第23話『悠人の頼み事なのじゃ』


 三月十六日、土曜日

 午前十時十三分



 土曜日は駄菓子屋はお休みじゃ。メルは久しぶりに図書館へやって来たのじゃ。

 かりていた本も返すのじゃ。何か面白い本はないかな? 本はいいのじゃ、色んな知識を得られる上にいい暇つぶしになるからなのじゃ。


 あ、あれは……


「む……ゆ、悠人じゃ」


 婆っちゃの言葉が脳裏に……



 ——それなら、悠人にも今度お礼しときな?

 メル、悠人に抱きついてたんやで?——



 ぐぬぬ……世話になっておいてお礼もしないのは良くないのじゃ。仕方ない。


 メルは悠人の座る席の対面にちょこんと座って真剣に本を読むその顔をじっと見つめてやった。

 しかし、なんとまぁ、

 一向に気づく気配がないのじゃ。


「……ゆうと?」

「……」

「……悠人? おーい?」


 悠人はキョロキョロと周囲を見渡しては最後に目の前のメルに視点を合わせたのじゃ。

 目を細めメルの存在に気付いた悠人は口を開いたのじゃ。


「やぁ、メル。体調は良くなったのかな? その様子だと大丈夫そうだけど」


 またそんな風に優しく笑う。お前は天使か何かか? 何じゃそのピュアな笑顔は!


「あ、あああの時は……世話になったみたいで、その、あ、ありがとうなのじゃ、ぷい!」

「どういたしまして。そうだ、ちょうど良かった。メルに少しお願いがあるんだけど」

「なっ、別にいいけど。以外なら聞いてあげてもいいのじゃ」


 あ、また悠人はクスクスと笑う。


「何そのえっちなお願いって……いや、ちょっと今日は目が疲れてしまって。この本の文字が読みにくくてさ。代わりに読んでくれないかい?」


 む、難しそうな本。

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