Page 13 恋愛事情
突然現れた女の子が、昔から夢の中で会っていた子だったから、彼女の話をあっさり信じたってのが単純すぎる理由と思うなら、やっぱり俺はリリスの魔法にかけられているのかもしれない。
彼女は「魔法は使わない」といいながら、俺のために使わないだけであって、なんだかんだで、ちょいちょい魔法を使っている気がする。
べつに俺のために使ってほしいと思っているわけじゃないが、窓から飛び降りて平気だったり、金を持っていないはずなのに、買い食いして帰ったりする(単純に盗んでいる可能性もあるが。とはいえ、店側では減らないのか。ううん?) ところなんか、どう考えても魔法の力をかんじる。
それに、ふと思ったんだが、もしかしたら試験官さま、あなたは俺たちのことを見ているんじゃないだろうか。ほら、水晶玉や鏡を通して、リリスが上手くやっているか見ているんじゃ。
だったら……なんだろう。ここでの「私たちのこと」を書いてっていう課題、この「記録」は、どういう意味を持つんだろう。
俺の好きに書け、とばかり念押ししてくるリリスの様子から考えると、俺の目を通してリリスがどう映るかが重要ってことか。それで彼女の評価が決まる?
だとして、リリスの態度は俺に媚びたところなんか一つもない。
自由気ままに異世界ライフを謳歌しているように見える。最初、いかめしい厳格ばばあみたいだったのは、初の転移からくる緊張と気負いからくるものだったらしい。まあ、そうだろう。ひとり異世界に飛ぶなんて、俺だったら遠慮する。たとえ、意識だけだったとしても。
それでも、元々図太い神経なのか、俺がまったくの他人じゃないからか。リリスは、いまじゃ、ダルダルの服着て、ダラダラと過ごし、きっちりまとめていた髪も、おろしっぱなしか、軽く結んでいるだけ。超リラックス状態で食っちゃ寝&散歩を楽しんでいる。
言葉の端々から想像するに、リリスの住むそちらの世界は、俺たちの世界というか、この国に比べると古くさいようだから、こちらは開放的で楽しいんじゃないだろか。良いことだとは思う。
それに、魔法の力があるから、いくら食べようとこちらの生活費が圧迫されることはない。せいぜい、俺がくたびれるだけだ。リリスは早起きで、きっちり三食要求してくる。健康だよ、ほんと。
そちらが発展途上の国、というとカチンとくるかな。身分制度もあるようだし、リリスの結婚話にしてもそうだ。古くさい。
自由恋愛は可能なんだろうかと疑問に思う。もしかしたらリリスには本命の恋人がいるのかもしれない。でも親には反対されていて……なんて、そんな悲恋めいた想像が容易にできるくらい、なんだか古風なイメージだ。
それにリリスは十二人兄弟の末っ子だと聞いたときも驚いた。さらには母親が三人いるというのも。一夫多妻かと思ったら、旦那が三人いる女性もいるらしい。庶民は三人まで配偶者を持て、貴族は五人、王族は八人だとか。
なんだか魔法がある世界ってのは、現代感覚とは違う発展をするらしいな。それとも、そちらのほうが進歩してるんだろうか。俺は三人も妻がほしいなんて思わないけど。リリスに三人夫がほしいかと聞いたら、そもそも結婚したくないという答えだったから、恋愛観はわからなかった。
恋愛観といえば、リリスは他人の恋愛には興味があるらしい。こちらでは「魔法は使わない」決まりらしいが、それでも、ひとつだけ、ホストへのお礼として、どんな願いも叶えてくれるって。
どんな願いも、とはいえ、限度はあった。俺が「じゃあ、記憶を消すのはなしにしてくれ」と頼んでも「それは無理」とさ。全然どんな願いもじゃない。もちろん「願いを無限に」とかもダメ。
ためしに聞いてみた「俺もそっちの世界に行きたい」もNGだった。じゃあ、願いなんてないとグチると、リリスは「あなたに恋人を作ってあげる!」って。宝石みたいな目をさらにキラッキラ輝かせ、もうそれ、俺の願いじゃなくて、お前の暇つぶしかなんかだろっていうテンションだ。
「あなた十六でしょ。私こっちの世界のこと予習してきてるんだからね。夏休みに高校生が部屋にこもってばかりいるなんて青春のムダづかい。ほら、私が素敵な恋人が出来るよう協力してあげるから、喜びなさい」
さも「あんた恋人いないでしょ」前提の言い草に、俺もつい、言い返してしまった。「いや、彼女ならいる。五人。あと、セフレもたくさん」って。
「セフレて、なに?」
真顔で問われて言葉に詰まる。やけの冗談が過ぎた罰と言うか報いと言うか。
俺が言えたのは「冗談だ、冗談。いない。なにもいない」だけ。
「ね、セフ」
「やめろ。おい、検索すんなよ」
リリスは、俺の目にはショッキングピンクの派手な色、リリスが言うにはピッググマビューという豚の色らしいが、タブレットみたいなものを持っていて、それをつついてよく調べ物をしている。こちらのデータが入っていると同時にそちらの世界との通信機能もあるようだ。
なんだ、なんだ、すごいじゃなか、と俺は興味津々なのに、リリスは「ダメ!」と言って画面を見ることすらさせてくれない。こっそりのぞいてみたが、のぞきみ防止機能があるのか、黒い画面ばかりで何もわからなかった。
で、この時は検索されたらヤバイ言葉だったので、俺はリリスから、そのビッググマビュー色のタブレットを取り上げた。
「ちょっと」
「だから、変なこと検索するなって」
「変なことなの?」
「へ、変なことだよ。ふ、ふしだらな」
「ははぁん」
腕組みで無言のリリス。気まずかった。なんであんなこと言ったんだ、俺は。なんか……俺、バカだな。後悔の渦の中、手にパチっと静電気が走って、次の瞬間にはリリスの手元にタブレットは戻っていた。ほら、こういうときに魔法をかんじる。絶対、気のせいではない。
リリスは「イジワルしないでちょうだい」と俺をにらんだ。
それから、すぐに機嫌をなおして、
「あなたの恋人づくりに関してだけど」と話は戻ってしまった。
「だから、いらないって」
「遠慮しないで」
「してない」
苦痛だ。俺は恋人もいらなけりゃ、友達もいらない。
爽やかさも情熱も、なーんにもない青春で十分だった。
でも、リリスは頑として聞き入れない。絶対恋人を作ってあげると勝手に盛り上がっていた。それを俺がどんな思いで……なんて、ことはいいか。
そんなやり取りの最中、間が悪いことに美丘が訪ねて来たんだ。
それまで誰も来やしなかったのに。リリスが来て、二日目のことだ。
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