魔王軍との対峙

 接近する魔王軍本陣を見る為、堕天とリチャード達は城壁に居た。

前回、ナパーム弾で焦土と化した草原の向こうから軍勢が現れる。

まさに黒い闇が平原を侵食して行くようだった。


 先頭をリュカオンやゴブリンらの歩兵大隊が威嚇しながら進む。

その所々にゴーレムに巨人が配置され、肩の上で隊長たちが声を上げる。

召喚された闇の騎士で構成された騎馬軍団がその後に続く。

魔道士、魔術師らしきローブ姿の集団は最後尾に配置されている。

その後には闇が敷き詰められたように真っ黒だった。

軍勢は城から十キロ程度の所で進軍を止めた。


「ほう! これは圧巻ですなぁ」


 陣容を見て他人事のように堕天が感心する。


「ハインツ殿、いささか悪ふざけが過ぎますぞ」


その言動に隣にいたラクウェルが苦言を呈す。

幾ら少数精鋭のジャクルトゥが加勢するとは言え五万の軍勢相手は厳しい。


「失礼した。だが、これは小賢しいと言える陣容でしてな」

「なんですと?」


今度はフレアーが眼を向いてその物言いに驚く。


「まず、この遠眼鏡でご覧くだされ」


 イラつくラクウェル達に堕天は手に持った高性能単眼鏡を渡す。

メソッドが片手間に作ったものだが、超望遠可能なアイテムだった。

カメラ映像をコンピューター解析し、対象を映像表示する。

対象が人なら二十キロ程度までは行けるらしい。


「ほう?! これは! 凄く良く見えるぞ!! しかしハインツ殿、どこが小賢しいのです?」


ラクウェルは単眼鏡を覗き、脆弱な配置、不審な所を探す。

先程の作戦会議では堕天の作戦立案に感服していた。

最初の警戒心は無く、その見識に敬服していた。


 生徒にミスを教えるように堕天がゆっくりと差し棒がわりの杖で指し示す。


「まず、ゴーレムや巨人に乗る隊長をご覧ください。明らかに着慣れていない鎧、下から怒鳴られている者が多い。囮に隊長役をやらしていると思われます」

「ああ、確かに! 下の兵に同じ鎧を付けている奴がいる!」


見つけたフレアーが感嘆の声を上げる。


「実はゲシル村で我らが打ち破った時、隊長はゴーレムに乗って指示していたそうです。そこを改善したのでしょう。そして魔道士の顔を見て頂きたい」


堕天が示す様々な色のローブの下には一様に奇妙な仮面をつけていた。


「まず、私どもの入手した情報によれば魔術を扱うものは口を覆うものは嫌う傾向がある」

「あ、確かに、詠唱の発音が濁ると術の発動に支障が出ますからな」


ラクウェルの後ろに控える王家付の僧侶シモンが納得する。


「そのような理由で術者が仮面をつけるのは愚行であります。ではあえて戦場で着ける意味は?」


堕天は理路整然と説明し始めた。

その口調はさしずめ講義をするかのようだった。


「偽物と判別させないためでは?」


単眼鏡から目を外したリチャードが答える。


「正解でございます。陛下、あれはたぶんあやつり人形みたいなものでございます」

「何故そのような手間を?」


今度はラクウェルが疑問を口にする。

その問いに堕天はニヤリと笑う。


「我々対策でしょうな。今までの我々との対戦で最初に魔法を潰す傾向が分かったのでしょうな」


 最優先で攻撃する理由、魔法への対応な事は口にしなかった。

捕虜にしたアドバンスの洗脳施術に入ったが、頑強に抵抗していた。

彼が此方側に堕ちれば原理が分かり、対策を立てられる。

それまでは最優先で魔法使いを潰すだけだ。


「では、先生、魔導師団は居ないと?」


リチャードが逆に問い掛けると堕天は否定する。


「いえ、両側か後方に伏兵として隠れているのでしょう。シモン殿、姿を一時的に隠すような魔法はありますかな?」


