ボグドーの攻防
狼煙を見たタイソンはミアとジョアンを外へ連れ出す!
すぐに冒険者ギルドの館へ避難させた。
そして槍を持ち、北の城塞へ一気に駆け上る。
壁の上にはボグドーの自警団が集まって来ていた。
その中心には団長のヘイガ―が団員たちへ的確に指示していた。
「ヘイガ―! 状況は?」
駆け付けたタイソンを見たヘイガ―は少し驚いた。
「お?! タイソン?!……お前、バシリスクとやり合って石化したって……」
「ああ、ある人達に助けて貰ったんだよ。って、それは後で」
既に事件は伝わっていたらしい。
差し迫った問題を優先してタイソンは話を急かす。
「そうか、生きてりゃいいや……敵は北の街道に騎士だけのパーティが二組現れた。騎士だけの部隊なんて怪し過ぎだ。昨日も
団員を配置し終わり、ヘイガ―は平頭ハンマーで肩を叩きながら説明した。
鉄を溶かす高炉の炎に焙られ続け、鍛造の火花が染みの様な火傷を精悍な顔に刻む。
鍛冶屋のヘイガ―はタイソンやジョアンとは幼馴染だった。
鍛冶屋随一の腕っぷしと親分肌を買われて青年団兼自警団長になっていた。
「それで騎士たちは?」
城門から続いていく直線の街道をみながらタイソンが聞いた。
「街道の脇にある雑木林の影にいるらしい」
ヘイガ―はハンマーで右横の雑木林を差す。
バンダナで頭を巻いて荒々しいソバージュの髪を纏めていた。
タイソンは指し示す雑木林に目を凝らす。
何やらゴソゴソと活動していたのは辛うじて分かった。
「何か仕掛けて来るぞ。気を付けろ」
その行動に警戒を強めるとヘイガ―も頷く。
団員たちはこの若者達の背中を見て士気が上がっていく。
青年団ではゲシル村での一件は既に評判になっていた。
当然、話には尾ひれがついている。
バジリスクを単独で戦い、相打ちになった。
美人の戦闘士と一緒で倒したとか滅茶苦茶だった。
それはタイソンこそ自警団の切り込み役である。
その剛腕は団の勇気そのものなのだ。
周囲を見ながらヘイガ―は溜息をつく。
腰のベルトの代わりに綱で縛る。
綱には大きな丸頭ハンマーをぶら下げていた。
鍛冶である彼らは平頭と丸頭のハンマーの二つで大概の仕事をこなす。
タッパはタイソンに負けるが、腕相撲なら早々負ける事はない。
その二人が揃えば何とかなる。
団員たちは本気で思っていた。
それまでは……。
「来たぞぉ!」
物見が叫ぶと全員が得物を構えて街道を見た。
真っ黒い不気味な雰囲気の男達が二列縦隊で現れた。
どす黒い鉄の装備を付けた瘦せこけた馬に乗って疾走する。
黒い
葬列の様な死神の使い、黒騎士たちだった。
破城槌代わりの先の尖った丸太を両側から脇に抱え突っ込んで来る!
「こいつを作っていたのか! 弓隊!……放てぇ!」
即席の破城槌に面食らったヘイガ―が叫ぶ。
壁の両端に配置された数名の弓隊が矢を放つ。
距離があり過ぎて殆どの矢は盾か鎧に阻まれて有効打は無い。
矢をつがえ第二射の用意に入る。
「おわっ!」
「ぎゃぁ」
左右の弓隊から悲鳴が上がる!
