放浪変
戦後処理にて
緊急転移したワーズと
先の駐屯地、大陸北東部の平野に戻ったのだった。
本来は拠点に早急に戻る為の道具であったが、今は追撃へ予防策の為だ。
そしてワーズと共にバリアスは王宮に移動した。
ワーズの誘導で王宮に着くと戦闘装束のまま玉座の間に向かう。
宝玉の映像でしか見たことのない風景が既視感となりバリアスを包む。
ラゴウとの直に謁見するのは初めてである。
すると椅子に座り、歯嚙みしながら机に広げた地図を見るラゴウが居た。
レーザーで焼かれた痛みはとうに消え失せた。
だが、大首領にしてやられた屈辱は癒えてはいない。
「陛下、バリアスと共に帰還しました」
「うむ、ワーズ、バリアスご苦労、相手はどうだった?」
ワーズ、バリアスが片膝で控えつつ報告した。
「
「貴様ほどの使い手の懐に入り、組技を使う……中々の戦士だな」
鬼神との戦闘を観察したモンスター、マジックアイが数十体並んでいた。
大きな目玉に甲虫の後翅のような羽根を休めている。
どうやら鬼神との戦闘を観察していたらしく、屈辱でワーズの顔が歪む。
「次こそは奴の首を刎ねてご覧に入れます!」
真剣な顔で決意を口にするワーズの肩をポンと叩いた。
「期待して居るぞ。ワーズ」
珍しい言葉で返すラゴウはワーズの後ろに固まるように控えるバリアスを見た。
「ではバリアス、軍団長の任を解く」
「ハッ」
短く答えると処刑の宣告と思い、バリアスは目を閉じた。
「三週間くれてやる。直ちにノインの所へ赴き、
横で控えていた侍従長がトレーに載せられた二本のスクロールを差し出した。
驚くバリアスはスクロールとワーズを繰り返し見る。
突然の修行指令に仰天する間もなく二つ目の指令が下った。
「生き残りの魔術師団から有望そうな輩を五名、厳選し修行させよ」
「は、畏まりました」
頷くとバリアスは再び恐怖に襲われた。
ノイン・テーター公の直下魔術師団は練度も技術も
テーター家は魔界屈指の術者の家系である。
その配下ともなれば並みでは務まらない。
毎日、共食いと称される命懸けの訓練と修行の日々で鍛え上げられた精鋭であった。
(処されていた方がよかったのかもしれん……)
嬲り殺しの予感にバリアスは内心呟いた。
そこに事態を悪化させる知らせが届く。
「陛下、伝令が火急の知らせを持って参りました」
「……なんだ?」
「マンダゴアに待機中の魔術師団がたった今全滅しました」
「「なんと!」」
報告にワーズとバリアスが愕然としながら聞き返す。
別れてから十数分しかたっていないのだ。
「何があった? 詳細に話せ」
「ハッ……恐れながら……」
ラゴウに射竦められた伝令兵はおそるおそる話し出した。
バリアス達が報告に行った直後、師団は負傷者の治療と休息に入った。
そして大陸に展開中の遊撃、斥候部隊が再編成のため順次集結する。
戦場や敵陣からかなり離れ、追撃の心配はないはずだった。
師団の魔術師たちは完全に気を抜き、休息に入る。
師団陣地に
それが何かと分からぬまま、師団中央に複数着弾した……。
地獄絵図と化した現場の一部始終を到着寸前の斥候部隊が見ていた。
そしてラゴウへ緊急の伝令に来たのだ。
「分かった……残存兵は沿岸部にて各隊、距離を取って待機せよ。船を向かわせてガマッセルまで一度引く」
殲滅を貫徹する科学技術と戦力にラゴウは撤退指示を出すのが精一杯だった。
対策の抜本的な練り直しをするため、ガマッセル辺りで再編を決定する。
一方、巡航ミサイルで殲滅完了の報をトレバーは城下町を凱旋中に知った。
大歓声が轟く城下の大通りをラクウェルやシモン達が先頭に進む。
兵士たちが馬に乗って行進するその後ろを輸送車でついていく。
ハッチに腰掛け、膝の上にはアガトとテュケが目を輝かせて周囲を見渡す。
(しばらくは防衛策に追われるか……)
勿論、魔王軍が引き下がった事は知らない。
勝っても次の対策をするのが幹部の役目だ。
同じように周囲を観察しながらトレバーは今後のプランを考える。
ウチの戦闘員中心での白兵戦なら現時点は有利だ。
殺傷力もあり、銃器は詠唱より速く射程も長い。
ただし、魔法への対策が急務だった。
先手が取れればまず勝てるが、取れなかった場合は此方が壊滅しかねない。
一撃の破壊力が半端ないのだ。
そして進攻の主軸になる怪人部隊や機甲兵団に対策を施さねばならない。
頭を悩ませながらそぞろ心に手を振る。
「トレバー、無い知恵絞ってどうしたの?
