第31話 『みんなの企画』

「ブブくん。『トラちゃんクエスト』みたいなゲームを考えてみないか?」


 ぼくは最初、社長が冗談を言ってるのかと思いました。そして、もう一度ききなおしました。


「トラクエってパミコン用のゲームですよね? うちの会社ってアーケード用のゲームを作ってる会社だったはずですが……」

「今ままではね。でも、これからはパミコン用のゲームにも挑戦することにしたんだ」

「え〜っ!? マジですか?」


 ぼくの大声に、まわりのなかまたちがいっせいに「なんだ? なんだ?」とビックリした表情でぼくを見ました。社長はぼくのあまりの驚きように苦笑いしながら話を続けました。


「データーポンポコ社のカネポン社長からたのまれたんだ。パミコン用のゲームを企画してくれないかって? それで、ブブくんにトラクエみたいな大ヒットするRPGを考えてほしいってリクエストがあったんだ」

「ふ〜ん。 ブブくん、すげぇじゃん」


 モグリンさんが、とても『うらめしい目』でぼくをジットリと見つめました。でも、ぼくは正直言って複雑な気持ちでした。パミコン用のゲーム、それもトラクエみたいなRPGの企画はとてもやってみたかったんですが、カネポン社長のリクエストというのがなんかイヤだったんです。だって、ぼく、カネポン社長のことが大嫌いですから。


「おや? うかない顔だね。もしかしてカネポン社長のことがひっかかってるのかい?」


 ぼくは社長から心の中をズバリとあてられ動揺しました。


「あたりだね。まぁ、ブブくんの気持ちもわからなくはないけど、今回の仕事はうちの会社にとってもチャンスなんだ。どうか『森のげえむ屋さん』の未来のためだと思ってよろしくたのむよ」


(『森のげえむ屋さん』の未来のため……)


 すぐに返事をしないぼくに対して、社長の顔が少しくもりました。


「おいおい、ブブくん。なに悩んでるんだい?」

「な、悩んでなんかいませんよ!」

「あのぉ〜、社長。もしブブくんがやりたくないようでしたら、オイラがかわりに考えますよ。モグ……」

「やります! やります! ぜひ、やらせてください!」


 ぼくは、いつになく元気な声で返事をしました。だって、「カネポン社長が嫌いだから仕事をしぶっている」とまわりから思われるのはイヤだったし、モグリンさんからワガママな奴って思われるのもシャクだったからです。それに、あの『トラちゃんクエスト』のようなRPGはとても作ってみたかったし。


「そうか。じゃぁ『ザ・クマさんプロレス』のときのように、ブブくんとモグリンくんとで協力しあって考えてくれ」

「オイラも考えていいんですか? やったぁ!」


 ぼくとモグリンさんの返事を確認したファルコン社長は、いつも以上のニコニコ顔で社長室へもどってゆきました。


「すごぉ〜いっ! あたしたちもトラクエみたいなゲームが作れるかもしれないのね!」


 そう言って、ミーちゃんはうれしそうに体をクルリと回転させました。


「ワオ〜ン! うれしいですワン。とりあえずRPGのプログラムを研究しとこうでワン」


 そう言って、ゼロワンさんが部屋の中をグルグル駆けまわりました。


「トラクエみたいなRPGか……。オレもクラシックを勉強しとかなくちゃな」


 いつもは余裕たっぷりのピコザさんが、めずらしく緊張した表情をして言いました。


 さっそく、ぼくはモグリンさんといつものように2匹で企画会議を始めようとしました。でも、なぜか今回の企画に関しては、この会社のなかま全員で考えてみたいなぁ、という気持ちになってきました。


「モグリンさん。今回の企画会議には、この会社のなかま全員に参加してもらうというのはいかがです?」

「全員で? どうして?」

「う〜ん……。うまく言えないんですが、今回の企画は『森のげえむ屋さん』の未来につながるようなものにしたいんです。だったら、ぼくら2匹だけじゃなくて、『森のげえむ屋さん』にいるみんなでその未来を考えてみたいかなぁ、なんて思って……」


 モグリンさんはしばらくだまっていましたが、なぜかその目はしだいにウルウル状態になってゆきました。


「いいこと言うなぁ……ブブくんは。オイラ感動しちゃったよ。うん、わかった。そうしよう。みんなで考えよう」


 そういうと、モグリンさんは会社のなかま全員をよび、ぼくの提案を伝えました。


「ほんと? あたしも企画に参加していいの? うれしい!」

 

 そう言って、ミーちゃんはうれしそうに体をクルクルと2回転させました。


「ほんとですかワン! ボクも一度でいいから企画に参加してみたかったですワンワ〜ン!」


 そう言って、ゼロワンさんが部屋の中をいつもより速いスピードでグルグル駆けまわりました。そして目が回ってひっくりかえってしまいました。


「いいアイデアだね、ブブくん、モグリン。ありがとうな」


 ピコザさんもうれしそうに言いました。


 とてもよろこんでいるみんなを見ながら、ぼくもとてもうれしい気持ちになってゆきました。すると、社長室から出てきたファルコン社長がみんなのいつもとは違う笑顔を見てちょっと驚きました。


「おや? みんないい顔してるね。そんなにRPGに挑戦するのがうれしいの?」


 ミーちゃんが、みんながよろこんでいる理由を社長にていねいに説明しました。


「『森のげえむ屋』さんの未来につながるゲームを、みんなの力で考えてみたいか……」


 社長は腕組みをして目をつぶり、なにかを考えはじめました。


 (あれ? なんかマズかったのかな。もしかしたら、ぼくとモグリンさんが企画に自信がないからみんなをさそった、と思われちゃったかな……)


 ぼくはちょっと不安になりました。みんなもその表情から笑みがちょっと消えました。

 しばらくして社長はゆっくりと目をあけ、こう言いました。


「うん、よい提案だ。『森のげえむ屋さん』はここにいるみんなの会社だ。だから『森のげえむ屋さん』の未来をみんなで作りたいという気持ちに私が反対する理由がない。さぁ、みんなでトラクエのような、たくさんの動物たちによろこんでもらえる素晴らしい企画を考えてくれ。期待してるよ」


 社長はニコニコしながら、そう言ってぼくらを応援してくれました。


「ありがとうございます! みんなでがんばります」


 ぼくはみんなを代表して社長にお礼を言いました。みんなも笑顔をとりもどし社長にお礼を言いました。


「まってください!」


 社長室にもどろとした社長を、ミーちゃんが呼びとめました。


「なんだい?」

「社長も、あたしたちといっしょに企画を考えませんか?」

「え? いやぁ……、おさそいはうれしいけど、役にはたたないと思うよ。ゲームのアイデアだすのはちょっと苦手だから」


 社長は照れ笑いしながら言いました。するとモグリンさんが、つかつかと社長にもとへ歩みより、フンッと胸をはってこう言いました。


「だいじょうぶですよ社長。オイラがちゃんと指導しますから。いっしょにやりましょう! モグッ!」

「そ、そうか……。じゃぁ、よろしくお願いします。モグリン先輩」

「うむっ!」

「アハハハハ……!!」


 モグリンと社長の冗談に、みんないっせいに大笑いしました。


 そして、その日。みんなで始めた企画会議は時間がたつのも忘れるぐらいとても盛り上がり、終電近くまで続けられました。

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