怪しい一行の珍道中

 余裕で討伐隊を一蹴したトレバー達は戦闘を終えて村に帰ってくる。

クリムゾンはかなり渋ったが村で索敵の為に待機した。

パーカー君の対人レーダーが周囲二〇キロを索敵し始める。

門をくぐると戦闘の一部始終を見ていた村人達が大歓声で迎えてくれた。


『ありがとぉぉぉぉ!』

『あんたら無茶苦茶強いなぁ! 助かったぜぇ!』


トレバーとキルケーは歓声を不慣れな作り笑いで手を振って潜り抜ける。

歓待する村人たちを避けながら、長老の前に向かう。


「カサスのじいちゃんよ、俺ら次の街に行くけどまた奴らが来ると大変だろう? しばらく俺の仲間や部下を護衛で置いておくよ。」

「ええのか?! ほんに此処にはなんもない所なのに?」


予想外の申し出にカサスは震えながら驚く。

そこでトレバーはウィンクしながら条件を付ける。


「ああ、水か食糧の余分があったら分けてやってくれ。……それと俺達は他所の国の人間で此処の事は殆どわからん、だから、色々教えてやってほしいんだ」

「そっだら事で良ければ、お安い御用だ。なぁみんな!」


カサス達は満場一致で了承をした。

下手な軍隊より強力な護衛を得ることになる。

トレバーは後ろのキルケーに行き先を確認する。


「それじゃぁ頼んだぜ、俺達はボクドー……だったっけ? そこに行くわ!」


二人の前にガタイのいい青年が立ち塞がり、いきなり頭を下げる……。


「ミアだけでなく俺まで助けて貰って本当に有難う御座いましたッ!」

「あ? ああ、どういたしまして……お前さんは?」


何じゃ此奴は? と言った視線を田舎の青年団代表のような快男児に向けた。


「はいっ! 俺はタイソン・ゴティアと申します! 助けて頂いたミア・ゴティアは俺の妹です!」


タイソンは気持ちの良い、良すぎる感謝と自己紹介する。

その健康的な明るさにトレバーは少し引きながら苦笑し、やり過ごす。


「そうか、妹を大事にしろよ、んじゃな」


トレバー達がそう答えて立ち去ろうとする。

その前をシュっと手を挙げて制止した。


「あいや、ちょっといいですか?」

「んだよ? 俺らは先を急ぐんだが?」


思わず聞いてしまうタイミングで声をかけられる。

少しイラっとしながらもタイソンの話を聞く。


「先ほどボクドーまで行かれると聞きましたが、俺に道案内させてもらえませんか? 俺ら元々、ボクドーの住人ですし」

「は? 要らねぇ」


何を言い出すかと思ったが、拍子抜けでトレバーは即座に断る。


「え? でも外国の方ですよね? 道、迷いますよ?」


それでもタイソンがしつこくせがむ。


「ナビが……いや、とにかく分かるから無問題だ」


トレバーはナビゲーションと言いかけやめておいた。

説明しても面倒だし、まず判らないだろうと思った。


「でも、外国の方で土地の事やここの国の事は分からないでしょ? 道中教えますよ?」


 情報提供ガイド付きという条件が付けばトレバーも食指が動く。


「……ふむ、分かった、だがミアはどうする?」

「もちろん私も付いていくッ!」


タイソンの後ろに覚悟を決めた顔のミアが居た。


「あー、もうわかった、ガイドやレクチャーはがっつり頼む、ただし! 自分達の命は自分で守れよ」


根負けしたトレバーが頭を掻きながら許可した。

後ろでキルケーはやり取りを見て微笑む。


「ありがとうございます! しっかりお伝えします!」


 そういうとトレバーよりも確実にデカいリックサックを楽に背負う。

外に出て荷物が過積載状態の台車を引いて現れる。

ミアも可愛らしいウサギのようなナップサックを背負う。

過積載の台車の端に乗りトレバー達に付いていく。


「お前ら、俺らを護衛扱いする気だろ?」


ノリノリな雰囲気にトレバーが疑惑の目を向けた。

その意味に気が付いて慌てたタイソンが否定する。


「あ?! いえいえいえ! 滅相もない! 僕ら兄妹はこの界隈の行商で生計立ててます。雑魚のスライムや化けカラス程度なら槍と聖水で撃退しますよ。……でもバジリスクは流石にキツイけど……」


