第32話 『未来へのプレゼン〜その1』
『森のげえむ屋さん』の社員全員が参加したパミリーコンピュータ用のゲーム企画は、みんなの自由な意見やアイデアを取り入れ、試行錯誤を繰り返しながら、1か月後に完成しました。
そのタイトルは『イボリューション・ストーリー』
内容は、主人公となる『ある生命』が、エデンという名の目的地を目指して5億年の『進化』の冒険をしてゆくという設定の『生命進化』をテーマにした、ちょっと変わったRPGでした。
「しかし、ずいぶん斬新な企画になったなぁ……」
ファルコン社長が完成した企画書を読みながら、そうつぶやきました。社長は、最初のころは企画会議に参加していましたが、社長業が忙しくなってきたため途中から参加できなくなりました。だから、企画が最終的にどういう内容になったのか知らなかったのです。
「絶対たくさんのお客さんたちに楽しんでもらえると、ぼくらは自信をもっています!」
ぼくは、みんなを代表して社長に言いました。
「わかった。ここまできたら、もう私はよけいなことは言わない。きみたちを信じるよ」
「ありがとうございます!」
ぼくは正直言って、社長から企画内容に関してもっといろいろ言われるかなと思ってました。でも、なんのためらいもなくOKを出してくれたので、ちょっと驚きました。
「それで、データーポンポコ社への企画のプレゼンテーション(説明)だが、来週、データーポンポコ社内で行われることに決まった。プレゼンにはカネポン社長や各部署のリーダーたちが参加される。たぶん、20匹くらいになると思う」
「え〜っ!? そんなにおおぜい参加されるんですか」
ぼくはそれを聞いて、もう緊張してきました。
「あの会社はむかしからそうなんだ。それで、参加者全員の挙手による多数決で企画の合否を決定するんだ。その場でね」
「えっ? その場って……、ぼくらがいる目の前でですか?」
「そうだ」
「キビシイなぁ……。まるで裁判所みたいだ。ゴクリ……」
となりにいたモグリンさんが緊張してツバを飲みこみました。
「プレゼンは、私とブブくんとモグリンくんの3匹で参加する。きちんとプレゼンできるように予行演習をしといてくれ」
「わかりました!」
ぼくとモグリンさんは緊張しつつも元気な声で社長にこたえました。
「『イボリューション・ストーリー』はみんなが全力をつくして考えてくれた企画だ。私はみんなの頑張りに本当に満足している。あとは、ゲームの女神さまが私たちの企画にほほえんでくれるのを待つとしよう」
社長はそう言うと、はげますかのようにぼくとモグリンさんの肩をポンポンとたたきました。
「ブブくん、モグリン、がんばってね!」
「ボクも応援してるでワン!」
「オレはゲームの女神さまに祈っておくよ」
みんなのはげましに、ぼくは心が引き締まりました。モグリンさんも今まで見たこともない『男らしい』気合いのはいった表情を見せていました。
そして一週間後――
ついに、その日がやってきました。
プレゼン会場となるデーターポンポコ社の会議室には、カネポン社長や各部署のリーダーたち20匹がテーブルについていました。そして、その後ろにはプレゼンを見学にきたと思わる10匹の若い新入社員たちがイスにおとなしくすわって、プレゼンが始まるのを今か今かと待っていました。
カネポン社長の横にはヌラリンさんもすわっていました。ヌラリンさんは会場に入ってきたぼくとモグリンさんに気づくと、笑顔で手をふってくれました。緊張が頂天にたっしていたぼくとモグリンさんは、その笑顔のおかげで緊張をちょっとだけやわらげることができました。
「それでは今から、株式会社『森のげえむ屋さん』による、パミリーコンピュータ用ゲームソフトの新企画のプレゼンテーションを始めます」
進行役のヌラリンさんがそう言うと、参加者たちはいっせいに目の前に置かれていた企画書のコピーを手にとりました。
「では『森のげえむ屋さん』、お願いいたします」
ファルコン社長はぼくとモグリンさんをチラッと横目で見て、(がんばれよ!)と目ではげましてくれました。
