第52話『ヒトならざるモノ』(※)
メルがいない?
おかしいよ、そうだ。お婆ちゃんの病室に行ったに違いない!
視界の悪い中、僕はお婆ちゃんの病室まで走った。途中、看護婦さんに怒られたけれど、すみませんと一言言って構わず走って到着した病室の前。
乱れた息を整えてからドアを開ける。
「おや、悠人かえ」
「お婆ちゃん……えっと、メルは来てないの?」
メルの姿が見当たらない。そんな筈は……
「メル……?」
そんな筈はないんだっ……
「メルならここにおるよ。ほれ」
「メル……良かった……やっぱりいるじゃないか」
「疲れたんか、ベッドにしがみついて寝てしもうたみたいやな。かわいそうに、嫌なもの見てしまったからな」
ベッドに上半身をもたせて辛そうな表情で眠るメルの頭を優しく撫でながらお婆ちゃんは僕に笑いかけてくれた。
安心した。あの先生はメルの事は把握してなかったんだ。それだけだよ。
「メルはな……この子は、不思議な子や」
「お婆ちゃん?」
確かにメルは不思議な感じだけれど。
「身元もわからん、歳もわからん、寒い冬の日に路地裏で凍えそうになってたのを見つけた時、周りの人間は誰もメルに見向きもせんかった」
「それって……」
「一年と半月程前の事や。今にも凍えそうなメルはな、何故か片手にスマホを持ってた。電波は繋がってない形だけのスマホやわ。それしか持ってなかったんや。真っ白なワンピース一枚でな」
捨て子……?
それにしては大きいし、家出……だとしても真冬にワンピース一枚はおかしい。
「この子と一年以上暮らす内に気付いた事があるんや。メルは多分、ヒトやない。普通の人には視えてないと思う。メルが接した人達もまた、視える人なのか……それともメルが接した人には視えるのか。逆にな、こっちが幻想を視せられとるんかはわからんけど……この子はヒトの類とは逸脱しとる。
見えへん者には、見えへんのやと思う」
メルが、ヒトじゃないって……お婆ちゃんは何を言い出すんだ?
「悠人や、これ、指何本か見えるか?」
お婆ちゃんは右手の指を三本立てて僕に言った。
「三……かな?」
「おうや、三本や」
「……あれ、僕……」
良く考えたら視界がマシだ。悪い事には変わりないけれど、視野が狭い事には変わりはないけれど、さっきは見えなかった指の本数は見えた。
お婆ちゃんは優しく微笑んだ。
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