いきなり現れた蝙蝠のような翼を広げた荒ぶる獅子が火を吐く。
背中からは奇妙な山羊が顔を出し、尻尾の蛇が鎌首をもたげる。
潜んでいたキメラが東西の森から現れて自警団を襲撃して来た。
「ヘイガ―、右に行って来る!」
槍を担いだタイソンが右のキメラに向かい突進する。
「おう、頼む。お前ら! あのゴロツキに岩を投げつけろ!」
仲間に指示を出して両手にハンマーを持つとヘイガ―は左に向かう。
到着したタイソンは火達磨になっている弓隊を下がらせた。
代わりに前に出て槍を必死に突き出して攻撃する。
槍裁きは相変らずのへっぴり腰だが、今回は仲間たちが居る。
両脇から槍や剣の手数が増えて、投石やボウガンの援護をもらう。
キメラは決め手の火を吐けず、爪で薙ぎ払いもできずにいた。
決定打はないがチマチマと小さいダメージを与え続ける。
黒騎士達も盾で岩を防ぐが、馬までは守れなかった。
馬に岩が当たり落馬したり、転倒させたりした。
「な、なにをやっておるかぁ!」
上空から少しどもりながら怒声が降って来た。
粗末な緑色のローブから真新しい青いローブを着た男が怒鳴る。
ビギナー改め、ノービスがキメラの背に乗り、山羊の首にしがみ付いていた。
予想外の苦戦と指示にキメラや黒騎士どもも少し困惑したような動きをみせる。
ノービスは今までコボルトやスライムクラスしか率いて居なかった。
それがいきなり上級の魔物を十数匹同時に使役する事になった。
単純指示で動くスライムと違い細かい指示が無いと動きも雑だ。
そしてブースターリングを使っていても少々手に余る。
同時にコントロールしようとするから制御が甘くなるのだ。
「キメラは上空から火を吐いて守備隊を焼き払え! 騎士どもは後ろに下がって態勢を整えろ!」
ノービスは攻撃をキメラ主体に切り替えて動き出した。
指示に従って右のキメラが舞い上がろうと翼を広げた。
そこにゴンッ!と岩が獅子の頭に当たり、怯む!
「そこだぁ!」
痛みで開いた獅子の口にタイソンが槍を力任せに突きいれた!
槍はゴキャッと鈍い音を立てて獅子の口から喉を貫通する。
そのまま槍は背後の山羊まで突き抜いてヘシ折れた。
キメラは
そしてそのまま動かなくなった。
「タイソンが一匹倒したぞぉ!」
団員の一人が叫び、全員の雄叫びとともに士気が上がる!
「おおっ!? やりやがったな、あんにゃろ」
ヘイガーがキメラを当たらないハンマーで威嚇しながら呟く。
素人揃いの自警団だが中々頑張る。
本命である冒険者ギルドからの戦士団は城門前で待機していた。
自治会上層部は上空からの攻撃は無いと思っていたからだ。
しかし死傷者が徐々に増えていく中、ヘイガ―は焦る。
他所に別動隊や主力が居たらと思うと簡単に援軍要請できない。
幾ら自分たちが頑張っても、もう二匹倒すのは至難の業だ。
そこに雷撃が落ち、至近距離にいた団員が感電して倒れた。
ノービスの魔法が発動したのだ。
「ほれほーれ! 次はどいつだ?!」
ノービスが挑発する様に叫ぶと印を結んで詠唱しはじめた。
元々ノービス級で雷撃系の呪文は発動可能だが、集中と時間が掛かる。
それゆえ低位階の術者は
それは消費魔力もあるが、集中や詠唱が楽なのだ。
しかし、発動すると弾道はほぼ直線である。
遮蔽物や盾に阻まれる事が度々あった。
その点、雷撃は当たれば放散するので多少は感電する。
そして今は護衛のキメラが居る。
距離と上空では自警団には手が出せない。
安全圏から攻撃可能だ。
「ほうれ!