 この場にいた人間で唯一魔法に詳しそうなシモンに話を振る。


「あ、はい、隠蔽ハイドと言う術があります。ただ、高い魔力と位階が必要なので並の術者では無理ですし、そのような強力な術者集団ならとっくに攻めて来ております」


堕天の問いにシモンは的確に返答する。

それが逆に堕天を困惑させる。


「ふむ、ならば擬装して潜んでいるか……?」


 周囲を見渡しても背の低い草が生える平原ばかりで潜むよう場所はない。

腑に落ちない堕天は本部に敵陣周囲へ精査の依頼する。

研究者の性で謎をそのまま放置する事が出来ないのだ。


「本部、至急、敵本陣の陣容を様々な角度、方法で精査してデータを送れ」

「了解いたしました。一時間程……」

「三〇分でやれ」


間髪容れずに強要して連絡を切る。


 そこに大型輸送ヘリ三機が到着する。

城下の中央にある広場に二機着陸し、部隊を展開し始めた。

その内の一機が城壁に近づき、堕天たちの横でホバリングする。

部隊長らしき戦闘員がワイヤーを下ろし降下すると堕天の元に走って来た。

直立不動で止まるとピシッと敬礼して報告に入った。


「博士、三千名の防衛隊、着任しました! 御命令の補給部隊も到着しました」


 報告を聞いた堕天は頷いて指示を出す。

その陣容にリチャード達が呆然としはじめた。


「うむ、早速だが、簡易司令部と機関砲の設置と城兵に銃の取り扱いの指導を頼む」

「ハッ、配置は?」

「中央広場に司令部、城門横と両角に一門ずつ設置せよ」


予めラクウェル達と協議してあった位置に設置を指示した。


「了解であります。直ちに作業を開始します」


敬礼し踵を返すとヘッドセットで指示を出し始めた。


「ハインツ殿、凄い部隊ですな……」


 降下し、速やかに展開設営を始める戦闘員たちにラクウェルが感心する。


「ありがとうございます。もうしばらくすれば準備が整うかと……」


堕天は謝辞を交えつつ、何もせずにたむろし始めた一団を見つけた。

その姿に堕天は軽い頭痛を覚えた。

まるでコンビニ前にたむろす田舎のヤンキーたちそのものだった。


「部隊長、ちょっと」


 指示を出す部隊長にあの集団、へ仕事を与えるよう依頼した。


「ハッ、ただいま」


部隊長が即座に指令を出す。

……その途端、巻き舌で口論し始めた。

騒動になる前に堕天は部隊長のインカムを奪う。


「私だ。何か不満があるのかね?」


ピシッと相手を威圧するが、敵はあの大佐と戦魔女の部下だ。

クセがあり過ぎて一筋縄ではいかない。


「はい、博士。ここで降下されれば移動の際、敵に視認されてしまいます。それでは伏兵の意味がありません! 我々を山の裏で降下させてもらえるように具申したのですが返答はありませんでした」

「そうか、流石、大佐の部下だな……具申は、受けた。そして却下だ。今は君らの優秀な技術を全守備兵に二時間で教えろ。終わったら大佐とよ……、じゃない。戦魔女の出陣に呼応せよ。以上だ」


 半分感心、半分嫌味で堕天は具申を即却下し、命令を下す。

最後はクリムゾンが今にも空から四〇ミリバルカンを乱射しそうな気がして言い直した。


「仕方ありませんな。では任務に着手します」


 不満げに鬼神隊の副長が返答する。

その言動に堕天は殺意を覚えるがそのままにした。

後で必ずするつもりだ。

準備が速やかに進む中、部隊長から再び悲鳴が上がる。


「なんだって?! 大公様が基地で錯乱?!」


 その一報を聞いた堕天は笑い声をあげて呆れかえった。

そしてこのストレスをどうしようか思案する事にした。




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