高校三年連続夏思い出報告

 エクラはファミレスで、女の子と話していた。彼女はこのファミレスで働く二十歳の大学生だ。それでエクラは彼女を待っていたのだが、彼女は約束通り六時に勤めが終わると、彼の待つ席に来てくれたのだった。

「へぇー、それで大学受かったんだ。じゃあ、地頭が良かったんじゃない」

「まあね」

「まあねって、」

 エクラは笑った。

「高校のときは全く勉強してなかったんだろ、そういう生徒ってどうなんだ?」

「どうって?」

「いや、俺は学校行ってねえだろ、だから分かんないんだけどさ、そういう生徒は先生に気に入られるのか、疎まれるのか。大変だったんじゃない」

「ああー……怒られたね。うん、よく怒られた」

「そうなんだ。まあ、自分のせいだけどね」

「高一の夏、夏休みのほんの前に、昼休み教室に担任が顔をだしてね『佐倉、今日の放課後話があるから』っていう訳よ。ああ、これはやったな、ばれたな、ってね。もうそれ以降一日萎えるわけ」

「何をしたのんだ?」

「放火」

「おい!」

「いやでも、火つけたん、担任の家だよ」

「じゃあいいか、とはならねえよ。放火? よく『放課後に話があるから』ですんだな」

「放火だけに、放課後、ってね」

「笑えねえよ。大丈夫だったの?」

「わたし?」

「いや担任」

「大丈夫だった。夏だしね。湿気多かったからあまり燃えなかったの。それでね、次やったら勘弁しないからって言われて、解放」

「勘弁するしないの問題じゃないけどね」

「それで謹慎処分。夏の二ヶ月学校に来ちゃダメだってなったの」

「夏休みじゃねえか」

「それと、次の年の夏」

「まだあるのかよ」

「昼休みにね、学年主任の先生が来たの『今日の放課後話があるから、職員室に来なさい』って。もうがん萎え」

「今度は担任じゃないんだ」

「そう、そこがみそなの」

「で何をしたんだ」

「殺人」

「おいおいおいおいおい」

 エクラはびっくりした。

「なぜ担任が呼びに来なかったかって、それで分かるでしょ」

「まじか……」

「もうめっちゃ怒られたね。親まで呼ばれて。『もうギリギリです。あなたのお子さんは崖っぷちです』って言われてさ」

「俺からすりゃあ、とっくに崖は飛び越えてるけどな。無政府国家なのか佐倉ちゃんの国は」

「うーん、有形無機能状態かな」

「なんだそりゃ」

「それで謹慎処分」

「出た、うまいこと生きてるね、君」

「でしょ。それで最後の夏」

「結局三年コンプリートしたんだ」

「学年主任が来たの」

「生きてることにほっとしてるよ」

「校長室に来いって言われたの」

「あ、グレードアップしてる。何したんだよ。もう無いだろ」

「いやあ、ついにバレたんだよ。あたし援助交際しててさ」

「ええ~……一番ショック」

「そう。校長先生もそう言ってた。『今までのは見逃せるがこれはできない。君には本当に失望した。まさか君が、そんなことをしていたなんて。わしは明日から何を目的に生きていけばいいんだ』ってさ」

「校長も校長だな、気持ち悪い」

「まあでも、母さんがお金持ってきてくれて解決したんだけどね」

「ずっとそれか、分かったよ。それで大学に入って、バイトもして、恋人もできて、すっかり更生したわけだな」

「えへへ」

 彼女はとても綺麗な笑顔で答えた。

 アァ、更生してねえな。

 エクラは色にここのバイトを辞めさせることに決めた。結果、色が働くのはまだ早すぎると思っていたので好都合だった。

「それで、恋人とはどうなの?」

エクラは話題を変えた。

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シリーズ 戸 琴子 @kinoko4kirai

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