第2話侮蔑の子

結局放課後まで新たな傷は増えなかった。

美湖の言葉は本当だったのかななんて見えぬ真相を考察しながらいつもの図書館へ向かう。

近くの図書館を選んで集まっていたのはそれを見られて美湖が私と同じ被害に合わないためだった。

彼女は気にしないと言ったが経験が示す痛みは流石に許せなかった。

図書館までは学校から30分ほどあるいた大通りを渡った先にそれはある。

考えながら歩みを進め、最後の横断歩道を渡ろうとしたその時だった。


ーーーーーーーーーーーー!!!


耳をつんざくトラックのクラクションが街に響く。

全ての動きがスローになり世界が白くなる。

「だから言ったんだ…!」

アロスティアの声が頭に響くと同時に私は意識を失った。


目を開けると私は横断歩道を渡りきったところで立ち尽くしていた。

「あれ…?私、トラックに…」

その言葉と同時に右足に違和感を覚えた。

「やっと起きたか虚。まったく、10分も意識が飛ぶだなんて予想以上に君は心が弱いな」

「なんで…」

「君の体を一瞬借りた。馴染ませる時間もなくやったもんだから右足が少し違和感あるだろうけどいずれ治る」

まぁ、いずれ…ククッ

「そう…少し遅れちゃった。また茶化されるかな…」

「それだけならいいな」

「どういう意味?」

「すぐ分かるさ」

ホコリ臭い入り口を抜け、図書館へと入る。

人の気配は一人もしないそんな空間の奥の夕陽の射し込む机に美湖はいた。

「美湖、遅れてゴメン」

「虚、大丈夫!私も今来たばかりだから!それより…」

美湖は少し間を置いて続ける。


「なんで生きてるの?」


「え?」

一瞬、心臓が止まるのがわかる。

今彼女は私に向かって生きてるの?と聞いた?

「だから言っただろ?さぁ、契約を始めよう」

「何を言ってるの?アロスティア…あなたなにか!!」

「ほら、目の前の魔女を殺さないと君が死ぬぞ?」

アロスティアは半分笑いながら私に告げる。

「殺すって…美湖…?」

「あーあ。残念。私ね?虚が羨ましかったんだ。綺麗で大人しくてまるでお伽噺に出てくる魔女みたいで。」

「まって?ねぇ、私何かした??」

「なにかした?ふふっ…冗談だよ!貴方は何もしてない。だからこそ憎かった」

「憎…え?」

「そう。貴方は何もせずとも周りから優しくされて綺麗で私なんて友達も居なかった。だから全部嘲笑えるようになってやろうって思った。だから…だからだからだから…!!!」

