第五話
――案内され、通された部屋にはアザナ達を含めて十名ほどの人間が居た。
促されるままに座ると、すぐに神官が指示を出して一人ひとりにあるものが配られた。
「――プレート?」
「認識タグです」
神官がそう説明する。
神官がタグと説明されたそれは銅のプレートで出来ていて、自分の名前が刻まれるとともに中央部には覆われるような形で石が埋まっていた。
「ここでは、最下位から琥珀・真珠・翡翠・尖晶・金剛の五段階にランクが分かれていて、ランクが上がる時は皆様のお手元にあるタグに埋め込まれた石を交換する事で見分けをつけています。
この作業は神官による手作業の為、時間はかかりますが偽造は出来ません」
神官が手を打ち鳴らすと、丸い水槽に入った水が運ばれてきた。
僅かに光輝くそれは聖水だ。
神官が見せびらかすようにタグを聖水に浸す。――特に変化は無い。
次に、神官は懐から別のタグを取り出した。
今度はそれを聖水に浸した。――変化があった。
「ひっ」
アザナの背後から悲鳴が零れた。
タグが浸かった先から、聖水はドス黒く色を変えて濁り始めたのだ。
水に花を潰し入れて色水を作るように、――すっかりその色を変えてしまった聖水がこれから冒険者になる人々の前に晒される。
「……わかりましたね?」
ごくり、と数人が固唾を飲み込む。
運ばれてきた聖水は、数人のスタッフにより奥へと戻されていった。
「それでは話を続けます。
ご想像されているとおり、金剛に近づけば近づくほど高難易度の依頼を受けることが出来ますが、当然命の危険は高まります。
皆さんのランクは等級審査により変動致しますが、ランクが上がる分に関してのみ事態することも可能なので、その時は審査員にキチンと理由を述べるようお願いします」
脅しともとれる発言だ。
アザナにとって己の意思でランクを維持出来るというのは願ってもない事なので、ただ大きく頷いていた。
「それから、プレートのカラーは四種類。
銅・銀・金・白銀に分かれています。
これは皆さまの信頼度により変わっていきます。
いくら強く、金剛等級の依頼をこなせるとは言えど、必要以上の器物破損や異性関係が淫らで問題を起こす人を信用するのは難しいですよね?」
その発言を聞いていたアザナとアインハルトは顔を見合わせる。
――確かに、さっきのならず者冒険者は銅のタグだったな、と。
「冒険者組合では、主に冒険者登録・等級審査を行っています。
ここで受けることが可能な依頼は、国が治安を維持する為に配布した初心者用の依頼なので、琥珀から翡翠までの冒険者専用の依頼となっております。
ある程度慣れてきた方からギルドで依頼を受けることとなります」
「冒険者組合とギルドで受けられる依頼って、そんなに違うんですか?」
アインハルトが尋ねると、神官が笑顔を浮かべた。
「はい、とても違います。
冒険者組合は国が管轄していますが、ギルドは街が運営している組織です。
ギルドではその街でしか受けられないような特殊な依頼や、細々とした雑用などさまざま依頼があります。
冒険者組合での依頼はあくまで国からの依頼なので、景観維持の為の清掃や、手厚いサポートのついた討伐任務などが主となります」
「あ、補佐がつくのでありますね?」
「はい、とはいえ最初の数回だけです。
適正がある、と判断された人から単独で依頼を受けていただきますが……」
そこまでで神官は話を区切った。
「先ほども信頼と信用のお話をしましたが、ギルドで依頼を受けた場合、皆様は街の中での振る舞いやどう依頼を受け・終わらせたかを見られます。
一つ依頼を終えるたびに、事細かく記載された書類が冒険者組合に提出され、等級審査の判断材料になります」
今、この場での態度も見ている。という宣言だった。
アインハルトの背が緊張で伸びた、隣で座っているアザナはどこ吹く風だが、内心は(こりゃ気を引き締めてゴマ擦らなきゃ不味いでありますな~)などと考えている。
「ジョブは、どう取得するんですか?」
別のところから手が伸びた。
質問に、神官は答える。
「冒険者組合で希望したジョブに対応する訓練施設に入ってもらいます」
「神官希望の場合は教会に行くことになる、ということでありますか?」
「そうですね。神官見習いとして同じように半日ほど簡単な訓練を受けていただきます。
あくまでを基礎を教えるだけなので、冒険者組合での依頼を実践訓練の代わりとしてくださいませ」
「……随分と手厚い福利厚生だな」
アザナが思わず視線を向ける。
その先には格闘技姿の男がいて、どんなジョブを希望しているのかが随分とわかりやすかった。
ふくりこうせい――アザナが頭の中で復唱する。
(――知らん言葉だ) と。
「昔に比べるとかなり改善されました。
一時期は強いだけの冒険者ばかりになり、国を運営するための小さな仕事を行う冒険者がいなくなってしまい、病魔による汚染に晒されたこともあります。
なので、こうして冒険者を多く雇い、鍛え、育てることで国の治安維持に努めているのです」
やましいことは何もないと暗に告げた神官に、アインハルトは素直に関心していた。
「冒険者組合が改善されたのは今から数十年ほど前、〝賢者様〟がこの世に訪れたとき……でしたっけ」
「その通りです、アザナ様。
正確にいうと今から九十五年前の出来事ですね」
神官がよくできましたの合図なのか、人差し指でぐるぐると外側に向かって楕円を描いたまま、その楕円に半円をいくつも被せるようにして描ききった。
「……凄いな、アザナは。花丸だ」
アザナはなんともないように微笑みながら思った。
(花丸、知らん――) と。
異世界転生者にゴマすってたら思いの外懐かれすぎてしまった件について。 50嵐 @50rasi
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