第34話 『秘密の企画』

 データーポンポコ社での『イボリューション・ストーリー』のプレゼンテーションは1度は却下となりましたが、10匹の若い新入社員たちによる評価と、ヌラリンさんのカネポン社長への説得のおかげで、もう1度チャレンジできるチャンスにめぐまれました。


 ぼくはモグリンさんと、プレゼンテーションでカネポン社長や各部署のリーダーから言われた意見や質問内容を整理し、そして、それらを参考にしながら、もう1度企画内容を見直すことにしました。もちろん、ミーちゃん、ゼロワンさん、ピコザさん、そしてファルコン社長の意見も大切に取り入れながら。


「どうだい企画のほうは。 こんどは合格しそうかい?」


 ファルコン社長の質問に、ぼくは企画の修正作業の手を休めて答えました。


「だいじょうぶだと思います。あの時、データーポンポコ社のみなさんに指摘された企画の欠点を修正し、お客が望むゲームとして、そしてデーターポンポコ社が望む商品としても期待に答えられるようなものにしたつもりです」

「ほぉ。商品として期待にこたえられるもの……。ブブくんも、そういうことが言えるようになってきたんだな」


 社長は、まるで成長した自分の息子を見るかのように、ぼくのことをやさしい目で見つめました。


「ドット絵のアニメにビックリしてたころが、ウソのようですワン!」


 ゼロワンさんも、ぼくが『森のげえむ屋さん』の面接を受けた時のことを、なつかしむように言いました。


「うむうむ。ゲームのこともよくわからず、企画書や仕様書の書き方もわからなかったのに、よくここまで育ってくれたもんだ。これもひとえに、オイラの愛のこもった指導のおかげだよなぁ。モグ……」


 モグリンさんは、ぼくを育てた『自分のこと』をなつかしむように腕を組み目をつぶって、うんうんとうなずきました。


「ブブくんが1人前になれたのは、ブブくん自身が努力したからよ」


 ミーちゃんが、みんなに3時のオヤツを配りながら言いました。


「そうだな。ブブくんは、よくがんばったと思うよ。だからプレゼンの時もゲームの女神さまがほほえんでくれたんだろう。きっと、次のプレゼンも女神さまがほほえんでくれるとオレは信じてるよ」


 そう言うとピコザさんは天井を見上げ、見えない女神さまに向かって投げキッスをしました。


(ありがとう、みんな……)


 みんなの温かい気持ちに対して、ぼくは心の中でそうつぶやきました。

 ぼくはミーちゃんからもらった3時のおやつを食べながら、机の引き出しを開けました。そして、ある企画書をこっそりと取り出しました。その企画書は会社の仕事とは関係のない、ぼくが個人的な趣味で作ったものでした。でも、いつか、ゲームにできればいいなぁと夢みている『秘密の企画書』でもありました。


 その内容ですが――


 『森の王国』に住む6匹のゲーム屋さんたちが、それぞれが持つ不思議な心のパワーを使いながら冒険を続け、最後に『夢食いの国』に住む悪の魔王を倒します。そして、魔王にうばわれた世界中の動物たちの『夢』をとりもどして、みんなを幸せにみちびく……と、いうもので、ジャンルはRPG。それも、最近はやりはじめたコンピュータ通信を使って友だちといっしょに遊ぶという、今はまだ作ることができない未来のゲームでした。

 秘密の企画書の内容はほぼ完成していましたが、ゲームのタイトルだけが決まっていませんでした。

 

 そして、3ヶ月後――


 『森のげえむ屋さん』では『イボリューション・ストーリー』の開発がすでに始まっていました。

 職場も少し広いところへ引っ越し、新人も5匹入社して、会社の中は以前よりもにぎやかになっていました。


 ミーちゃんは事務の仕事を新入社員の女の子にバトンタッチし、グラフィックの仕事に専念していました。


 モグリンさん、ゼロワンさん、ピコザさんにもそれぞれ新入社員の部下がつき、自分の仕事をしながら後輩の指導をするという、いそがしい毎日を続けていました。


 もちろん、ぼくにも部下ができました。


「ブブ先輩! ちょっとよろしいでチュか? この進化システムについて質問があるんですが」

「いいよ。なんでもきいて!」


 ぼくは後輩のネズミのチュー吉くんの質問にていねいに答え、次の作業の指示を出しました。


 しばらくして、ちょっと気分転換に外の空気でもすいに行こうと思ったぼくは、仕事の手を休め、机の引き出しから例の『秘密の企画書』を取り出し、それを持って外へ出ました。


 外は会社の中で仕事をしているのがもったいないくらい良い天気で、青空にうかぶ雲の白さがとてもまぶしく感じられました。

 ぼくは思いっきり背伸びをし深呼吸をしました。そして、会社のすぐ目の前にある小さな公園のベンチに腰をおろし、完成した『秘密の企画書』に目を通しながらそのゲームのタイトルを考えようと思いました。


 ふと、目の前にあるぼくの会社が入っているマンションを見上げると、会社の窓からぼくに気づいたミーちゃん、モグリンさん、ゼロワンさん、ピコザさん、そしてファルコン社長が、ぼくに手をふっていました。ぼくもみんなに手をふり返しました。

 そして、その時、今まで迷っていたゲームのタイトルが決まりました。


(シンプルだけど、やっぱり、これが1番いいな……)


 ぼくは、胸のポケットからボールペンを取り出し、まだタイトルが書かれてなかった企画書の表紙にゆっくりとペンを走らせました。


 『ドリーム』……と。







*この物語をゲーム開発を目指す全ての夢ある若人に捧げます。


【追記】この小説に出てくる「ザ・クマさんプロレス」と「イボリューション・ストーリー」のモデルになったゲームの動画はYoutubeで見る事ができます。下記のワードで検索してみてください。ちなみにザ・ビッグプロレスリングのレフリーの声は25歳の頃の私の声です。(笑)


ザ・ビッグプロレスリング

46億年物語


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森のげえむ屋さん 平野文鳥 @hiranobuncho3

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