白明とレルはステーキ屋に来た。店員の導きで席に着き、メニュー表から肉の種類と量をそれぞれ考える。レルの残した分も白明が食べることを約束し、店員を呼んで、二人は決めたメニューを注文した。

 しばらくして肉が来た。それを食べはじめた。


 彼らのとなりには老夫婦が座っていた。白明は二人の方をちらりと見た。

 女性の方はすでに食べ終わり、男性は半分残していた。これ以上食べられない様子だった。

「帰りましょう」

 女性が促したが、男性は首を横に振る。

「勿体なくないか?」

「勿体ないですけど、しようがないじゃありませんか。持って帰ることができたらいいんですけど」

「そうか、持って帰って、置いておいて、また腹が減った時に食べればいいんだ」

「でもどうやって持って帰るのですか。店員さんに聞きますか」

「やだなあ、そんなことをすると卑しい人間みたいじゃないか。それはできないしなあ」

「でしたら、もう諦めて帰りましょう」

 男性は一心に肉を見つめていたが、突然それらをフォークで刺すと、口に詰めこんだ。

「あら、あなた、食べれるんですか」

「ムグゥ……ムグゥ」

 口を膨らましたまま、男性は首を振った。

「ええ、このまま口にふくんで家まで持ち帰るんですか」

「ムグゥ」

「じゃあ、あたしお会計してきますから」

 そう言って女性はレジのところまでいき、お金を払った。男性はうしろからついて歩いた。

「ただいまですね、ポイントカードを無料で作れるようになってまして、お客様おつくりになられますか?」

 店員が聞く。

「あなた、ポイントカードですって、いりますか」

 女性が振り向いて尋ねて、慌てて今の夫が何もしゃべれないことに気づき、いらないですと断った。

 女性は顔を赤らませ、男性は頬を膨らませたまま、店を出ていった。


「とってもおいしいよ」

 レルが言って、白明はやっと自分の肉のことを思い出した。鉄板の上を見た。食べきれそうだった。

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