第53話『心の隙間』(※)
お婆ちゃんは優しく微笑んだ。メルはお婆ちゃんの左手のぬくもりに身を委ねて眠る。
呆気に取られた僕は言葉を失った。確かに、今までメルといる時は目の調子が良かった節がある。いったいメルは何者なんだろうか。
そんな思考を巡らせているとお婆ちゃんが続けて言葉を綴った。
「メルは天使かもな」
「……てんし!?」
「おうや、天使な。天使が下界に迷い込んだんちゃうか、なんて思っとる。周りの殆どの人が視えとらん。子供達と、儂らと、後数人しかメルを認識しとらんのや。もしかしたらその数人も儂らが視とる幻想かも知れんな。ま、勝手な憶測やけれど」
流石に天使はないよ、お婆ちゃんっ!?
「何処かで翼でも落としたかね、この子は」
つばさ……
おちた天使は、もう二度とお母さんに会えないのじゃな……かなしい話じゃ
ふと、彼女の放った言葉を思い出した。
図書館で絵本を読んであげた時にメルがふと言った言葉だ。だからって、まさか本当に?
でもそうだ、思い返してみるとメルが人と絡んでいるのは殆ど見なかった。駄菓子屋に来る子供達の他に……お花見の時のおじさん……あれ……そのおじさんの顔が思い出せない。
特徴のある顔だった筈なんだけど……
後、楠木さんは……
メルとすれ違った時くらいか。お婆ちゃんの言っている事が本当だと仮定したら、多分、彼女はメルを認識していない。
メルに会えた人の共通点がわからない。そもそも、そんなものはないのかも知れない。
メルに会えた人達は……
皆んな、何かしら幸せな気持ちになる?
心の隙間に入り込んで来る感じ。足りない何かを埋めてくれる優しい感じ。
酔っ払いのおじさんも、何か悩んでいてメルを認識出来た?
僕は目の病で悩んでいた。
お婆ちゃんは……ずっと一人だった。
彼女に会えた人は、皆んな心に穴が空いている?
考え過ぎかな。
少なくとも、彼女に……メルに会って不愉快な気持ちになった人はいないんじゃないだろうか?
病気がマシになるのも、心が軽くなるのも、全ては天使の力……無意識に人を幸せにしているのか。
わからない……俄かには信じられない。
でも、メルの寝顔を見ていると、そんな事はどうでも良くなるな。
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