傍らにて慣れない笑顔で愛嬌を振りまくキルケーが早口で尋ねた。
「ああ、今後の戦闘プランだよ。魔法がどうにもねぇ……」
急かされて愛想よく手を振るがどうにもさえなかった。
「そんなの博士と和尚に任せたら? アンタみたいな脳筋が頑張っても熱出すだけだよ」
「言ってくれる……まぁ、任せるしかねぇな」
キルケーの毒舌アドバイスをトレバーは苦笑で受け入れた。
大通りは深い堀に突き当たった。
堀には鉄製の跳ね橋が降ろされており、それを渡って城内に入る。
そこには渋い顔のフレアーとリチャードが出迎えていた。
「陛下! 玉座で吉報を待てと申し上げていたのに! 叔父上、何故止めてくださらない!」
「姉上、命懸けで国を守った兵士に対し、王として感謝するのがなぜいけないのですか?」
苦言を呈すラクウェルにリチャードは必死に食って掛かった。
そこへ降りて来たトレバーが挨拶を始める。
「ちょいと失礼、堕天博士に聞いてると思うけどジャクルトゥ特別攻撃部隊デスブリンガー、隊長トレバー・ボルタック、只今推参した」
「貴様! 無礼であろう?」
説教を始めそうなラクウェルがトレバーに食って掛かった。
「ああ、そうだよ。無礼は承知の上だ。とにかく残務処理だ。上がらせて貰うぜ」
強引にリチャード達に協議の間へ案内させた。
(たく、器用なようで不器用なんだから……)
人間、誰しも人前で説教や罵倒されれば傷つく。
幾ら王の姉とは言え、人前で叱られれば少年王は立場を失う。
そこを無礼なトレバーが悪役になり事を納める。
キルケーは分かっていた。
公開説教で傷つけられそうなリチャードの尊厳を守った事を……。
(あたしの紹介をスルーした代償はして貰うけどねぇ)
後でどのような奉仕して貰おうかキルケーは内心ほくそ笑む。
協議の間に入るとトレバーは一礼し、謝罪した。
「リチャード王、ラクウェル殿、無礼の段、平にご容赦を」
「トレバー隊長、
リチャードの返答にトレバーは堕天の言葉を思い出してゾッとした。
トレバーがとった行動の意味を悟っていたのだ。
(成程、コイツは傑物だ)
内心、感嘆したトレバーは気を引き締めた。
そして空気を入れるべく、後ろに控えるキルケーを紹介する。
「陛下、護衛担当を紹介いたします。我が組織の潜入工作部隊ブルーローズ隊長、キルスティン・パーシーでございます」
「キルスティン・パーシーです。お見知り置きを……」
キルケーも一礼し自己紹介を済した。キルスティンは本名だが名字は偽名であった。
「キルスティン隊長、よろしくお願いいたします」
リチャードは利発そうな笑顔で挨拶をした。
(あら、可愛い……将来、この子絶対モテるわ)
キルケーはその利発さと細やかな気遣いに
挨拶を済ませるとトレバーは早速、懸案事項を協議する。
「さて、先程、ウチの方で逃げた敵を殲滅したと連絡がありました」
「おお! これで一安心ですな?!」
フレアーが歓喜の声を上げた。
各地の治安や税収などの案件がようやく着手できるからだ。
「まだですよ。海岸線に撤退する小部隊が点在している。船に乗ったら沖合で撃沈して全滅させます」
トレバーはリチャード達へそう宣言した。
移動手段も潰せば次の上陸まで少し時間が稼げると踏んだ。
「トレバー殿、我々は何を……」
リチャードは言葉の苛烈さに息を飲みながら自分達のすべきことを尋ねた。
「城壁修復と改築はメソッドのスタッフとクリムゾンの手下にやらせるとして……ラクウェルちゃんよ」
「ら、ラクウェルちゃん?!」
