決着の時

 バティル城前での鬼神とワーズの戦闘は続いていた。

周囲のホブゴブリンや偽魔術師を巻き込み、無数の死を振りまく。


「ハッ!」


高速横薙ぎで襲い掛かるワーズの剣を鬼神は飛びのいて避けた。

ギリギリで避けられるほど相手の技量は低くない。

事実、避けたつもりがスーツの一部が薄く裂かれてギョッとした。

また、帯電した刃によりスーツに異常が出れば死が待っている。


 そしてワーズも横に剣をシュバッと振った後、飛びのいて間合いを取る。

大振りになった瞬間に踏み込まれて拳や蹴りが急所に飛んでくるからだ。

また、避けた不自然な体勢からの攻撃を何度か防御した。

攻撃での手が痺れる程の衝撃はヴァンダルと手合わせした時以来だ。


 二人がこう着状態の間、戦況は刻々と変化していく。

まずホブゴブリン達と偽魔術師団はほぼ数体を残して壊滅していた。

それは鬼神とワーズの至近距離に居て、攻撃のあおりをモロに受ける。

パンチの盾になったり、突き飛ばされて後ろから斬られたり惨い有様だった。

おかげで援護に徹する鬼神直属の部下や怪人達がほぼ無傷で残っている。


 城門前で堕天とバクシアンのコンビは騎馬隊を相手にしていた。

城壁の援護を受けて騎馬の突進力を弱めると二人は一気に襲い掛かる。

堕天の杖術や力任せの斬撃は高齢者とは思えない程、速く力強かった。

バクシアンがのらりくらりと槍や脚を避けて痛撃を喰らわす。

鬼神が苦戦している内に見事に壊滅させていた。


 後方のキルケーはバリアス率いる魔術師団と交戦していた。

魔術師団はマシンガンの射程外へ間合いを取る。

お互い接近すれば集中的に狙う。

膠着状態なようでお互い一撃必殺を狙っていた。

キルケーのダブルフレイムトルネードとバリアスの魔法だ。

決まれば大半の兵力が消える。


 魔術師団の最前列ではイライラしつつ杖を指で叩くバリアスが居た。


「ちっ、まだ足りんか……」


実は威嚇や擬態フェイントを繰り返し、時間を稼いでいた。

もう少しで魔力のチャージが終わる。

中位魔術ならいきなり気絶する事は無い。

魔力が最大に満ちれば三発は出せる。

焦りながらも完全チャージを待つ。

一方でキルケーは隙を窺う。

間合いを取られたのが痛い、うかつに接近すれば魔法で仕留められる。

一瞬でもいい、隙が出来れば一気に攻め落とせるのだ。

その為にバクシアンへバレない様に連絡する。


和尚おしょう、聞こえる?」

「私は仏教徒ではないぞ、キルケー殿。して何用か?」


 格闘中のバクシアンが不愉快そうに答えた。

意に介さずキルケーは援軍を依頼する。


「テケリちゃんをうちと連中の間を高速で横切らせてくんない?」

「イカン、テケリちゃんは火傷だらけになっておる。当分出したくない」


かなりのダメージを貰ったらしく、テケリちゃんは静養に入っていた。


「大丈夫、やられる前にやるし、当然、仇は討つ!」


自信たっぷりにキルケーは言い放った。


「むぅ……分かった。但し! 戦闘無しで頼む」


キルケーの能力や技術も知って居るバクシアンが渋々了承する。


「あ、出来れば一瞬だけ前で止まって、その後は速攻でバックレてね」

「あいわかった! テケリちゃん! 頑張れ!」


 再び印を結ぶと数珠を振り、地面を叩く!


ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛――


テケリちゃんが心なしか弱々しく現れ、すぅーっと進んで行く!

その行動は戦況に波紋を呼び起こす。


 テケリちゃんを知らないワーズは集中力を乱された。

上段から振り下ろされるバスターソードの初速が遅れる。

その隙を見逃さず鬼神は神速で間合いを詰め、ワーズの右手をパシッと掴む!


「ドラァッ!!」


そのまま腕を掴み、前に引き込んで強引に一本背負いでぶん投げ飛ばす。


「なっ!?……!」


そのままめり込むようにワーズは大地にバガンッと叩き付けられる!

その勢いで身体が反動で弾み、そのまま数十メートルをバウンドしながら飛ばされた。


「ふぅ……テケリちゃんとおっさんに奢りだな……ん?」


 会心の手応えを得た鬼神はそれでも立ち上がって来たワーズを視界に捉えた。

改造人間に全力で投げ飛ばされ、受け身も取れずに叩き付けられたはずだった。

その顔には屈辱に満ちて鬼の形相に変わっている。

ヨタついた足取りで地面に刺さったバスターソードを掴む。


「おいおい、生身でウォリアー並みのタフネスかよ……」


呆れたように鬼神がその耐久性に驚く。

しかし攻め時でもある。

一気に間合いを詰めるべく駆け出す。


「コォォォォォォォォォォッ」


 鬼神の行動を読むようにワーズは上段に高々とバスターソードを構えた。

呼吸を練り始めたと同時に空気が振動し始める。

お互いの間合いが近づく!