真摯な目と最後の一言が小さくなるのにキルケーは苦笑する。


「仕方ない、道中しっかりレクチャーしてよ」

「はい!」


快活に返事するタイソン達とともに村のゲートをくぐった。

するとカサスと村人たちが駆け寄って来た。


「あんたら、道中気を付けるだよ! コレ、ウチの婆さんが作った弁当だ、もってけ」


カサス達が包みに入った弁当を渡す。

塀の上で村人が手を振り、大声で見送る。

塀の向こうに足を伸ばしたパーカー君が現れる。

その途端、キルケーが鬼女の顔でパーカー君に振り向き威嚇する。


「あ? どうした?」


雰囲気に察したトレバーが呆れて尋ねる。

するとキルケーは何事もなかったかのように前を向き微笑む。


「どこぞのが呪いの言葉吐いて、糞ジャンクメカの豆鉄砲でターゲットロックしたみたい……。一度、あの少年の様なケツ赤く三倍以上シxア専用に腫れ上がるまでシバキあげてくれる……」

 一見爽やかな笑顔で殺意が十二分に篭った決意表明する。

いつかブチ切れた大首領さえそっちのけで死闘を展開するんじゃなかろうか?

……トレバーは額に手を当て杞憂した。


「それじゃトレバーさん、キルさん、何から教えましょう?」


 村のゲートから遠く離れ、古臭い玄武岩で作られた石畳の街道に入った。

そこでタイソンが早速質問はないか尋ねてくる。

確実にくそ重い台車を涼しげに引く馬力にトレバーが感心しながら尋ねた。


「そだなぁ……お前の馬力は置いといて、そもそも魔王って何者だい?」

我ら組織ジャクルトゥにとって最大の敵対勢力である魔王軍の首領について尋ねる。


タイソンは一瞬考えてからゆっくりと話し始めた。


「ご存じかもしれませんが、この世界の大陸は六つあり、極寒の北東の大陸ディマーズに住んでいる魔族達の王様です」

「ほーん、で?」

「名前はラゴウ、元々ディマーズには魔界と呼ばれる超大地下空洞があって、以前より群雄割拠状態の魔族を統一したんです。そこから地上に上がり、降臨の兆しがあると噂される邪神との戦いに備える為に世界征服を始めたそうですよ」

「はぁ……邪神ねぇ」


 相槌を打ちつつトレバー達は身内の大男の坊主バクシアンを思い出した。

邪神と聞いたらあのおっさん狂信者だろう。

あの生臭坊主もフィールドワークさせるべきと提案を考えてみた。


「はるか昔、この世界に邪神とその配下が降り立ち、ありとあらゆる生物を食い荒らしました。その危機に魔族、人間、亜人、鬼族、妖精、竜族……ありとあらゆる種族が力を合わせて退治したそうです。……ちなみにその遺骸の一部は各地に点在していますよ」


邪神に興味がありそうと感じたタイソンはかつての事件を説明した。


「へぇ……それはそれは……」


滅んだ敵に興味はないと言わんばかりにトレバーは聞き流す。


「トレバーお兄ちゃん、あそこがそうだよ」


台車からミアが街道から南にある灰色に変色した地点を指差す。

薄汚れた大地とその真ん中にある巨大な骨の様な欠片があった。


「ほぅ? なんか腐った臭いがするな?」


 風が据えた臭いを運んでくる。

……そう言ってもトレバーは改造人間である。常人であるキルケー達には何も感じない。

そこでやっと興味がわき出した。

未だに影響を及ぼすその物体を調べたくなった。


「ここでわかるんですか? 凄い……ええ、戦いで邪神の一部が切り落とされて、そこで腐って大地まで腐らせたそうで……皆は邪神痕って呼んでます。……あ、近づいちゃ駄目ですよ! 立ち入ったら訳のわからない病気になって死んでしまいますよ!」


