総力戦突入

 操縦桿の震えでカクカクと奇妙な動きをする怪ロボット一応援軍を見てラクウェル達が心配する。


「あの……ハインツ殿、アレは大丈夫ですかね?」


額に手を当てて堪える堕天に雰囲気で察したラクウェルが尋ねる。


「ああ、毎度の事だ。彼女は大丈夫だと思う」


今すぐ回線開いてクリムゾンに説教したいのを我慢する。

交渉相手に隙や弱みは見せたくないのだ。

その踊りや地団駄奇妙な動きを挑発と見た大型魔物部隊が一斉に襲い掛かる。


「さっさと来い! 速攻で終わらせる!」


 怒りに震えながらクリムゾンが叫ぶ!

殴りかかるゴーレムの鼻先に右ジャブを数発放つ。

ジャブで減速と距離を測り、左ストレートで顔面をバカンっと粉砕する。

殴り終わりの時、真横から巨人が岩を投げつける。

それに対し、飛びのいて避けてみせた。

着地で曲げた膝の伸展力とジェット推進での頭突きを巨人の腹に見舞う。


「おおっ凄い! あのアイアンゴーレム! まるで人間みたいだ」


 城壁の守備兵たちが歓声を上げた。

怪ロボットが囲みを突き抜け一動作するたびに敵が倒れる。

堕天は何とかなったと安堵する。

その間に銃弾補充、怪我人の治療を急がせた。

そこに解析班からの返答が来る!