鬼神の頭部へ雷撃を纏った刃が、ワーズの鳩尾に必殺の拳が放たれようとした。

だが、放たれる前に高温の水蒸気が二人に襲い掛かる。


「「チッ!」」


 致死的な熱波を避けるべく、さらに間合いを遠く取る。

離れた二人はその発生源を見た。

高温域になった水蒸気を幾分火力の収まった竜巻が巻き上げる。

その中をキルケーとバリアスが武器を構え対峙していた。


 熱波は二人の技が激突して生まれた産物であった。

テケリちゃん再登場に危機感を覚えたバリアスが詠唱を始める。

呪文に怯え逃げ出すテケリちゃんに意識が向かう。

そこをキルケーが突撃してきた。

キルケーの必殺技Wフレイムトルネードで魔術師団が焼かれ始める。

全て持っていかれる所をバリアスの氷結呪文で相殺したのだ。

ぶつかり合った結果、左右に高温の水蒸気が放出されて周囲を蒸し焼きにする。

温度の高い水蒸気は竜巻に巻き取られ上空へと送り出されていく。

冷やされた水蒸気は雨となり、戦場の血と汚れを洗い落とす。


(チィ、継戦不可能か……ん?)


 ワーズは被害状況で撤退を決め込む。

あくまで手助け陽動がラゴウの命令である。

バリアスの玉砕に付き合う義務はなかった。

そこに念話が飛んでくる。


「ワーズ、バリアス達と戻って来い。戦略を練り直すぞ」


ラゴウの嬉々とした呼び声が頭に響く。

苦笑したワーズはこめかみに指をあてて返事した。


「ハッ、ただいま帰還します」


そのままバリアス達に指示を出した。


「陛下からの御下知だ。全員緊急撤退!」


指示に従い、生き残りの魔術師団が転移の呪文で撤退して行く。


「ワーズ様! 殿しんがりはお任せを!」


決死のバリアスの念話を即座に却下した。


「ダメだ。お前も転移しろ。俺は一つ用事がある」


バリアスを急かし、クイックテレポートで消えるのを見て鬼神に向かい尋ねた。


「Εσύ, πώς σε λένε;」

(貴様、名前は?)

「あ? 何言ってんだこいつ?」


 鬼神のウォッチには反応しない。未対応言語らしい。

困惑する様子を見たワーズが人間の言語で話す。


「チッ、貴様、名は?」

「んだよ、最初から人様の言葉でしゃべれや、こんタコ! てか先に名乗れよ」


その横柄な態度に鬼神がイラつき罵倒した。


「王家直属親衛隊隊長ワーズ・キャドバリー、貴様は?」

「ジャクルトゥ特別攻撃部隊デスブリンガー、隊長、鬼神大佐だ」


偉そうに胸を張って鬼神は答えた。

その態度を鼻で嗤ったワーズは巻物スクロールの封印を解き、上に放り投げた。


「鬼神とやら! その名、覚えたぞ!」


クイックテレポートの呪文が発動し、瞬時にワーズの姿が消えた。


「チッ、また大物喰い損ねたか……。仕方ない、各員被害状況知らせーっ」


面白くなってきたら逃げられて、不満げに鬼神が部下達に被害報告させた。


 切羽詰まった様子で堕天が引き継ぎを頼んできた。


「大佐、私は至急本部に戻る。再襲撃があるやもしれん。引き続き警護を頼む。バクシアン、本部に帰ろう」

「ほ? 博士、どうした?」


その雰囲気に一抹の不安がよぎった……。


「本部が襲撃された。どうやら敵の首領が捕虜に乗り移って来たらしい」

「マジかよ……。大首領は無事か?」


交戦中だった鬼神は報告を受けて首領の安否確認を冷静に尋ねた。


「ああ、御無事だ。罠にかけて油断したところをレーザーでハチの巣にしたそうだ」

「流石……まぁ留守番護衛がメソッドじゃなぁ……まぁいいや、博士、王室にアポ取っといてくれ」

「分かった。王は子供と侮ると痛い目を見る。気を引き締めろ」


 そう言いおくと堕天は通信を切った。

その途端。各部隊の被害報告を受ける。

の人員に負傷者は居ない。但し、弾薬損耗率七割との事だった。


「全部隊は城門前に集結、副長の指示のもと順番で休息。キル、部隊長は俺と一緒に来てくれ王様に会う」


 鬼神は変身を解いてトレバーに戻った。

すぐさま本部に弾薬、機材の補給依頼する。

そこへ鉄くずや穴を避けながら城に戻って来るキルケー達を見つけた。

手を振りながらトレバーは戦いの匂いに歓喜を覚えるのだった。

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