ダンジョンダンジョン

ホルマリン漬け子

ダンジョンダンジョン


「と、言うわけで、ダンジョンが水没したんすよね、これが」


 と、さも他人事のように、顔見知りの盗賊であるエリナが、出してやったミント茶をすすりながら言った。


 "ここ"は、"癒しの水"が、ダンジョンの最下層で湧き出す町ポポカテペトル。


 世界中から、その水を求めて冒険者や病人、病人の家族知人一族郎党がやってきて潤う町だった。私は、そういうカモを相手に治療院を開業して潤わせていただいております。


「うん、それで?」


 私は、キッチンでピチャピチャと音をさせて自分用のお茶の準備をしながら適当に言った。


「それでってか、その原因が、あたしなんっすよ。やばくね?」


「やばいね」


 意味がよく分からなかったが、他人事なので適当に相槌をした。


「だよねー」


「…………」

「…………」


 何とか余裕ある顔を保っていたエリナが、涙ぐみだした。


「た、たた、たたた、助けってほしいいいいいいいいいんっすぅぅぅうううううーーーーー!!」

「知るかぁあああああああ!!」


 ☆


 ダンジョンの最下層で、いつものように水を汲もうとしたら、近くにあった罠を作動させてしまったらしい。


 いきなり壁に大穴が開いて、大量の水が流入し始めたらしい。


 慌てて撤収して、三日。どんどん溜まり続けた水は、やがてダンジョンを完全に水没させたらしい。知るか。


「領主と衛兵のみなさんが、必死で原因を探してるっす。やべぇっす。捕まってきっと縛り首っす」


 泣きわめくエリナを、なだめすかしてやっと椅子に座らせた。


「別に、あんただけが悪いとか限らないし、そもそもあんたがやったって、証拠もないから黙ってりゃ分からないんじゃね?」


「おおお!?」


「てゆか、なんでうちに来るの? うちに来て、相談してなんとかなるモンでもないでしょうに」


「だって、あたし、友達いないし」


 私もいねぇよ。友達なんていうのは、幻想だ。


「そもそも、あの水って、あんたが出てる所発見して、領主さまに持ち込んだってことになってるじゃん。そのあんたが、わざわざダンジョン破壊したとか、誰も思わないってー」


「うん、まぁ、そうなんだけど。ほら、あれって、嘘っぱちじゃん?」


 そうなのだ。ただ酸っぱいだけの水なのだ。それを、私とエリナで共謀してあることないこと領主に売り込んだのだ。

 それがなぜか今では、王室に納品すらされているという。

 なにかあると、むしろ私までヤバいかねない。


「やばくね?」


 真っ青な顔でエリナがすり寄ってくる。


「や、やばくはないでしょ」


 内心、私に被害が及ばないよう懸命に知恵を絞りながらも、さも何でもないように言った。

 なんとしても、エリナをだまくらかして私に被害が及ばないようにしないといけない。世は無常なのだ。


「まじ?」


「だって、結局のとこ、水は今もダンジョンから出てるわけでしょ?」


「あ、そっか」


 私も、椅子の上にちょこんと座った。


「やばいのは……、この浸水がどこまで続くかってことよ」


 床はすでに水びたしで、窓から見た景色は、完全に湖だ。たまたま高台にあった、この治療院を除いて、町はすでに水没している。


「ヤバいね」


「ヤバいわ。水商売であぶく銭を儲けたバチが当たったわね……」


「あたしら、捕まったらやっぱり地下牢ダンジョン行きかな?」


 その前に、生き延びられるかどうか不明だけどな。


「まぁ、ミント茶でも飲みましょうか」


「おいしいね☆」





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