「博士、その後方です! 生体反応が無いエリアの後方の闇、ではなく黒い布で身を隠した部隊が存在します!」

「なんだと!?」


堕天は戦う怪ロボットの向こう、囮の魔術師団の奥にある闇に目を凝らす。

怪ロボットの着地の衝撃で舞った土埃が黒い布に星屑のように散らばっていた。


「クリムゾン! 魔術師団の奥にあるにミサイルを!」


単純なトリックに苦笑しながら堕天はウォッチからクリムゾンに指示を出す。


「あいよぉ! 一発しかないから勘弁ね」


巨人を殴り倒し、発射態勢に入る。

胴体のへその部分がスライドし出べそのようにミサイルの先端が見える。


「ターゲット……ロッ……ん?!」


 照準に闇の中央を捕らえる。……その前にローブを着た男が立つ。

杖をかざし、詠唱に入っていた。


「ええぃ!! はっしゃぁ!」

「回れ、ありく闇の深淵よ。契りに基づき、この我に可逆なる光生み与へ給へ……マジック・レイ!」


トリガーと発動が同時だった。

光の奔流がミサイルを包み、怪ロボットの胴体に当たる。

途端に無数の警告が表示され、アラームがこれでもかと鳴り響く。


「やばっ!」


 幾多の修羅場撃墜寸前をくぐって来たクリムゾンは躊躇なく脱出レバーを引く。

頭頂部中央のハッチがパカっと開き、本部目指して脱出ポットが飛翔した。

その途端、怪ロボットが爆発する。

貫通した光が城門上部を焼失させた。


 ローブの男、バリアスはその場に崩れ落ちる。

二回も高位魔法を成功させた代償は大きかった。

魔力は枯渇し、意識は朦朧としていた。四肢には力さえ入らず呼吸もままならない。

それでも指揮を執るべく立ち上がろうとする。

目の前には熔解し、爆散した怪ロボットの胴体や四肢のパーツが転がる。

異変に気が付いた御付きが椅子を持って来させ、座らせて介抱する。


「要らぬ! アレを盾にして残存部隊を進攻させろ! 弓隊、魔術師団は援護射撃」


転がるパーツを指さして命令したバリアスはそのまま気絶する。


 バリアスが作った血路を残存部隊が攻め込んで行く。

大型魔物はストーンゴーレムと巨人が二体生き残っていた。

それらが岩を投げて壁を作っていく。

危機感を覚えた堕天はここで札を切った。


「バクシアン!」

「待ちかねたぞ! それではでませぃ! テケリちゃん!」


印を結び、数珠を大きく振って地面を叩く。

その地面から影が滲み出る。


「ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛ミ゛」


耳障りな鳴き声を上げ、スライム状の生物が象か犀のサイズで湧いて出た。


「さぁテケリちゃん、ご飯だ! たーんとお食べ」


銃撃を壁で避けて接近する魔王軍を指差す。


「テケ、テケ、ケケリリリテケ」


 ノチャっとした何かの液を滴らせテケリちゃんは何かの鳴き声をだす。

地面に沁みのように広がるとさざ波のように地面を進んで行く。

壁を影のように乗り越え、隠れた敵を引きずり込むように吸い取り咀嚼する。

影ゆえに何が起こったのかわからない。

そのまま黒い地面に吸われるのだ。

そしてペッと消化液にまみれた武器や防具を吐き出し次の獲物に向かう。

次々に居なくなる魔物達の悲鳴でバリアスが意識を取り戻す。


「じょ、状況を知……らせぃ」

「はっ、現在、謎のスライムに前線部隊はズタズタにやられております」


 バリアスは必死に目を凝らし、テケリちゃんの猛威を知る。

そして震える声で対策を講じた。


「メイジに偽装した二体を前進させろ。食らいついた所へ魔術師団が火球で集中攻撃せよ」

「はっ!」


気迫で何とか指示し、御付きが伝令に走る。

バリアスは既に念話もできないほど衰弱していた。

偽魔術師団の横にいる部隊長に伝令が話す。

堕天の読み通り、魔術師団ではない。

ゴーレムやアンデッドで構成された偽物だった。


 指示通りに二体のローブ姿が進んで行く。

動きを察知したテケリちゃんが喰らいつく。

半分ほど吸った所で止まる。

食べ物ではないことが分かったのだ。

そこに後方から火球の集中砲火がゴーレムごと覆いつくす。


「テケリちゃぁぁぁぁん!?」


 バクシアンの叫びも虚しく、テケリちゃんは火球の集中砲火に怯んだ。

必死に左右へと避けるが見事に当たりまくる。

影を震わせながらバクシアンの元へ必死に帰って来た。


「おお、よしよし、酷い事をしよって……許さん!」


怒りで真っ赤になったバクシアンは数珠を顔の前にかざし呪文を唱え始める。

そこに降りて来た堕天が肩を叩いて邪魔をする。


「招来するなと言ったはずだが?」

「ええぃ、博士止めるな! 苛めた奴らを血祭にするのだ」


再び唱え始める耳元でボソリと呟く。


「お前がを出せば布教も無くなるぞ? 大僧正」

「ぐっうぅ」


 苦虫を嚙み潰したような顔でバクシアンは数珠を下ろした。

元々バクシアンは密林の奥地にある邪教の館で布教活動していた。

原住民に畏怖と尊敬を集め、少ない信者たちと主の降臨を目指す。

しかし、祈りの力が圧倒的に足りない。

さらに信者を増やせば主との交信が出来る。

狂信的邪教の噂を聞きつけたジャクルトゥはスカウトを向かわせた。


その際に征服のあかつきには星教せいきょうとして承認する。

大首領から提案され勧誘を受けた。

悲願の為、バクシアンは信者と共に参戦したのだった。


 その無念さを汲んだ堕天は杖をくるんと回し、肩に担ぐ。


「では大僧正、此のままで一つ暴れようとしようか?」

「博士……すまん恩に着る」


部隊長に援護の指示を出し、堕天とバクシアンは最前線に立つ。

相手側にはまだ騎馬隊と魔術師団が丸ごと残存している。

壊滅しなければ作戦が成功したとは言えない。


 突撃号令を待つ騎馬隊が横一直線に並ぶ。

……後方には偽魔術師団ゴーレム・アンデッド隊が歩兵代わりに詰める。

打撃への耐久性は高いが動きは致命的に遅い。

騎馬が守備兵を始末した後で城内になだれ込む。

あの面妖な弓隊小銃部隊は偽魔術師団で囮にして魔術師団で一掃する。

瀕死のバリアスが立てた最後の策だ。


 そして両軍、号令を待つ……。

杖を肩に勝ついだ堕天が人差し指でクィクィッと騎馬を呼び挑発する。

堕天の挑発に一騎の黒騎士が呼応し、堕天とバクシアンに向かって疾駆する。

騎馬は漆黒の風になり、死神の使いとなった。

まず、挑発した老人を容赦なく血で黒く染め上げた愛槍を振るう……。

突き出す槍の上にそれより疾いバクシアンの足刀が騎士の胸鎧に突き刺さる!

