苦渋の決断

 ウォリアーは挟撃を避けるため一旦跳躍し、別の城壁へと移る。

タイソン達から視線を自分に向ける為でもあった。


「逃げても無駄だ!」


強気のノービスが杖を振ると追いかける様にキメラがウォリアーに迫る。


「ハッ!」


気合いと共にシュバッと音を立てて切れのいい後方回し蹴りを放つ。

その勢いにキメラたちは怯む。

しかし、指示が下されると城壁に降り立ち、ウォリアーに襲い掛かった。


「すげぇ……」


 完全に無視された形で取り残されたタイソンがウォリアーの動きを凝視する。

ゲシル村で石化を解除され、塀の上で村人と襲撃に備えた。

その時、炎の中を跳躍し、アドバンスを一撃で倒す鬼神を見た感動が蘇る。

俺もああなりたい。

トレバーさん達の様に強く、漢気のある冒険者になりたい。

しかし幼いミアを置いては行けない。

……タイソンは夢を諦めていた。


 そこに再びウォリアーが現れた。

中身がトレバーではない事は既に知って居る。

だが、自然に闘いに魅了されていた。

荒々しく防御無視でキメラを殴り倒す姿にタイソンは感銘を覚えた。


(大佐は無駄のない洗練された動きだけどウォリアーは力強く正々堂々としてカッコいい)


確かに蛇に肩を咬まれるも、頭部を掴みブチっと潰す。

獅子の前足を払った途端、山羊に頭突きされてもゴキャンと音を立ててぶん殴る。

ノーガードゆえにハチャメチャだが一歩も引かない決意と力で殴り倒す。


 キメラ二匹の手数の多い攻撃にウォリアーは互角にやり合う。

だが一つ忘れていた。

ノービスはキメラからいつの間にか降りていた。

キメラの後方で必死に詠唱に入る。


「大気の精霊よ。契約者の我にその片鱗を示せ! 雷撃サンダーボルト!」


杖を高くかざして詠唱を終える。

青白い閃光と共に電撃が杖の先から放たれる!


「グッ!」


 ヘルメットに雷を直撃されたウォリアーは後方に飛び、間合いを取る。

着地の瞬間、スーツに異変が起こった。

ゴーグルに赤いラインが一本、真横に奔る!

その途端、変身が解除されてしまった。


「なっ、なんだと!?」


伊橋はただ茫然と立ち尽くし、驚きを隠せなかった。

するとウォッチに呼び出し音が鳴る。

それを合図にキメラが襲い掛かった。


 咄嗟に身構える伊橋を後ろにいたタイソンが押しのけて剣を振りまわす!


「早く逃げて! ぎゃっ!」


剣を振り回す腕に爪が刺さる。だが、それでもタイソンは怯まず剣を振る!


「どけ! 死ぬぞ!」

「貴方はトレバーさんの仲間だ。恩人の知り合いを見捨てる事は出来ない!」


一喝する伊橋にタイソンが言い返すも内容が悪かった。


「んだとこの野郎?! アイツは俺の敵だ! 仇だ!」


激昂し出す伊橋をタイソンは無視して剣を必死に振り回す。


二人にトドメを差そうとノービスが火球ファイヤーボールの詠唱に入ろう印を結ぶ。


「タイソン! 助けに来たぞ!」


ヘイガ―と団員二名が駆け付け、ノービスに攻撃を仕掛ける。


「ちぃ、キメラ! ブレス!」


手っ取り早く伊橋を始末する為、ノービスはブレスを指示した。


「あっ!? あぶないっ!」


 ブレスの意味を理解せずに猛然と突っ込んで行く伊橋を突き飛ばす。

キメラが吐き出す二つの火炎はタイソンを火達磨にする!


「がぁぁぁぁぁぁっ!」


火を吐き続けられてタイソンは悶え苦しむ。

伊橋は突き飛ばされて、地面に座り込んで呆然と見た。


 そこにウォッチから再度呼び出し音がなり、大きな声でメソッドの声が響く!


