第27話 「Daughter,why do not you dating and I?」
「そういえば、先生の書く小説には黒髪黒目の人が多いですね。異世界ファンタジーじゃなくても小説などはピンクやオレンジなど髪色瞳色多種な作家さんが多いのに」
「あー……、わかります?」
今日も今日とて、「原稿の進捗具合を見てきます」となろう編集部にうそぶいてやって来た唯子の家で、先日のラノベフリマで買った唯子の同人誌を読みながら。彩花はPCでまた新しい話を書き始めた唯子に不思議そうに問うた。それに対し、ちょっと気まずそうにオッドアイをずらしながら苦笑して唯子は答える。いまの格好は「闘魂注入」と書かれた文字Tシャツに黒いタイツ、ぼさぼさの肩より少し下の白金の髪に黒縁眼鏡をかけている。相変わらずのおっさんスタイルである唯子。
「『アオハル×メイカーズ』の主人公も周りも、今回の同人誌だってそうだったのにわからないはずがないでしょう」
「んー……、わたしが欲しかったものなんです。普通の黒い目、普通の外見。わたしは個性なんていらなかった。ただ、他の子のように過ごしてみたかっただけなんですよ」
「そう……ですか」
例えば、髪が黒かったら。目だけ特徴的な子どもとして友達が普通にできたかもしれない。例えば、年齢相応のからだだったら車の免許だってとれたかもしれない。家に引きこもることもなかったかもしれない。それは全て仮定だけれど、ありえた未来だったかもしれない。少しうつむいて言う顔に、どんな表情がのっているのかは髪に隠れてわからない。ただ、声は空元気みたく明るかった。
「ま、今さら叶わないことなんですけどね!」そう言ってぱっとあげた顔は確かに笑っていたが、その奥の瞳がどうしても泣いている様に見えて。彩花は。いつもの指定位置のソファーから立ち上がると、作業場で彩花の方を見て首をかしげている唯子の足元に跪いて。まっすぐに青い目で唯子を見上げた。
「Daughter,why do not you dating and I?」
「ど?」
「ぼくと、デートしてくれませんか? とお聞きしました」
「で?!」
「ぼくじゃ力不足ですか?」
「いえいえ!! むしろわたしなんかが隣を歩いていいものかと!」
「ぼくは、先生だからデートに誘ったんですよ」
口から流れ出したのは流暢な英語だった。むっとした表情、白い肌は少し照れているのかほんのり赤くなり。銀色の髪の隙間から見える視線からは「ぼくじゃだめなんですか?」とばかりに潤んだ眼は捨てられた子犬を思わせる愛らしさをしていて。ずきゅんっと唯子の平坦な胸を撃ち抜いた。しかし、この麗しすぎる太陽神の後光すら相手にならないと言えそうなほど輝いている顔の隣を歩くことはかなり勇気がいる。そのことを伝えても、彩花が引く様子はなくて。むしろ、太腿においた手をとられて懇願するように軽く握られる。
そこまでされたら、さすがに引くわけにもいかなくて……というかむしろ雰囲気的に引けないよね!! と唯子がOKを出すと、彩花はすんっと真顔になった。なぜだ。そして唯子の鼻から、たらーっと赤いなにかが出てきて。近くにあったティッシュで拭ってみると、普通に鼻血だった。
さすがに鼻血だした日にデートに行きたくないという唯子の主張に、頷いた彩花が唯子に追いやられるように帰ったところで。
唯子はユノにスカイプした。というか、画面がユノの顔を映した瞬間叫んだ。
「ユノちゃーん! 勝負パンツはピンクのうさちゃんパンツと白のくまさんパンツどっちがいいと思う!?」
「ちょっと待って、なんでいきなり勝負パンツ? ってかもっとましなのあるだろ!!」
叫んだ瞬間は忘れていたが、もしかしたら小宮山がいたかもしれないことに唯子は気付いた。そのことをユノに問うと、心底嫌そうな顔で「今日はもう帰ったわよ」と言われた。
唯子は唯子でまず前提を話してなかったことに気付いて、彩花からデートに誘われた件を話す。そこで、彩花の体勢について話が爆発した。
「そうなんだよ! 跪いて、すごい王子様みたいで! ああ、でも鋭利系天使の名前も捨てがたい!」
「なによ、あんたの担当神かよ。もうあの顔で跪いたってだけで神レベルだわ」
「でっしょー!? 彩花さんまじ麗しい」
「あれほどの顔になるともう嫉妬とか超越してるわよね、隣に並んでも苛立ちすら起きないわ。それが……、跪かれるとかあんたは姫か! そして美少年君は忠誠誓う騎士かよ! 最高かよ!」
「ほんっとそれな!!」
一通り、約30分ほど盛り上がったあと。急に真面目な顔になってユノが唯子に尋ねた。
「で? あの美少年君が勝負パンツ履いてこいって? 言ったわけ? 殺す?」
「違うよ! 彩花さんはパンツなんて言わないもん! えっと、勝負パンツって緊張する日にはくんでしょ? だからわたしも」
「待って、本当に待って。勝負パンツの意味がわかんないで私に聞いてたの!?」
「え……、違うの?」
「くっそ純真な眼差しが辛い」
「こんな
「勝負パンツは履かなくていいわ。でも精一杯おしゃれしていきなさい」
「え、でも」
「いいから」
「う……、はーい。でもでも、わたし肌が弱くてお化粧できなくて」
「あんたは化粧なんてしなくてもいいの。私が言ったのは、ブレスとかネックレスとか、そういうのしていきなさいってこと。かといって下品になるくらいつけちゃダメよ」
「あ、なるほど。うう、ユノちゃん先生」
「はー、わかったわよ。選んであげるから持ってるアクセサリー全部画面に映して」
その日は、夕暮れになるまであーでもないこうでもない、あの服と合わせたらいい、髪飾りと合わないからパスなど5時間ほどもデート服とアクセサリー選びに時間を費やしたのだった。ちなみに終わるころにはすっかり勝負パンツのことは忘れていた唯子だった。
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