相貌失認の探偵が居ると聞いて、耳を疑いました。
だって、どうやって相手の顔を見ることができない人間が、犯人を言い当てるっていうんですか?
私には、想像もできませんでした。
しかし実際に会ってみて、納得しました。
あの探偵——霜降さんには、見えないもの……いえ、我々が普段見落としてしまうような小さな真実の断片を目にとめる才能がある。
私にも見えていたはずなのに、気付けなかった、そんなあまりに小さなものを道具も使わず見抜くことができるんですから。いったいどっちの目が悪いんだって話ですよね。
すみません。話が逸れてしまいました。
こんな時に、後ろを見ないのも霜降さんの良い所ですよね。いや、見ないのではなくて、見ている暇なんて無いのかも知れません。相手の顔が見えないから、その分前にある事実に目を凝らして、あらゆる情報を手に入れる為に必死になって。
あ、そうそう。素晴らしい探偵にはやはり素晴らしい助手がお似合いですよね。
助手の皐月さんもとても有能な方で、それにすっごくお綺麗な方なんですよ。
……なんで急に二人の話をしだしたかって?
あれ? お二人にご依頼があるのではないのですか? てっきり依頼をする為にこの探偵事務所を訪ねてこられたのかとばかり……。
はい、私ですか? 私は面白いミステリーを探して頂こうと思ってこの探偵事務所に立ち寄ったのですが、お二人の昔話を聞いていたらそれだけで十分満足してしまいまして。
どんな昔話だったかって? 気になるようでしたら、どうぞご自分の耳で直接お確かめください。お二人はまだ事務所にいるはずですから。