「雷撃による復旧作業終わった! 伊橋よ、変身してくれ!」


雷撃の直撃により雷サージ保護機能が作動しエラーを起こしたのだ。


「おせぇよぅ‼ チェンジウォリアー!」


緊急で変身を終えてウォリアーが炎に立ち塞がる!

行動に驚くキメラの口に向かって行く。


「レェェザァァァァブレェェェドォッ!!」


 憤怒の叫びとともに右手小指の先から肘の先までを青く発光する。

瞬時に光に沿ってフィンが隆起するとシュザッっと手刀をその顎にぶち込む。

そのまま喉を貫通し、山羊の頭を落として腕を回して上に振り抜く。


 キメラはそのまま下から頭を裂き割られ、血を噴出しながら即死した。

その惨劇にもう一匹は恐怖し、逃走を図る。

獅子の首に血塗れのウォリアーの腕が巻き付く。

首を一気に捩じり切り、返す身体で山羊の頭を蹴り飛ばす。


 その殺戮劇にヘイガ―達は戦慄する。

身動きさえ取れずにただウォリアーを見ていた。


「な……貴様ぁ」


護衛が居なくなってもノービスは恐れずに印を結ぶ。

もう後が無いのだ。

失うものは何もない。

ウォリアーは無言で跳躍する。

そのベルトのバックルのリアクターが輝く。


「ウォリァァァァァキィィィィック!!」


 一回転し、ノービスに白熱する足先を突き出す。


迫るウォリアーにノービスは火の玉を投げつける。

だが、ウォリアーは当たってもひるまなかった。


「ラゴウ陛下、バンザ・・・・・・ぐがぁぁぁ‼‼!」


モロに直撃したノービスはラゴウを讃えつつ断末魔の声を上げる。

だが、苦しみは長くは無かった。

彼はほんの数秒で消し炭と化した。


 ウォリアーは虫の息のタイソンに駆け寄る。


「おい、大丈夫か? 誰か応急処置を!」


同じく駆け寄るヘイガ―にウォリアーは治療を指示する。

そこに超大型のドローンが城壁に舞い降りて来る。

クワッドコプターの中央に棺桶のようなベッドが本体であった。

その横には大きい塩化ビニール樹脂のタンクが二つ取り付けてあった。


「何?」


ウォリアーは瞬時に身構える。

ここでドローン兵器先端技術を持つのはジャクルトゥ敵対組織しかいないからだ。


「待て、ウォリアーよ。話を聴け」


 ウォッチから忌まわしいあの男の声が聞こえる。


「き、貴様は堕天博士!」


怒りと驚きでウォッチを見る。

幾分何かの騒音があって聞き取りにくい。


「時間が無いので単刀直入に言う。その青年をドローンに乗せろ。我々が救う」

「断る。貴様、改造する気だろう? 許さん! 絶対に!」


ウォリアーは即答で拒否した。堕天の意図を読んだのだ。


「今なら助かる。我々なら助けられる。お前は命の恩人を見捨てるのか?」

「なにっ?!」


挑発するような堕天の言葉にウォリアーは気色ばむ。


「雷撃を、若しくはキメラの火炎を喰らえばお前がそうなっていた。彼がお前を救ったのだ」


 堕天の指摘にウォリアーは絶句する。

苦しそうなタイソンの横に片膝のまま微動だにしなかった。

数秒の間の後、ウォリアーはタイソンを持ち上げドローンに向かう。

そして慟哭に近い恫喝を堕天にぶつける。


「堕天、大首領と大佐、それと貴様の技量に誓え! この子に脳改造したら魔王軍の前に命を懸けて潰す。殺したら同じだ」


 まさに苦渋の選択だった。

ここに中村が居たら代わりに交渉して貰っただろう。

だが、中村は下にいる。

一刻を争う今、自分で判断するしかない。

この子に自分と同じ修羅の道を歩ませる事になる。

ウォリアーは仮面の下で血涙を流す。


 すると今度は堕天が黙った。

ドローンのベッドにタイソンが横たわると溜息をついて答える。


