Page 23 リリスの結婚相手
「で、結婚相手は、金持ちなんだっけ」
「そう、お金持ちのおじさん。おじいちゃんでもいいわ、あれは」
鼻にしわをよせて顔をゆがめるので、ふっと笑ってしまった。
「なによ。ヤなもんはヤよ。しかも、三人目の妻よ。あの人の孫と私、たいして年齢が違わないんだから。それにね、ナオ」
「な、なんだよ」
ぐいっと身を乗り出して、急に熱くなるリリス。いろいろと思い出したらしく、饒舌に語ってくれるが、顔が険しくて鼻息荒い。まるで暴走馬のようだ。ちょっと落ち着け、と俺は彼女をなだめた。
「これが落ち着けるもんですか。私は、ずっと自分は十六になったら学校に通えるんだ、上級魔女になって、王宮に勤めるんだって。ずうっと、夢見てた。それなのに、結婚話がいつからあったと思う? 私が十歳のときよ。まだ、前妻が生きてるときにさ、そういう話が進んでたって。ナオ、あなた、信じられる? そりゃ、病気で奥さん、死にかけてたっていっても、十歳よ、十歳!」
十歳といえば、俺があの夢を見なくなったころだろうか。つまり、リリスと夢で会えなくなった頃。そんなことをぼんやり考えていると、いきなり、ドンと肩をぶたれた。
「ナオ、真剣に聞きなさってば。なんで、私が見初められたか、わかる?」
「さ、さぁ」
「考えて。ほら」
「……ああ、と?」
「もうっ。超絶かわいいからってだけじゃない。魔力があるからなの。あいつ、この魔力を自分のために使おうって、そう企んだの。で、で! ここからよ、ナオ」
「あ、ああ。ちゃんと聞いてるから、落ちつけって。声がデカい」
「いいじゃない、どうせ、誰にも聞こえないんだから。それに大人しくなんてしてらんないわよ。ほら、三番目の妻だって言ったでしょ、私がさ。私が、って結婚する気は、さらさらないけど。でも、他の二人についても調べたのよ。そうしたら、二人とも、私ほどじゃないにしても魔力を持ってる人だったの」
「魔女だったのか?」
「いや、魔女じゃないわ。魔女っていうのは、自分で魔力をコントロールできるものだから。だから、魔力があるだけで、コントロールできる才能がない場合は、暴走しないように、魔力を抜くことがあるの。で、で、で!」
「で、なんだよ」
「で、よ! そいつ、私の結婚相手だけど、裏で違法の医術者もどきをやってたの。魔力抜いてあげるって言って、何してたかっていうと、自分のエネルギーにして、本当は魔力なんかないくせに王宮関連施設に商品を売ってて」
「そいつは商人なのか?」
「そう、そうよ、そうなの。大金持ちだけど、貴族じゃないの。手広くなんやかや売ってんだけど、それに魔力が必要でって、この話はどうでもいいわ。とにかく私が言いたいのは、奥さんたちが死んだのは、魔力を奪われ続けたからだってこと」
「つまり?」
「私も殺されちゃうじゃないのっ。そりゃ、若いし、前の奥さんたちより、すうぅごく魔力を持ってるから、問題ないかもしれないけどさ。でも、わかんないじゃない、そんなの。あればあるだけ、全部、魔力抜かれるかもしれないもん。干からびてさ、このシルクのように艶やかなお肌がシワシワになるかも」
「ああ……、うん」
「私、目が宝石のようにキラッキラしてるじゃない。だから目玉コレクターに売られる恐れもあるわ。この目がっ。カワゆいリリスちゃんのおめめがっ。髪もツヤツヤだから刈られるかもだし、だいたい、あのエロじじいに何されるか、わかったもんじゃない」
ひいっと自分を抱きしめてブルブル体を震わせるリリスは、気の毒を通り越して滑稽だった。俺はリリスの自惚れっぷりをツッコむべきかどうか悩んでしまう。たしかに……まぁ、瞳はキレイだし、言わんとすることは否定しない。
もし、リリスがクラスにいたら、間違いなくモテただろう。あの美丘より、わがままとはいえ、さばさばしたところもあるから、女子受けするかもしれない。たぶん、男女ともに好かれたはずだ。そちらの魔法ある世界では、評判はどうなのかはわからないが、こちらの基準では悪くないのだ。
「それになにより、恋一つせずに結婚なんてイヤよ。ね、ナオ?」
「そうなのか?」
「そうよ。私は、だーい好きな人と付き合って、結婚してって。まぁ、本当は当てにしてないけど。夢見てんだって、わかってるから。魔女はあんまり普通の人には好かれないし。才能は王宮のために使って、たくさん稼いで、かわいい弟子を持つのが現実的な道かな」
その夢も、現実的というには厳しそうな道らしいが、「恋一つせずに」ってところは引っかかった。
「お前、ひとの恋愛には口出しておいて、自分は経験ないのかよ」
「なによ。経験って。やっらしい」
「ちがっ」ああ、もう。疲れる、このパターン。
「じゃなくて、俺には『彼女ナシ』をバカにするようなこと言っただろ。なんにもしらねーくせに」
「知らないって何よ。ほんとのことでしょ。私はね、自分が無理だから、あなたには楽しい青春を送ってほしいっていう、女神さまのような、やーさしい心から、『あなたに最高の恋人』を作ってあげようって思ったわけ。感謝はわかるけど、文句なんていわれたくない」
つんとそっぽを向くリリス。ぽかりと後頭部を叩いてやりたくなる。
「よけいなお世話だよ。あのな、俺は好きな人がいるんだ。ずっと、好きな人が。わかったか、魔女っ子め」
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