叫ぶと白い靄が美湖の腕にまとわりつきやがて、それは銃の形状へと変化する。

「貴方を嘲笑って殺してやるって決めたの…」

「ほらな…」

銃声が鳴り響くがそれは行く先を失い窓ガラスを突き破る。

「あーやっぱり。あの子が言ってたのホントなんだ…ねぇ、虚。その子、誰?」

銃弾を避け、答える。

「ククッ…やっぱり知ってたか…侮蔑の子よ」

「へー、あの子の事知ってるんだ?その感じだとあの子が言ってたように死病の人かな?」

聞かれアロスティアは虚の体を操りながらその右手に日本刀を出す。

「ちょ、アロスティア…!それ!」

「おや、お目覚めかい?少し我慢してくれ」

「あ、うん…じゃなくてその刀、それ亡くなったおじいちゃんの!」

「君が寝てる間にちょっと…ね?」

「ね?って…」

「安心しな。これはもう、ボクのものだ…!」

アロスティアが宣言すると刀は黒い霧に包まれ漆黒の刃へと姿を変える。

「侮蔑の子よ。ボクをやつの所へ連れて行ってくれよ。そしたら君はボクの力に侵されないで済むぞ?」

「冗談キツイわ?…死ね」

連続して放たれる銃弾をアロスティアは切り捨てる。

「ちっ…やっぱまだ病の力が使えるほど体が馴染んでないか…聞け、虚。ボクにはあいつの血が必要だ。厳密には魔女の血が。」

「だから…」

「君は頭が良いね。受け入れてくれるね?じゃないと」

「私が…死ぬ…」

「ククッ、そうさ…行くよ」

言うとアロスティアは美湖の元へ銃弾を弾きながらはしりはじめる。

「チッ…話が違うじゃない!!☓☓☓…!けどね…甘いのは魔女さんもか…はははは!!!」

美湖は笑うと懐からナイフを取り出し投げてきた。

「くっ…」

一線はアロスティアの脇を捉え切り裂く。

「ほらほら!踊れ踊れーー!」

銃声とともに体を転がし必死にそれらを避ける。

「甘いのは君もだよ。侮蔑の子」

最後の銃弾を避けると同時にアロスティアは左の太ももに準備していた注射器を投げつける。

それは美湖の左腕を貫き、赤い飛沫をあげる。

「いっっっっ!!!!くそがぁ!!!」

「ふふ…ほらほら本性が出てるよ?虚も悲しがってる…ククッ…君は所詮人なんだ。強がる必要はないさ」

続けてアロスティアは右に生成した漆黒のナイフを美湖の足に投げつける。

アロスティア達と違い、生身の人の肉体である美湖は少しの痛みも非現実なものらしい。

想像を絶する痛みに美湖はその場に跪く。

「うっ…ね、ねぇ虚…わ、私ね…?」

「美湖…なんで…」

虚は刀を握りながら美湖の前まで歩く。

「私…貴方が羨ましかったの…貴方は覚えてないかも知れないけれど貴方はクラスの人気者だった…」

「ちょっと待って?そんなはず…」

「奴の力だな?」

「奴…侮蔑の魔女…?」

「そう…そんなある日私はあの子と出会ったの…そして契約した…あの子の力は凄かった。一人の人物の周辺の関係を全て弄れた」

それが私であることと気付くのは容易だった。

「虚の記憶を消して貴方を最も醜い者にした。そして私だけが貴方を受け入れて…そうする事で私は哀れな貴方を救う救済者になれる…!」

「そ、そんな事しなくても私はあなたの…」

「私の…何?友達になったとでも?はは!笑わせんなよ…私は別に友達になりたかったわけじゃない…私は貴方を貶めたかった…!!」

「…」

「あはは…でもやっぱり本質までは変えられなかった…だから貴方に死んでもらおうと思ったの。昨日目があった時、バレる気がしたから」

「なるほど、それでトラックか。因果操作までするとは、君の侮蔑は特別強いな」

「褒めてくれてありがとう、死病の魔女さん。そう、それほど私は虚、貴方を殺したかった…貴方が死ねば私はもう惨めな思いをしない…!」

「黙れ」

「へ?」

虚はその手に持った刃を美湖の首筋に当てる。

「う、虚…?あは…ほら、冗談!全部…そう全部…!」

「貴方、誰?」

アロスティアは笑う。

「ククク…ありがとう侮蔑の子よ。君のおかげで私達の契約は果たされた…君の血はいい触媒だったようだ」

美湖が虚の足元を見るとそこは美湖の血で満たされていた。

「触媒…まさか…はは…さすが死病様ってところかしら…」

「貴方は…誰…?凄く眩しいの…眩しい記憶…けど手が届かなくて…」

「そ、そうよ!私は貴方の親友!そう、親友!貴方にとってたった一人の…!!!」

美湖は必死に笑顔を繕って説得する。だが

「でも、もうどうでもいいの」

「無駄だよ小娘」

その言葉は届かない。

「辛い、苦しい、逃げたい…その連鎖を私は断ち切る…全て壊して静寂を私は…」

「虚…貴方は本当に…」


「可哀想な子ね…ハハハハハ!!!!」


美湖の首から吹き出す命を赤信号に止められた。

友達だった人間の血を浴びながら虚はつぶやく

「ホント…うるさいな…」

その言葉は何故か舌触りに覚えがあったがそれももう思い出せない。

全てどうでもいい。

「さぁ、行こうか虚。君を弄んだ奴らを殺し血を奪いに行くんだ」

「もうなんでもいい。全部貴方に任せるわ。アロスティア」

「くく…良い返事だ…まぁまずはそこのクソ魔女から殺ってやろう」

見上げるとそこには一人の少女が座っていた。

「あら、気付いてくれてたのね…うれしいわァ」

「侮蔑の魔女、貴様はここで私らの贄となってもらおうか」

「やれるのならね???」


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死人の魔女ー侮蔑ノ章ー yAchi @yAchi_ainamikoi

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