まず最初にプレゼンするのはモグリンさんです。モグリンさんは『イボリューション・ストーリー』のコンセプト、ターゲットユーザー、セールスポイント、おおまかな遊び方などのゲーム概要をプレゼンします。
「ただいまご紹介にあずかりました『森のげえむ屋さん』企画担当のモグリンともうします。本日はお忙しい中、このようなプレゼンの場をもうけていただき、まことに感謝しております。それでは、まず、わたくしの方から『イボリューション・ストーリー』の企画概要を説明させていただきます。お手もとの企画書の1ページをお開きください……」
ぼくは驚きました! (今しゃべってるのは本当にモグリンさんなんだろうか?)と、わが目をうたがわせるぐらいモグリンさんのプレゼンはすばらしいものでした。今までにない真剣な表情をし、しっかりとした口調でよどみなく説明するちょっと大人のモグリンさん……。ぼくはマジで尊敬してしまいました。
「――以上、ゲーム概要の説明を終わらせていただきます。では、次に同じく企画担当のブブがゲーム内容を説明いたします」
モグリンさんのプレゼンは5分ほどで終わりました。モグリンさんはデーターポンポコ社の社員に向かって深々とお辞儀をしてイスにすわりました。そして、フウ〜と息をはくと、気合の入った目でぼくに(たのむぞ……)と小声で言いました。
さぁ、次はぼくの番です。モグリンさんの堂々とした姿を見たぼくは(緊張してまいあがってなんかいられないぞ!)と自分自信に言い聞かせ、心を落ちつけてプレゼンに挑みました。
「き、企画担当のブブともうします。そ、それでは、くわしいゲームの内容に関して、ご説明させていただきます……」
やはり、かなり緊張していたのか、最初はうまくしゃべれなかったぼくでしたが、ファルコン社長とモグリンさんの(だいじょうぶ。だいじょうぶ)という優しい目にはげまされたおかげで、それからはとちることなくスラスラとプレゼンすることができました。
それから、ぼくのプレゼンは10分ぐらい続きました。プレゼンの最後の方に近づくとぼくもだんだん調子がでてきたのか、いつものように情熱をこめて説明することができました。
「これで『イボリューション・ストーリー』のプレゼンテーションを終わります。ご静聴、まことにありがとうございました!」
会場からパラパラと拍手がおこりました。ぼくがイスにすわりハンカチで汗をぬぐうと、ファルコン社長とモグリンさんが「おつかれさま!」と、ぼくをねぎらってくれました。
「これから企画内容に関しての質疑応答を始めたいと思います。意見や質問のあるかたはどうぞ」
進行役のヌラリンさんがそう言うやいなや、カネポン社長が手を上げました。
「進化がテーマって、まるで『学校のお勉強』みたいだな。客は学校の勉強を忘れたくてゲームを遊んでいるというのに、きみたちは本気でそんなお勉強みたいなゲームがうけると思ってるのかい? え?』
カネポン社長がそう言って苦笑すると、まわりの社員たちもそれに合わせるかのように、ウンウンとうなづきました。
次に営業担当のリーダーが意見をしました。
「RPGと言えば『剣と魔法の世界観』が市場的にも1番人気があります。なのに、なぜ、それに反するかのような設定なのでしょうか? わざわざ人気のない設定を選ぶこともないと思うのですが」
次にゲーム企画部の若いディレクターが意見をしました。
「進化システムが、ちょっと難しいと感じました。ぼくが難しいと思ったのだから、たぶん、普通のお客さんたちも難しく感じると思うのですが……」
次に、ゲームグラフィック部のリーダーが、
「キャラが『地味』じゃないかな? 今どき恐竜なんか、はやらないと思うよ」
次に、プログラム部のリーダーが、
「自由に進化できるシステムとおっしゃいますが、パミコンの容量には限界がありますよ。あと、進化する時のグラフィックデータの転送スピードも気になります」
それからも企画に対する意見や質問は続きました。
でも、そのほとんどが否定的なものばかりでした……。
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