そして蹴り殺そうと重装馬は前脚を上げた。

振り抜いた堕天の杖がしなる様に馬を力任せに裂いていく!


「おおっ!? ハインツ殿! 何たる腕かっ?!」


杖で馬を叩き斬る。

その剛剣っぷりに上から見ていたラクウェルが感嘆する!


 四つに叩き砕かれた黒騎士を見て騎馬隊が突撃を始める!

スピードに乗り始めた時、謎の集団が横の岩山から突如現れた。

岩山を駆け下り、ゆっくりと進軍中の偽魔術師団の横を突く!


「おうおう、バクシのおっさん、ク〇リンのコスプレかよ。気合い入ってんなぁ」


ホブゴブリン達と自分の部下達を率いた鬼神がバクシアンを弄る。

変身したまま先程到着してそのまま参戦したのだ。

鬼神は先頭でゾンビらしきローブ姿を蹴り倒し、粉砕して進む。


「大佐、後方の闇を叩け! 魔術師共がそこにいる! 敵指揮官高位魔術師もいるはずだ気を付けろ!」


堕天が通信で目標を教える。


「了解した! キル!」


 後方の一団が分かれて後ろの黒い布に向かう。


「チッ、気安く指図すんじゃねぇよ。この万年軍曹が……言われんでもわかっとるわ!」


戦場の高揚感でキルケーが舌打ち交じりに号令する。

即座に部下達がマシンガンで魔術師団を襲う!


「ク、クリ〇ン? 大佐は今時の言葉を使うから分からんなぁ……」


言葉の意味が理解できないバクシアンは苦笑して頭を掻く。

切り札である魔術師団を守るべく、騎馬隊が鬼神隊へ向かう。


「副長! よく狙え!」


 後方で援護射撃に徹する自分の副長に鬼神は指示を出して前に突き進む。

まだ大物指揮官が居るはずだ。

周囲の兵士にそれらしき姿はない。

襲い掛かる偽魔術師を一蹴すると少しひらけた場所に出た。

その中央に椅子に座る瀕死のバリアスが振り向く。

気が付き杖を支えに震えながら立ち上がろうとしていた。


「大物頂きっ!」


一気に詰め寄り、気絶させるため首筋に手刀を落とそうとした。

頭上に気配と殺意を感じた鬼神は身体を捻り、その場から飛びのく。

鬼神の居た空間に放電した白刃が弧を描く!


「チィ!?」

「Εσύ εκεί, πολεμιστή, έχεις να κάνεις μαζί μου.」

(そこの戦士、私が相手になろう)


 虚空から転移してきた男、ワーズが片手で幅広な長剣バスターソードを構える。

間一髪で命拾いしたバリアスの前に立つ。


「ワーズ様?」


途切れ等になる意識を闘志で保ちながらバリアスが尋ねる。


「陛下の御下知だ。中々の采配と献身的な戦いは殺すにはまだ惜しいとの事だ」


腰の袋から小瓶を投げ渡し、ワーズは答える。

そして殴りかかって来た鬼神を牽制する様に横なぎで払う。

雷光を帯びた剣が鬼神の視界を白く染め、間合いを取らせる。


(ちくしょう、剣速も疾いが追加の電撃と視界を潰してくる。どう料理するか……)


ジャブを放ちながら突っ込んで来る鬼神にワーズは横薙ぎで剣を振るう。


 間合いを開けさせるとバリアスを守りながら小瓶を飲めと急かす。

慌てて小瓶を飲んだバリアスは意識がはっきりし、魔力が半分ほど戻った。

どうやら小瓶はエリクサー最高級万能回復薬だったらしい。


「ワーズ様! 誠にありがとうございました」


バリアスは後ろで杖を構え、詠唱の態勢に入る。

しかしワーズは鬼神を見据えたまま命じた。


「こいつは私が倒す。バリアス、部隊を整え、後方へ!」

「ハハァ!」


ワーズは真剣な表情になると片手から両手でバスターソードを構える。

そしてジリジリと間合いを詰める鬼神に向かって斬りかかって行った。


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