第3話 先発16:25特急・町田山行き
「次は××駅です。」
アナウンスで私は、目を覚ました。しばらく眠ってしまっていたようだ。隣の女はいなくなり、私はまた1人、座席に座っている。窓の外を眺めた。特急はすっかり暗くなった空間を流れるように進む。光っているのは街と駅だけだ。私は車内を見渡す。だいぶ乗客も降りて空席の方が多くなっている。私はイヤホンを耳に篏め、携帯用音楽再生機を操作した。私の好きな歌手が、いつもと同じ歌詞を歌い始める。
You was a my girl. Long time no see. I needed your voice to live. We cannot go back to the past.
私はシートを目一杯倒し、窓を見た。たくさんの星がまたたいている。人類が惑星間旅行をするようになっても、私は宇宙に行きたいとは思わなかった。得体の知れない奇妙な星に行くぐらいなら、こうやって電車に揺られている方がずっとましだ。
「発車いたします。ご注意ください。」
「ご乗車ありがとうございます。この電車は、特急、町田山行きです。停車駅は...駅、...です。」
「ご乗車には乗車券の他に特急券が必要です。」
私は、カバンから幕内弁当を取り出した。蓋を開ける。食べ物の匂いが近くの空気を満たす。私は慌てて周りを見た。幸い近くには乗客の姿はなかった。
豪華な主菜や丁寧に味付けされた副菜とともに白米を口に入れる。噛むたびに口の中には上等な食材の味が広がる。こんなに美味い食事は久しぶりだ。私は思わず頰を緩める。それと同時に目が涙でいっぱいになった。溢れる涙は頰を伝い、私の顎を湿らせた。なぜ泣いているのだろう。自分でもよくわからないが、涙は止まらず、私は泣き続けた。
快速急行の道列 @bokuteki
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