タイソンがその感覚に驚きつつ説明する。

その途端、トレバーが足を向けるので慌てて止めた。


「そうか……ならやめとくか……」


制止を聞いてトレバーは素直にやめた。

しかし、会話をモニターしている堕天マッド博士サイエンティストバクシアン生臭坊主は興味津津だろう。

多分博士の部下と坊主の僧侶部下が連れ立って調査に来ると予想した。


 そのまま道なりに進む。

話は職業ギルドや流通通貨であるデルー、人種等の内容になる。


「さっき言ってた魔族、人間、亜人、鬼族、妖精、竜族はそこら中にいるのか? つーか亜人って?」

通信で堕天博士の注文を受けたトレバーが先ほどの種族について尋ねる。


「亜人種はドワーフにエルフ、獣人、ホビットの四種族で独自の文化習慣と掟を持ってます。……そういうのもあり亜人同士でも仲が悪くて、もちろん人間や魔族、鬼族とも仲がそんなに良くない。……だけどホビットだけは獣人族以外なら大概友好的ですよ」


説明しつつタイソンは周囲を気にする。何かを感じたらしい。


「魔族は?」


ただ歩くのに退屈したキルケーが尋ねた。


「魔族は魔力と知力が恐ろしく高い種族で勿論、体力もあり長命……物凄くプライドが高くて我儘、あったことないけど近くにいただけで殺されるって話ですよ? 魔族と比較的仲がいいのは筋力と体力が無尽蔵の大型の鬼族と獣人だけ……」


そこまで言ってタイソンは首を竦めた。

その三種族は人間とは相性が悪いらしい。


「竜族と妖精は?」


前方を見ながらトレバーは質問する。

タイソンは荷車を押しながら説明に必死だった。


「竜族は南の大陸に居る種族です。この世界で一番強くて賢いって話ですよ。……南の大陸はここマンダゴアの南側にあります。人間は誰も行った事のない大陸で、凄い大きな獣や見たことのない化け物がうようよ居るって評判です。そこで王様のようしているそうですよ。……それと妖精と小型の鬼族はそこら中に居ますよ。どこででもいますし、仕事を手伝ってお駄賃貰ったり悪戯したり遊んで暮らしてます。鬼族以外と仲がいいんですよ」


