僕の恋は許されない
柊八尋
僕の恋は許されない
僕は許されない恋をしている。
僕の思い人--
対して僕--
どっからどう見ても不釣合い。恋心なんて抱くつもりはなかった。
なのに、僕が彼女を好きになってしまったきっかけは、彼女と『友達』になったことにある。しかも、お友達からはじめましょうの『友達』ではなく、クラスで一番、下手をすれば学校で一番仲の良い『友達』である。ひょんなことから漫画の話をして、妙なことに息が合って、そんなこんなで紆余曲折あって、今やお昼をご一緒させて頂ける仲だ。幸い変な噂は立ってない。
クラスのアイドルだもの、当然意識する。意識していくうちに胸が苦しくなる。苦しくなるほど彼女の近くにいたくなる。そうしてようやく恋に落ちてたことを知る。
恋心に気づいたけど、告白はしていない。する予定もない。したら、確実に今の関係が壊れてしまう。それは嫌だ。僕は彼女と友達でいたい。お昼休みに彼女と話せるだけで充分満足している。
そう自分に言い聞かせて、気持ちを抑えながら、一週間を過ぎたくらいの頃だった。いつものように机を向い合せて喋っていると、郁がこう言った。
「ねぇ好きな人いないの?」
僕はミルクティーを吹き出しそうになった。
「い、いきなり何?」
僕は様子を伺うようにしながら尋ねた。
「別にー? 興味があっただけ」
そう言う郁は、顔を興味津々と輝かせていた。どうやら僕の気持ちに気づいたわけではないらしい。心の中で安堵しながら答えた。
「いないよ。いても振られるだけだし」
「そんなことないよ。ちょっと前髪切って、眼鏡はずせばモテモテだよー」
「そうやってすぐからかう」
「からかってないってば」
会話が途切れる。そのタイミングを見計らって、気になっていたことを聞いた。
「そういう郁は……好きな人いるの?」
郁ははにかんで言った。
「いるよ」
僕はまたミルクティーを吹きそうになってむせた。まさかこんなあっさり答えるなんて。
「大丈夫?」
「げほっ……大丈夫。それより、誰? 誰が好きなの?」
彼女は答えなかった。ただ、代わりに僕の方をじっと見つめている。
「えっ?」
*
昼休み終了のチャイムが鳴った。
「--それで、放課後、屋上に来て欲しいんだけどいい?」と郁は言った。
僕は頷いていた。
郁は自分の席に戻っていく。僕は放心気味に彼女を見ていた。
禿頭の先生が入ってきて授業が始まる。しかし、内容は一つも入ってこない。僕の目は黒板を見ているが、僕の意識はまるきり違うものを見ていた。
放課後の屋上。そこに向かい合って立つ二人の姿。それから二人は--
「おーい」
空想の屋上にいた僕は、現実の教室に引き戻された。
後ろを振り向く。案の定、
「次、お前さされるから準備しとけよ」
「あ、ありがとう」と、どもりながら答える。
「次から気をつけろよ」
こくんと頷きながら、頭の中で彼に対する嫉妬がひょっこり顔を覗かせる。
「そっちは何も知らず、気楽でいいですね」
と心の中で、八つ当たりの毒を吐いて前を向いた。
時計はだいぶ進んでいる。彼女と約束した放課後までもう少し。
*
放課後になった。約束通り彼女は屋上に来ていた。
「私、あなたの事が好きです」
その一言は、静かな屋上によく響いた。後に続く言葉がなかった。少し不安になってこっそり隠れている彼女をちらりと見る。彼女は「大丈夫」と言うようにこくんと頷いた。
そして「私と付き合ってください」と新しい言葉が響き渡る。
「驚いた」
「いきなりだったよね?」
「それもあるけど、まさか、告白されるなんて」
「で、その、返事は……?」
「あ、そうだった。俺も有村の事が好きだ。だから、よろしく」
「ほんと⁉︎ よろしくね翔君」
私は少しだけ、翔君から視線を写して彼女の事を見た。彼女は大きく息を吐いていた。
*
僕はため息をついた。彼女の告白が上手くいったことで安心したからか、彼女を翔にとられることにがっかりしたからか分からない。
お昼に彼女がこっちを見たとき、ちょっぴり期待した。結局は後ろの翔を見ていただけだけど。
「一人だけだとうまくいけるか不安なんだ。それで、放課後、屋上に来て欲しいんだけどいい?」
それが彼女のお願いだった。僕がいてなんになるのかと思っていたけど、彼女が言葉に仕えた時に頷くぐらいの仕事は辛うじて出来た。我ながらファインプレーである。
郁は、翔だけを先に帰して、こっちに小走りで来た。かなり嬉しそうに。
「ありがとう‼︎ おかげで上手くいったよ」
「よかったね」
「うん。京ちゃんのおかげだよ」
彼女の笑顔はとても輝いて見えた。その時、強い風が吹いた。僕はスカートを抑えて、空を仰いだ。
僕の恋は許されない 柊八尋 @HRG8hiro
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