第54話『夜道はこわいのじゃ』


 むにゃむにゃ……心地良いのじゃ〜

 婆っちゃのにおいがするのじゃ〜


 ……むにゃ……


「起きたか、メル。この甘えん坊さんが〜」

「婆っちゃ……ばっ、ちゃ〜」


 婆っちゃの笑顔が眩しいのじゃ。そうか、婆っちゃがメルの頭を撫でてくれてたんじゃな。だからこんなにポカポカした気持ちなんじゃ。


 ……あ、ゆ、悠人もいるのじゃ。


「おはよ、メル。少しは落ち着いた?」

「ち、ちょっとお手洗いに行ってくるのじゃっ!」


 メルは悠人の横をすり抜けて病室から飛び出したのじゃ。そして何故か全力で走っているのじゃ。

 でも、どうしてメルは逃げるのじゃ?

 本当は悠人に抱きつきたいのに、笑って欲しいのに、何故……


 メルが居るから、メルがここに在るから、婆っちゃが危険な目に遭った……

 メルが居るから、悠人も巻き込んでしまった。

 もしかしたらメルは……悪魔なのかも知れないのじゃ。自分が何者かわからないけれど……これじゃ人を不幸にする悪魔じゃ。


 うぅ……ま、前が良く見えないのじゃ……


 別に泣いてなんか……いないのじゃぁっ……



 メルは自分の在るべき場所に帰らないといけないのじゃ。それが何処かなんて知らないけれど、それでも……もう、みんなを傷付けたくないから。



 だから、バイバイ、なのじゃ。


 婆っちゃ、——悠人。





 ……


 勢いで病院を飛び出して来てしまったのじゃ。この服、寒いのじゃ。もう、真っ暗なのじゃ。

 人がいっぱい歩いてるのじゃ。でも、誰もメルを見てないのじゃ。婆っちゃみたいに、優しく笑ってくれないのじゃ。


 寒い……どっちに行けばいいのじゃ?

 そもそも、何処に向かっているのじゃ?

 知らない町、夜、……こわい。


 一人は……こわいのじゃ。


「だ、誰なのじゃっ……?」


 あ、あれ……?

 今、誰かに見られてたような……うぬぬ……き、気のせいじゃ。だってメルを見てくれるのは婆っちゃと悠人くらいじゃ。だんだん分かってきたのじゃ。


 メルは皆んなと違うのじゃ。


 あ、あのアパートは……知ってる場所!


 メルは見覚えのある場所に着いて浮き足立っていたのじゃ。そして、いつの間にか、



「……あ……ここ……」



 婆っちゃの駄菓子屋の前に居たのじゃ。

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