Page 7 魔法は意味不明

 ここまで書いたページを読んでみた。悪くはないが良くもない。というか、こういう書き方でいいのか方向性が違う気がしてきた。だからリリスに相談したんだけど、「あのさ」とノート片手に振り向いただけで「ダメだって!」と拒絶反応がすごい。


 誰も読んでくれと言っているわけじゃないのに。

 よほど厳格な決まりなんだろうか。ちらっとも見ちゃダメ?

 そうなると追い詰めるのは申し訳ない。


 でも、本当にこれでいいのかは不安だ。こういうときに、誰か話をきける友達でもいればいいのに。何をどう相談するかはべつにしてもさ。あいにく中学卒業と同時に俺は周りとは縁を切ってしまったので、いまさら誰にどう連絡を入れたらいいのかも、わからないんだ。


 ネットで調べるわけにもいかないし。「魔女の最終試験に提出する記録の書き方」なんて検索して出てくるもんが役に立つはずない。そんなことをする前に、なんでもいいからさっさと文字を書いたほうが賢明だ。


 なんてったってあと六日しかない。その六日で仕上げないといけないし、残り全部の日にちをこれに費やすのも嫌だった。それに明日はテニス合宿から妹が帰って来る。騒がしくなりそうだから、集中できるいまのうちに、かなりのページは埋めておきたい。


 妹が帰ってきても、リリスの姿は俺以外誰にも見えない。声も聞こえないし、不思議なことなんだが、彼女がたてる足音やなにかまで、すべて何も聞こえないとくる。もっというなら、食べたものだって食べたことにならないというから驚きだ。


 よくわからない。ほんとにこの仕組みが謎過ぎて考えるだけ気狂いするレベルだ。だって俺の目の前でリリスがアイスを食ってるだろ。現に今、ベッドに寄りかかり、扇風機あびながらソーダのアイスを食べてるんだが、このアイスは数が減るかというとそうじゃないというんだ。


 意味不明だ。いや、お前、いま食ってんじゃん。わからん。本当に。

 魔法ってやつはどうなってるんだ。不気味でしかない。

 それとも、リリスは嘘をついていて、俺はすっかり騙されてるんだろうか。


 これまでの約一週間。リリスと二人でこのうちにいて、たいして外出もしていない。だから、他人から見てどうなのか、あまり意識してこなかった。妹が帰ってきたら、この魔法の影響力をひしひしと感じることになるのかも。


 それとも。これは怖い想像だけど、いままでのことがすべて俺の夢の中の出来事ってことはあるか? 長い夢を見てるんだって。リリスが部屋に現れた、あの瞬間から夢が始まっているのか、それとも、八月二日の朝、俺は目覚めることなく今もベッドで眠っているのかもしれない。


 こっちのほうが現実的に思える。きっと、そうなのかもしれない。まぁ、俺の夢の中にしちゃ、いやに苦労させられていて疲労感がありすぎるけど。


 もし、これが現実だとしても。こっちでの研修期間が終わり、リリスが国へ帰って。そうして記憶が消されて。で、二週間前に目が覚めて。まだ八月二日で。「ああ、全部夢だったか」とか「なんだか長い夢を見た気がするけど覚えてないな」とか。


 そういう展開のほうが、なんだか納得できる。でもリリスがいうには「時の流れ」をなかったことには出来ないそうだ。いくら魔法が使えても。どれだけ偉大な魔法使いでも叶えられない願いなのだと。


 だから、俺は記憶を消されて、偽りの記憶でもって塗り替えられ、リリスとの二週間は、すべてなかったことになる。この仕組みについては何度も確認したけど、どうにも納得ができない。まぁ、すべて忘れるんだから、細かいことを気にしなくてもいいんだろうけど。

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