「ふーん、あそこで派手に大喧嘩している二匹はその妖精と鬼族?」


 キルケーが街道を指さす石畳の道の真ん中に彼らは居た。

妖精と小鬼が大騒ぎで取っ組み合いの大喧嘩していた。

二匹は一〇センチほどの身長で子供の様な姿をしている。

小鬼はアロハシャツの様なシャツに短パンにサンダルを履いていた。

やんちゃそうな顔立ちに角が二本生えてよりわんぱくさが際立っている。

妖精はジャケットにゆったりしたパンツに帽子を身に着けていた。

可愛らしい中性的な顔立ちをしている。

しかし両者とも喧嘩のせいでボロボロだった。


「この野郎、やっちゃうぞ! ばかやろー!」

「うっさいわ! こののーたりん!」


お互い叫びあって飛びつく。

噛み付き、殴りあうは収拾がつかない。


「おい、タイソン、取り込み中らしい。横を通ろう」

「わかりました」


騒動に巻き込まれるのは御免とそそくさと横に避けて通り抜けようとする。

その時、小鬼が妖精を思い切り蹴っ飛ばす。

そのままキルケーの足元に転がって来た。


「よくもやったなぁ! うぇぇぇぇぇん……?」


妖精が目の前にいたキルケーの視線に気が付き、泣き出す。


「おやおや、喧嘩は道の横でしっかりやんなさい、両方とも頑張れ! 負けるんじゃないよ!」


にこにことして喧嘩のマナーを説いて戦闘をあおって行く。

しかしあおったおかげで巻き込まてしまった。


「うん、ありがとう奇麗なおねいさん! 僕、頑張る!」


あおられた妖精は闘志を漲らせる。

だがそこに小鬼が待ったをかけた。


「待て待てーいッ! そのカッコいいおねいさんはオイラを応援しているんだッ!」

「ちがーぅっ! 可愛いおねいさんは僕の味方だいッ! ねー、そうだよね?」


いきなり巻き込まれたキルケーだった。

しかし妖精と小鬼のヨイショに意外にチョロく反応してしまった。


「え? アタシ? アタシの事? うれしいなぁ~、君たちはどっから来たの?」

「向こうの森に居たんだけど、魔王軍がやってきて森を荒らし始めたから逃げて来たんだ」


妖精が怒りに満ちた顔で文句を言う。

今度は小鬼が不満を言う。


「魔王軍が来たから、仕事にありつけると思ったら小鬼は要らんと言われて追い払われたんだい」


小鬼はしょんぼりしながらそうつぶやく。


「お腹が空いたのに何もなくて、居たのは此奴小鬼だけ……」

「お腹空かしてブラブラ歩いてたら妖精こいつがメンチ切ってくるから……」


その瞬間、先ほどの出会った瞬間の怒りを再現する咆哮が周囲にこだまする。


『『な、なんだとーッ!』』


 めんどくせぇなという顔でトレバーが背中のザックを下ろす。

中から先ほどカサスに貰った弁当を二匹の前に出す。


「オラ、俺らの飯くれてやっから道の横で分け合って食え!」


その途端、二匹の怒涛の同時ヨイショ攻撃が始まった。


「良いのかい? 気風きっぷがいいね! かっこいい兄さん!」

「おねいさんの彼氏? 美男美女のカップル? ベストカップルだね!」

「おねいさんも優しいけどお兄さんも優しいよね……羨ましい」

「おにいさんの優しい所におねいさんがやられちゃったんだねぇ……わかるわ~」


 小鬼と妖精が交互に目標を変えながらヨイショする。

その手際に商人であるタイソン兄妹も唖然とする。

これが初見とは思えないほどの見事な連携であった。


「お前ら! おだてても何も出ねぇぞ!……しゃぁねぇ、もう一つ喰うか?」


そういうトレバーの目尻と口元は見事に緩んでいた。

……キルケー共々チョロいカップルである。


「というわけで、お兄さん、おねいさん、一宿一飯の恩義で付いて行きます!」

「来なくて良し!」


妖精と小鬼の宣言を間髪容れずにトレバーは却下する。

だが、二匹はアピールを始めた。


「えー! 小鬼はともかく可愛くてすばしっこくてどこにでも入り込める僕がお供だと便利だよ?」

「おしゃべな妖精は潜入してもしゃべってドジ踏むよ? その点、オイラなら悪戯得意だもん。余裕なのさッ!」

「うん、二匹とも要らね……森に帰れ」


懸命のアピールをトレバーは一蹴する。

するとすぐに目標を変えた。


『『うわぁぁぁん、おねいさーん‼』』


二匹は即座にキルケーに助けを求める。

にっこり笑うキルケーがタイソンに尋ねる。


「タイソン君、約束事や契約を守らせるおまじないや魔法やアイテムってないの?」


「はい、妖精や小鬼はよく悪戯やさぼったりするんです。安物でも良いので宝石アクセサリーを契約の時に渡すと服従するそうですよ」


 それを聞いた小鬼達から怒号が飛ぶ!


「ごっらぁー! 若造! そんな事教えるんじゃねぇ! サボれなくなるだろ? そういうことは妖精によろしくねぃ!」


又、妖精もブーイングをしはじめた。


「ブー! そんな事したら遊べなくなるじゃんかよー! そーだ! 小鬼だけ働けばいいんだよ!」


文句に苦笑しながらトレバーが呆れてるキルケーに尋ねる。


「キルケー様、お宅の部下小僧、ちょいやかましいんだが……」

「いえいえ、大佐の新兵パシリでしょ? ウチの部下は躾が厳しいんですの」


ニコニコしながらタイソンに詰め寄る二匹の後ろに回る。


「じゃ、とりあえず二人で叱り飛ばすか……」


 トレバーの合図とともにスッと二人は呼吸する……。


『『ごるぁぁぁぁぁっ! やかましいわッ! クソガキども!』』


『『ヒィィィィッィッ!』』


 路上に轟雷ともとれる怒号が小鬼と妖精の直上に落される。

巻き添えを食ったゴティア兄妹もまとめて震え上がる……。




















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