「分かった。大首領と大佐、私の技術とお前に誓おう。脳改造はしない。命の保証は任せたまえ」


カーゴルームが閉まると同時にタイソンの口に吸入マスクが装着される。

クワッドコプターのローターが回転を上げる。

ドローンが浮上すると同時に棺桶にタンクから液体が注入される。

ウォリアーはドローンを見えなくなるまで見送っていた。


 一方、堕天はクリムゾンが操るジェット戦闘ヘリで交渉担当としてバティル城に向かっていた。

ウォリアーとの会話を終えてヘッドセットを切り替える。

村で見つけた時から狙っていた好素材タイソンが手には入った。

つまらん約束をしたがコイツはトレバーに心酔している。

早々裏切る事は無いと踏んだ。

蘇生処置を終えたらデータ採取とに取り掛かるつもりだった。


 気を良くして操縦席に座るクリムゾンに話しかける。


「クリムゾンや、城はまだかい?」

「博士、あと三分で着くよ……。ほら見えて来た」


夕暮れの城下、その上空をヘリが質実剛健を絵にかいたような重厚な城に向かう。

カーテンウォールの城壁と多角塔が四方を固め、高い防御力を誇示していた。

機内では嫁にご飯を尋ねる年寄の様に暢気のんきだ。

ヘリの下では住民達が大混乱している。

城壁に囲まれた城下ではその飛行物体に一斉にざわつく。


「なんだーあれは!?」

「魔王軍だ! 魔王の手下だ!」

「終わりだー、全部終わりだー」


混乱は波のように波及していく。

それを眺めながら堕天はクリムゾンに頼む。


「クリムゾンや、例の物をやってくれ」

「あいよ。火器管制、モードD」


 指示を受けたクリムゾンは隣の副操縦士に伝える。

副操縦士が火器管制を切り替え、クリムゾンはトリガーを引く。

ヘリの両翼のポッドから花火が撃ちあがる。

夕暮れの空に大輪の華が咲き誇る。

それを見た住民たちはさらに混乱する。

だが、花火の艶やかさに魅了され、それ以上の恐慌状態にはならなかった。


 そうして城壁を越え、城の中庭に着いたヘリはホバリングしながら待機する。


「それじゃ行って来る」

「博士、要らないと思うけど援護要る時は言ってね」

「わかった」


そういうとそのまま堕天はヘリからストンっと降りた。


 何事もなく、愛用のステッキを片手に膝を軽く曲げて着地する。

その姿は何時もの白衣姿でなかった。

ブラウンに統一された革のジャケットを着ていた。

インナーには革ベストに白いワイシャツとパンツを合わせる。

艶やかでグラマラスな渋みのあるスタイルは現世では衆目を集める。

トレバーさえ脱帽する粋なお洒落さだった。

ただ、中世の時代背景を持つこの世界には場違い過ぎた。


 みるからに怪しい年寄を衛兵たちが十重二十重と取り囲む。

そこに衛兵隊長らしき男が鎧を身に着け現れた。


「そこの老人! 大人しく縛に付け!」


居丈高に叫び、槍や棒をもった衛兵たちを向かわせた。


「火急の要件でこの城の王に面会したい。利益のある話だ。取り次いで頂きたい」

「ならん! この痴れ者がぁ! かかれぇ」


堕天の傲岸不遜な物言いに隊長が一蹴し、号令する。


 衛兵たちが槍や棒を容赦なく不敵に笑う堕天に突き出す。

ステッキをクルクル回して攻撃を払いのけ、堕天は広間の建物に向かう。

横から来る槍や棒を華麗に捌いて衛兵を突いたり、打ち据えて翻弄する。

自ら対峙しようと剣を抜いて隊長が躍りかかった。

そこで堕天はステッキで突いて動きを止めて打ち据え、関節を取って拘束する。


「久しぶりに良い運動だった。では、王の所に案内してもらおう」


羞恥で真っ赤になった隊長に涼し気に堕天はそう言い放った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る