槍を持った団員が餌食になり、その場に崩れ落ちる。
「大丈夫か!?」
タイソンが投石しながら牽制して救助する。
再び詠唱に入ったノービスを見て負傷者や要救助者を下がらせた。
「怪我人を下に降ろして治療してくれ! ここは何とかする!」
落ちていた槍を拾うと全力でノービスに向かい投げつけた。
槍はノービスには当たらなかったが山羊の眉間に当たり負傷させる。
その痛みでキメラの制御が一時不能になった。
「こらぁ、落ち着け!……貴様ぁ!」
すぐにノービスはキメラの制御を取り戻す。
そして先程から目立っていたタイソンを追いかける。
「こちらだ! こっちに来い!」
挑発して人のいない反対側へ一人で走る。
落ちていた粗末な盾と剣を拾い単独で立ち向かう。
「このクソガキ……消し炭にしてくれる!」
盾を構えるタイソンにノービスは容赦なくキメラをけしかけて攻撃を加える。
粗末な盾はあっという間に柄だけのゴミになった。
盾を投げつけ、タイソンは両手で剣を振り回す。
正規の訓練など受けてはいない。
やたらめったら振り回すだけだった。
「ええい! 煩わしいっ!」
ノービスの一喝と共に爪で剣がなぎ払われた。
素手になったタイソンは覚悟を決めて身構える。
(トレバーさんなら最後まで戦う筈だ! 俺も……くそっ)
半分怯えながらもミアにジョアン、トレバーやキルケーを思い出す。
そこに轟雷の如く待ったがかかった。
「まてぇぇぇぃっ!」
「な……お前っ!?」
ノービスはその姿を見て驚愕する。
あのアドバンス隊を一方的に殺戮したあの仮面の男だったからだ。
だが、驚くあまりにノービスはその細部が微妙に違うのを見切れなかった。
「天が呼ぶ! 風が叫ぶ! 悪ある所に俺が往く! マスクドウォリアー見参!」
物見の屋根でマスクドウォリアーが腕を組んでノービスとタイソンを見下ろしていた。
鬼神大佐の強化服と同型だが、一部仕様が違っている。
薄い緑の掛かったボディに赤いガードとブーツに変わっていた。
そして二つほど追加仕様があった。
ゴーグルのモニターにいきなりメソッドの暑苦しい顔が映る。
「あー、毎度どうも、私の強化服を御愛顧していただき誠にありがとうございまーす。私が製作担当のメソッドです」
汗を拭きふき画面から顔をはみ出しながらメソッドが自己紹介する。
「なんだぁ!? お前は!?」
性能云々は兎も角、
動きが止まったウォリアーにノービスは警戒をする。
まさか中でやり取りしているとは思っていない。
「いえいえご心配無用ですよぅ、スーツの機能説明です。アフターサービスって奴っすわ」
ヘラヘラ愛想笑いをしてメソッドが説明する。
だが、ウォリアーは即座に拒否する。
「要らん! 適当にやるから良い!」
「まま、三分以内で終わりますよ。私の作品を愛用してくれるあなたですしね」
取り付く島もないウォリアーに絡むようにメソッドが説明を始める。
「まず、対打撃や斬撃、耐火能力が上がってます。これは大佐が対戦した魔物たちの攻撃を分析したものです。当然ウォリアー様もモニターさせて頂きます。これはより良い貴方専用作品の為です」
「チッ、知っているよ。他には何もつけてないな?」
説明を聞き始めたウォリアーは腕を組み、時折挙動不審な動きをする。
それがノービスへの絶妙な威嚇になり、動けない。
「はい、モニターについては私の要請です。私が最高の作品を作る為に!」
「なんだと!?」
ウォリアーはその言葉に困惑する。
そこでどす黒い欲望を湛えた笑みでメソッドが呟く。
「ええ、建前は敵に塩を贈る……本音は敵データを得ると言う利益もあります。だが、私はそれをもとに最高の作品を作る。それだけです。どちらが負けようが知った事じゃない」
それを聞いたウォリアーは呆れ果てる。
敵とは言え、此処まで自分勝手な奴は初めてだった。
「お前、本当にクズだな」
「最高の誉め言葉ですな。クズが最高の品を作る皮肉……知っておられます? 世の中は皮肉と数字で出来ているんですよ」
吐き捨てるウォリアーにメソッドはそううそぶいた。
「もういい、切るぞ」
「最後に二点、両手の外側にレーザーブレードの発生器を装備しました。音声コントロールで発動し、大概もののは切り裂けます。リアクターも耐久性と安定性は
さっさと説明を終えるとメソッドは一方的に通信を切った。
その身勝手さにウォリアーはムカつく。
そして同時に大佐やキルケーの苦労を察した。
「何だ貴様! やる気があるのか? さてはキメラにビビってるのか?」
ウォリアーが動かないのはキメラを恐れているとノービスは勘違いした。
そして印を結ぶとヘイガ―達を襲っていたキメラも呼んだ。
二匹のキメラと対峙しながらウォリアーはようやくいつも通りに身構えた。
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