第51話『犯人は誰なんだ』(※)


 メルが目を覚まして良かった。

 お婆ちゃんも大事をとって入院するけれど、怪我もなくて本当に良かった。


 でも、


 僕は犯人を許せない。これは間違いなく意図的なもの……事故ではなく、事件だ……!

 しかし誰が?

 まさか、楠木さん……?


 でも楠木さんはメルの事は知らない筈。いや、実は知っているのかも。彼女の性格なら僕が関係を切った事で逆上してもおかしくない、か。

 それは……考え過ぎ、違う、思い上がりか。


 とはいえ、可能性の一つとして頭の片隅に置いておかないとな。そうでない事を祈るけれど。


 メルもかなり滅入ってしまってるし、何とか犯人が捕まればいいんだけど。

 でも……今の僕は……


「あら、悠人君。今夜はいつもと違う理由で来たのね。そんなに私に会いたかったの?」


 この声は、眼科の先生、

 大神圭子先生だ。顔見知り……


「悠人君、どうやら火傷よりも深刻みたいね。これが見える?」

「三、ですか?」


 彼女は僕の掛かりつけの医者、


「ブブー、残念。一、よ。」

「……そう、ですか……」

「怖い?」

「いえ……覚悟はしてますから」

「視えなくなるのよ、何も。悠人君の親御さんの顔も、この町の風景も、そして、一緒に運ばれて来たお婆ちゃんも」


 ……僕の病気は治らない。

 進行が悪化して、もう、止められない。

 視えなくなるのは、時間の問題だ。


 視野がどんどん狭くなり、いつしか何も……


 家族も、夢咲も、お婆ちゃんも、そして……


「メルも……」


 一瞬、沈黙が走る。その後、先生が言った。


「……悠人君、その、メルって?」


 え……あぁそうか、先生はメルを知らない。


「僕とお婆ちゃんと、もう一人女の子が運ばれて来たでしょ。あの子がメルだよ。お婆ちゃんの駄菓子屋で……」


「いいえ、運ばれて来たのは悠人君、貴方とお婆ちゃんだけよ?」


「…………え……?」



 そんな筈はない。確かにメルも……


 僕は病室を飛び出し下の階にあるメルの病室へ走った。暗くて視界が狭い。

 何とか辿り着いた僕は病室のドアを勢いよく開けた。


「……メル?」


 誰もいない。


 それどころか、何もない。


 僕は急いでお婆ちゃんの病室へ向かった。きっとメルはお婆ちゃんに会いに行ったんだ。

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