バリアス、覚醒
先遣隊はジャクルトゥの幹部三人により開戦一〇分程度で壊滅した。
クリムゾンとキルケーの怒りの猛攻を受け、ビギナーメイジは爆炎に巻かれた。
仲間たちが燃える中、必死に緊急跳躍の巻物を広げる。
ローブはほぼ焼け落ち、全身に火傷を負った状態で駐屯地に帰還した。
治療も受けずにバリアスの天幕にもんどりうちながら入る。
処刑は覚悟の上、アドバンス捕縛やあの奇妙な人間達の情報を伝える為だ。
「バ、バリアス……様! せ、先遣隊が……た、だぃま、ぜッ、全滅しました。……相手は男女二人と……蜘蛛の様なア、アイアンゴーレムもどきです。……アドバンス様が捕まり、生き残りも次々に捕縛かその場で殺されました」
瀕死の報告を聞いたバリアスは報告を受けて顔色が変わる。
息も絶え絶えなビギナーを横たわらせて回復薬を飲ませた。
詳細を聞くために容態を安定させる。
しかし今度はバリアスがあまりの衝撃で命令がどもる。
「お、おい! そ、それはま、真か!?」
薬が効き、危機的状況から少し回復したビギナーが頷く。
消し炭になった皮膚が下に剥がれ落ち、落ちた場所から真新しい皮膚が見えて来た。
未だ混乱の最中でビギナーの報告が要領を得ない。
「開戦と同時に蜘蛛ゴーレムがわけのわからない魔法、……
話を途中まで聞いてバリアスは頭を抱える。
自分の今までの常識を疑う報告だったからだ。
「ちょ、ちょっと待て!? まずゴーレムが
バリアスは次第に追い詰められて混乱していく。
しかし否定しても結果は目前に突き付けられたのだ。
ビギナーは必死に報告を続けた。すでに自棄になっていた。
「私も判りませんよ! それに武道家か戦士らしき奴に居たっては直前に
ビギナーは腹を括ったものの、アレが一体何だったのか?
一方、バリアスはまだ認識できていなかった。
「バカをぬかすな!? マスター級以上の冒険者、戦士、術者などほんの一握りだ! 殆どは各地に隠れておるかバティル城に立て篭もっておるわ!」
非常識な情報を浴びせられ続けてバリアスは恐慌状態寸前で怒鳴る。
「送られた軍勢は全て壊滅しております! どうせ死ぬのなら私は戦って死にとうございます! なにとぞバリアス様直々のご出馬を……」
混乱していたバリアスはビギナーの懇願にようやく我に返った。
自分も処刑されるならやりたい様にやると開き直った。
脱力してすっきりした顔で肯き、配下にビギナーの治療を手配させる。
人払いして大きく呼吸した。
真剣な表情で宝玉の前で呪文を唱える。
宝玉の上に玉座に座する魔王の姿を見てゆっくりと平伏する。
……だが、以前のような以前のような恐怖は起きなかった。
……既に失敗による処刑を下される覚悟は出来ていた。
「魔王様、先遣隊師団長バリアスめで御座います。例の人間の続報を報告に参りました」
「まだ、始末出来んのか……貴様……」
バリアスは魔王の
……既に開き直り、破れかぶれでラゴウを見据えて言い放つ。
「偉大なる我らが魔王陛下にご無礼を承知で申し上げます。先程、先日の二匹とは別の男女二匹と蜘蛛みたいなアイアンゴーレムもどきの存在を確認いたしました。そやつらと配下のアドバンス級率いる討伐大隊がゲシル村付近で交戦、一〇分持たずに壊滅したと報告がありました。陛下からお預かりした精鋭達を失策で簡単に失った我が罪、万死に値します。よって軍団長の任をお返いたします。一兵卒となり
一方的な物言いで処刑は確実だ。
死ぬ前にひと暴れしてみたかったバリアスはすっきりした顔で怒れる魔王を見据える。
その姿を見た魔王の面白くもなさげな顔が幾分変化したように見えた。
口から処刑命令とは別の言葉が飛び出してきた。
「ほう? 一〇分でか? 貴様の出陣前に如何様な戦いだったか、詳細に教えろ」
ラゴウの命令に一瞬、理解できず、バリアスはキョトンとする。
そして直ちに声を上げた。
「はっ?! それでは敗残兵のビギナーより報告させまする。……誰ぞおるか?!」
バリアスは配下に治療中のビギナーを至急連れてこさせる。
天幕に入ったビギナーは目の前に映し出された玉座に座る男が魔王と分かった。
その瞬間に呼吸が止まり、恐怖で震えながら平伏した。
「おい、貴様が見て来た事を陛下に一つ残らず報告するのだ」
バリアスは報告するように急かす。
顔面蒼白のビギナーは顔を伏せて、ありのままの出来事を報告していった。
報告が終わり、バリアスは魔王の顔を見る。
不愉快そうな顔の目にギラっとした輝きが戻り、口元に邪悪な笑みが浮かんでいた。
「ククククッ……判った。ではバリアス
いきなりの進攻命令にバリアスは顔を上げた。もう少し生きられるらしい。
「か、畏まりました、直ちに始動いたします! 三日後、バティルに攻撃を開始致します」
「うむ、攻撃前に全部隊にモ一ンスター・マジックアイを一匹配備し、奴等に備えよ! 見つけ次第映像を送れ!」
不機嫌さは変わりがない魔王の口調は明らかに歓喜に溢れていた。
「ははぁ!」
バリアスは頷き、最後のチャンスに望みを掛けた。平伏するビギナーへ同じようにチャンスが与えられた。
「それとビギナー、貴様はノービスに昇格、キメラ三匹とブラックナイト二組ほど連れてボクドーを襲え、多分そこにも潜伏しているだろう。敵をいぶりだせ。姿を観たい」
「はっ!」
ラゴウは一方的に指示を出し宝玉の映像が消えた。
平伏したままのバリアスとビギナーが取り残された。
そしてバリアスとビギナーは安堵の息を漏らしてそのままへたりこんだ。
覚悟を決めたものの救われたとわかり脱力する。
だが飛び起きて軍勢の移動を指示した。時間は無いのだ。
「ふぅぅぅぅ、たすかったぁ……じゃない! 誰ぞ! 大至急、陣を引き払え! バティルに攻め込むぞ!」
「バリアス様、私は?」
へたりこんだままの
「ノービス、貴様はローブを着替えて、この巻物を持って軍令所に昇格の申告せよ。それからこの指輪を嵌めて巻物を使い召喚陣でキメラとブラックナイトを呼び出せ!」
「ははっ」
バリアスは手にはめた指輪を渡す。
それは複数の魔物や兵を同時に操れるコントローラーリングだった。
机に向かい手近な巻物に命令と署名を書き
巻物を受け取ったノービスは慌ただしく出ていく。
取り巻きが天幕の片付けに入る中、バリアスの気分が高揚してきた。
寿命が三日以上伸びただけでない。
あわよくばバティル陥落させ、ついでに件の輩も捕縛すればいい。
うまくいけば魔王の目から離れた閑職に
……俄然張り切りだした。
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