死人の魔女ー侮蔑ノ章ー
yAchi
第1話ー嘲笑ー
これは死病の魔女、アロスティアと忌まれし者、紫乃舞虚が出会った時の話。
向かう。声が聞こえる。笑い声。
侮蔑の声。
座る。傷だらけの机。壊れた椅子。居場所の否定。
帰る。怒号が聞こえる。その闇は私へ向かってくる。
鏡の中の私は薄ら笑みを浮かべる。醜い。醜い。
もう全てを終わらせたい。そう思って屋上へ。
ようやく終わる。境界の網に手をかける。
その時だった。
「そんなところいたら死んじゃうよ?」
そう、笑いながら声をかけてくれたのが彼女だった。
鬱陶しい痛みをいつも通り終えた夕方。
学校から少し離れた図書館で彼女は待っていた。
「あ、虚。遅いよー」
「ご、ごめん」
コミュニケーションに不慣れな私は少し肩をすくませたがそんな私を見て彼女、同じ学校の奇水美湖(きすい みこ)は笑いながら続ける。
「冗談だよ!ほらーまた騙されてるー」
「う、うるさいなーホント…」
「あはは!じゃ、行こっか!」
彼女はいつもこうだ。
出会い頭毎回違う形で私をちゃかしては私がそれを五月蝿がる。
なんてことのない普通の会話だったが私はどこか嬉しかった。
美湖は私の手を引っ張るとそそくさと図書館を後にし、目的の街へと向かった。
親からの虐待を受けていた私はお金なんて無くて、それを知ってる美湖はお金がなくても遊べる場所を選んでくれた。
これが私と美湖の日常。
世界で唯一、私の事を対等な人として見てくれる友達。親友なんて言葉は知らなかったからそれが一番の関係だと思ってた。
季節が過ぎ、夏が来た。
そんな中、初夏の鬱陶しい湿気が余計ウザく感じる人の闇はエスカレートした。奴らの言い分は事故や自分でやってた。先生たちは私が嘘を言ってるとそっぽを向いた。笑い声は止まらない。
それをある日、美湖が見ているのに私は気付いた。
ああ、結局あの子も人間。自分が可愛いんだ。ごめんね、ビックリさせて…。
その罪悪感は消えること無く増していって気付いたら屋上にいた。
あの日、美湖と出会った日と同じく綺麗な夕日が私を照らしていた。
もう止める人は居ない。
吸う空気はどこか夜の冷たさを纏っていた。
「憎むだけじゃつまらなくないかい?」
「誰」
振り向いても誰も居ない。ついに幻聴かと思えば声は否定した。
「ボクは君さ。だから幻聴ではない。とりあえずボクと仮契約してみないかい?死なずに、あそぼうよ」
「意味分かんない」
「分からなくていい。ただ誰が君の場所を奪ってるのか知りたくないかい?知りたいんだろ?ボクは君、全てわかる」
「…」
「虚…誰にも認められない空虚な名前。ボクの名前はアロスティア…世界を殺す死の病。ボクは君に意味を上げられる。」
彼女の言葉はなぜか私を納得させた。
せざるを得なかった。だってこの時はまだ、私は人だったから。
「仮契約だけしてあげる。意味を、ちょうだい」
「ククク…成立だ…君に意味を与えよう、虚…魔女の血に誓って…」
不敵な笑いと手を取って私は家に帰った。
次の日、私は精神科に向かった。
この幻聴を止める方法はないかと探るためだ。
「何故病院なんだい?奴らに早く…」
「うっさい」
この幻聴は昨日の夜からずっとこうやって私に殺意を求めてくる。よって私は絶賛不眠。
たまらないので私はなけなしのお金を握りしめて病院に向かっていた。
しかし、願いとは本当に空虚なものだった。
先生からは鬱病でしょうと言われ効かぬ薬を投げられた。
普通に考えれば当たり前だった。
「だから言っただろ?ほら、大人しく学校に向かえ」
「うるさいな…わかったよ…」
今週は美湖と遊べないな。
そう思いながら学校へと向かった。
教室につく。またいつもの痛みが待っているのかと覚悟を決めて扉を開く。
すると私を見たクラスメイトはまるで恐ろしい鬼が入ってきたかのように静まり返った。
様子がおかしい、そう感じた時背後から一人の少女がかけよってきた。
「虚…!!!」
美湖は背後から抱きつき泣きながら言う。
「貴方が昨日…屋上に行ったって聞いて…今日も遅かったから…その…」
「ごめ…ん…」
「ううん、悪いのは私…。昨日虚がいじめられてた時目があってたの、私は隠そうとして…それで虚がって…」
違う訳でもないから否定こそ出来ないが彼女はやはり彼女。
死ねば良かったのに…
「!?」
「どうしたの?虚…?」
「い、いやなんでもない」
今のは美湖の声…?でも彼女は口を開いてない…気のせい?
私がごまかすと彼女はでもねと続ける。
「あの後やっぱり私、見てられなくなってみんなと相談したの…これ以上は本当に死んじゃう…だからもうやめよう?って!そしたら皆も反省してくれて…ね?」
美湖がクラスメイト達に顔を向けるといじめてた主犯格の数人がかけよってきて謝罪を始めた。
「ごめんなさい…まさか…貴方強いって思ってて調子に乗って…本当にごめんなさい…!!」
「あ、えっと…わ、わかったから授業始めよ?」
虚が時計を指差すと開始1分前でそれを言われると皆は席に戻った。
美湖は違うクラスだったから一言、「放課後また、ね?」と残し戻っていった。
もしかしてこれで終わるのかな?
「そんなわけ無いだろ。君はどこまで素直なんだい?」
あの声だ。
「どういうこと」
「さっきの声、聞いたんだろ?」
「あれは美湖じゃない」
「今は信じなくてもいい。けど、注意はしとくんだ。今君に死なれたらボクも困るからね」
アロスティアの台詞を喉に詰まらせたまま、私はその日の授業を終えるのだった。
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