第四話

 アザナとアインハルトが受付できるようになったのは、騒ぎが起こってから三時間ほど後だった。

 受付の女性は、アザナとアインハルトに「まず」と声をかけた。


「お二人とも、自分の血液型は知っていますか」


「いえ、わかりませんね」


「俺も……捨て子だったからなぁ」


「では採血検査致しますね」


 そう言って、アザナとアインハルトの手首に白色をした四角いパーツをあてがった。

 僅かな痛みが走り、アザナが眉根を吊り上げる。


「暫く時間がかかるので、その間に登録用紙の記入を進めましょう。

 文字の読み書きは可能ですか?」


「あー……ごめんなさい、会話は出来るんですけど……」


「ちょっと手癖があるんですけど」


「問題ありませんよ。

 一応、こちらで代筆も出来ますけど……」


「えーっと……アザナ、頼んでいい?」


「構わないでありますよ~」


 ニッコリと愛想笑いする受付の女性から登録用紙を二枚受け取り、自分の名前とアインハルトの名前を記入したアザナは、自分の分を簡単に埋めながらアインハルトに訪ねる。


「ハルトさんのお誕生日は、いつ頃でありますか?」


「俺は八月七日だよ」


「歳は?」


「十六」


 十六か、とアザナが呟く。

 アザナとは一つ違いだ。


「あ、アザナの方が年下だったんだ」


「そうでありますねぇ」


 親の有無確認で、無の方に丸をつける。


「育ての親も、親としては判定入るでありますかねぇ」


「身の保証をしてくれる相手なら入りますね」


「一応、村長がそうかなぁ」


 アインハルトの用紙に丸をつけたアザナが、希望職種の欄で手を止めた。


「希望ジョブ……何が良いでありますか?」


「あー……何がいいかな」


「商人系ギルドメインでの活動でないなら、戦士系か魔法系ジョブのどちらかで良いと思いますよ」


 商人系? とアインハルトが首を傾げたので、アザナが「冒険者ギルドメインの我々には関係無いであります」と誘導すると納得したように頷いて唸った。


「何がいいと思う?」


「アインハルトさん、剣の腕前ありますし騎士か戦士で良いのでは?」


「じゃあ、騎士にしようかな」


「騎士でありますね」


 ついでにサブ希望欄に戦士を丸をして、アザナは自分の希望ジョブを考える。


「そろそろ検査キット回収しますね」


「あ、はい」


 アザナとアインハルトから、赤くなったパーツを受け取った女性は手元に置いていた血液判定用の神水にパーツを入れると魔法をかける。


 暫くして、軽く目を見開いた女性が検査結果を告げた。


「アインハルト様はAB型でございますが、アザナ様は……R型ですね。こちら希少な型ですので……」


 R型? とアザナは首を傾げた。


「血液型にそんな型、ありました?」


「はい、本当に希少なのであまり聞きなれないとは思うのですが……この近辺でも、ご登録されている冒険者様は五名ほどしかいませんね」


 なるほど。とアザナは色々腑に落ちたように頷いて希望ジョブで神官に丸をつけた。

 アザナの登録用紙を見ていた受付の女性も、どこか安心したように胸をなでおろしている。


 一人だけイマイチよくわかっていないアインハルトが、登録用紙をぼんやりと眺めている。


 用紙を確認した受付の女性が、不備がないのを確認すると印鑑を押す。


「それでは、待機室の方で暫くお待ちください」


 一礼して、カウンターから外れ職員に誘導されるままに待機室に向かう。

 待機室には長椅子が並べられており、どこに座ってもいいと言われた二人が空いている場所に座る。


「ここからまた待たないといけないのかぁ」


「時間がかかるでありますねぇ」


 アインハルトに返事しながら、アザナは考えていた。

 何故、田舎村の貧乏な女が何度も馬車で街に向かったのか。

 わざわざ小さな子供を連れ出したのか。


 ――母親も、R型だったのだろう。


 この近辺の街全て合わせて冒険者が何人いるかわからないが、冒険者になるのが五名ほどしかいないくらいには元々そんなに多くないのだろう。

 となれば、買ってでも欲しい血液というわけだ。

 誰でも教会で傷を治してもらえるわけではない、神に信仰するという性質から、信者や神官でもない限り普通に使えるような場所ではない。

 病院で緊急時に使う血液型として、どれほど貴重だろうか。


 アザナ自身が点滴を受ける側として考えて、幾らかかるのかを想像してゾッとした。


 ともあれ、自分で回復できるに越したことはない。

 神様を信仰したことはないが、何とかなるだろうと天を仰いだアザナは、アインハルトに声をかけられてようやく待機室の外へ呼ばれている事に気が付いた。


「ぼーっとしてた?」


「やっと冒険者になれるんだなぁ、と思いまして」


「そっか、俺も」


 その割には平然とした態度のアインハルトに、なんとも言えない不思議な感覚を感じながらアザナは立ち上がったのであった。

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