トレバーにいきなり気さくにラクウェルを呼んだ。
途端にラクウェルが顔を真っ赤にして怒り出す。
「申し訳ありません! トレバー!」
キルケーが慌てて取りなした。
だが、トレバーの無礼は止まらない。
「んなこまけぇこたーいいんだよ。魔法に詳しい奴、専門家が居たら紹介してほしい」
「ぶ、ぶ、れいものぉぉぉっ!」
激昂し柄に手を掛けた瞬間、柄先をトレバーはスッと人差し指で優しく押さえた。
「ラクウェルちゃぁぁぁぁん? ダメよぉ? 軽ーい挑発にちょろーく乗るのは……あんたぁ防衛の要だぜ?」
微動だにしない剣に悪戦苦闘しながらラクウェルは悔し気にトレバーを見た。
「き、きさま……」
「俺らは次の大陸に向かう。防衛より攻めた方が性分的にストレスが無くていい。だが、盟友であるアンタ等が間抜けだと困るんだよ」
真顔でトレバーは苦言を呈した。
性格と行動分析は既に堕天の部下から詳細が知らされていた。
最大の戦力であり、欠点にもなるのはこのラクウェルだと指摘されたのだ。
真っすぐでさっぱりとした男勝りの気質は兵士や国民には人気が高いだろう。
だが、策略、戦術面では短気で単純すぎるのだ。
これでは魔王の策に簡単にハマるだろう。
勿論、ジャクルトゥにとっても美味しい欠点でもあるのだが……。
「リチャード王、提案がある。ラクウェル将軍をここの守備に、治安維持は地方の資源や地理の研究がてら我々に任せてほしい」
「なんだと!? もう一度言ってみろ!」
リチャードに配置の提案をトレバーが行うとラクウェルが食って掛かった。
「分かりやすく言わせて貰う。短気なアンタはお留守番で切り札、俺らはお勉強、お分かり?」
「ちょ、ちょいトレバー!」
不要なトレバーの挑発をキルケーが諫めた。
城にラクウェルを固定するのは治安維持に必要な兵の損耗を防ぐのもある。
しかし直情径行なラクウェルは通報があれば即動してしまう。
狡猾な相手なら不覚も有り得る。
だが、本音はもう一つあった。
最大の目的は盗賊や山賊、反乱分子を捕獲して改造する為だ。
討伐し、死体ごと消えても相手は賊だ。
誰も追及しない。
ジャクルトゥも本部襲撃で貴重な戦闘員達を失った。
それ以前に
人材不足は深刻であり、解消に動いたのだ。
「分かりました。姉上、叔父上、宜しいか?」
「財政方から異存はございません」
リチャードの同意を求める声にフレアーはすぐに同意した。
領土である大陸全土を完全平定するのに莫大な労力と費用が要る。
ジャクルトゥの提案は大助かりだった。
ただ、散々舐められたラクウェルは不機嫌そうに腕を組む。
「断る。我々の国は我らが守る。それが筋だ」
「確かに、だが、アンタがやられたら俺らは切り札を失うだけではない。特に王は側近、右腕を失うだけじゃない。これが何を意味すんのかわかるよな?」
ラクウェルの拒否にトレバーが徐々にドスを効かせて詰問し始めた。
「ああ、だが、貴様に……」
「貴様、この子を独りぼっちにすんのか?」
リチャードをチラッとみてトレバーは抗弁するラクウェルに低い声で一喝した。
「うっ……」
自分の感情で突っ走ったラクウェルは見事に急所にカウンターを貰った。
「そういうこった。ラクウェル、しばらく戦力増強しろや。俺らも助ける」
ラクウェルを制したトレバーは優しくその場を締めた。
その背後で余分なストレスを受け、イラつくキルケーの存在を忘れて……。
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