不動になる。


「はっ、かなり派手にやられております。メソッド、復旧の目途は?」

「はい、三フロアと監獄、簡易医務室棟が消失しております。通路だけなら一日、フロアも含めますと三日は掛かります」


堕天たちの報告を聞き、大首領は腹立ちながら指示する。


「ええぃ! 忌々しいっ! 報復ついでにICBM大陸間弾道弾を直ちに奴の居城に撃ち込んでやれ!」

「お言葉ながら大首領、核資源入手に建造で修復が遅れます。何卒……」


メソッドがおそるおそる嘆願をした。

そこに堕天が加勢する。


「大首領、私からも御再考願います。それと大佐達が今、基地潜入を防ぐ手段があるとの事です。対策を建材に組み込む時間をお願い致します」


到着した直後から堕天はトレバー達のやり取りをイヤフォンでモニターしていた。


「ほう、防衛策があると?」


その報告に大首領も興味が出たらしい。


「はい、まず簡単な所では塩、鋼鉄を建材に混ぜて使う、混ぜる事で大概の呪力や魔法を弾くとの事です」

「むぅ……塩ですか……配合比率は?」


報告を聞いたメソッドが困惑しながら尋ねた。


「強度に問題ない濃度で混ぜ込むしか無かろう。鉄も全エリアに組み込めるほど総量があるわけでもないからな……」


堕天も正直どの程度が正解か分かりかねていた。


「他には何かないのか?」


大首領がイラつきながら問い質す。

丁度今聞いている最中らしく間をおいて堕天が答えた。


「後は……ブラックトルマリンを埋め込むのだそうです」

「メソッド!」

「はっ、西の岩盤層に鉱脈があったかと?」


返答を聞くや否や大首領がメソッドに答えさせた。


「それを丸ごと掘削、塩と共に全フロアとエリアにコーティングさせろ」

「ははっ、三日で工程を終わらせます!」

「急げ!出来次第、重要施設から開始させよ!」


 大首領の檄が飛ぶ。

今回は二人でこの被害だった。

次回は軍で襲撃されればひとたまりもない。


「それでは応急的に大僧正に防護の祈祷させてみては?」

「うむ、私から言っておこう。大佐には事後処理が終わったら別の大陸に行かせよ。キルケーは城に駐屯だ」

「はっ、仰せのままに」


堕天の提案を大首領は承諾し、トレバー達に指示を与えた。

謹慎中のクリムゾンは遊撃用として本部付きと大首領の裁定を受けた。


 会議を終えた堕天はそのまま研究エリアに向う。

白色に統一された部屋に入ると巨大なガラスの筒が無数に並んでいた。

薄黄色い液体が充填されており、中には人が浮かんでいた。

無数のコードやホースが口と鼻、股間に装着され立ったまま浮かんでいる。

それを眺めながら奥に歩いていく。


奥の広くなったエリアに手術台と機材ケース、そしてコンソールが設置されていた。

その周囲を研究員が忙しそうに準備作業していた。


 白帽付きの白衣に赤いラインが三本はいった研究室長が堕天に頭を下げる。


「博士、言いつけ通り準備が整っております」

「ああ、ありがとう、室長、済まんが計画を見直しするよ」


指示通りの待機していたスタッフはその宣言を聞いて緊張が走った。

何かヘマをした奴がいる。

そのような場合には叱責、試作体として改造されるのだ。

全員ビクビクしながら堕天を注視する。


「君、素材のデータと試作プラン・ヴァージョンⅢの適合シミュレーション結果を出してくれ」


指示を受けたコンソール要員がビックリしながらもモニターに結果を出す。


「ふむ、かなり適合率も高いな……予想通り試算結果も好結果だ……」


モニターを見ながら堕天はしばらく考える。

どうやら今回はヘマではないらしい。

全員安堵の息をつく……。

しかし、これからが問題だった。


「それでは今からヴァージョンⅢ、ナノテク技術による人体改造実験を始める。まず捕らえた山賊、盗賊を被験体とする。その際、魔法が使えるものは後回しだ」

「畏まりました」


 室長は頭を下げたが、そこでピタッと動きを止めた。

対象の被験者は百数体も居たからだ。


「博士、どの程度被験者を用意しましょう?」

「勿論全部だ。ウォリアーは兎も角、大佐傑作を超える作品を造るのに出し惜しみは出来んよ」


 その言葉に研究員たちが凍り付く。

これから百数回、人の死に様を看取ることになる。

ある者は必死に命乞いをし、ある者は決死の抵抗を始める。

涙ながらに身代わりを志願する者もいた。

数日間それを繰り返すのだ。

うまくいけばホッとはする。

だが、その人間は既にヒトではないのだ。

空気を察した堕天は手を叩きスタッフに活を入れる。


「何をしている! 試作を始めるぞ! まずコイツらからいくか、モニターを始めてくれ!」


 堕天はツカツカと並んだガラスケースに近寄った。

中に浮かぶ男たちを見る。

男たちは全員、頭髪や髭を綺麗にそられていた。

それでも貧相で下衆な性格は見て取れる。

その顔は川縁でトレバー達に絡んで一蹴されたあの山賊たちだった。

ごく普通に堕天は素体山賊を観察しながら開始の合図を出した。

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