Page 4 魔法は使わない
――どうだろう。この書き出しは。小説風を意識して頑張ったんだが。
試験官さま、これだとリリスの印象が悪いだろうか。
生意気? 威圧的で老けてる? 変態扱いはやっぱマズいか。
悪く書きたいわけじゃない。そうじゃないんだ、そうじゃ。
リリスは……登場シーンで失敗したわけじゃない。唐突だっただけ。
だいたい、いきなり部屋に現れるって時点で間違っているは、なにもリリスのせいじゃないだろ? 転移魔法はこんなだって話だから、他も似たようなもんなはずだ。突然現れて、ホストはびっくり腰抜かして……、だろ? 違うのか。
送り込んできたのは、そちらだ。そちらのルールだ。試験内容についちゃ詳しく知らないが、研修先に事前通告なし。いきなり、バーン。登場、魔女です! お世話になります、って。
それで、両手広げて大歓迎!
ようこそ、魔女さま。なんなりとお申し付けください。
……を、期待してるわけじゃないよな。
もし、そうだとしたら、都合が良すぎ。少なくとも、俺は警戒した。完全に。
べつに、あなたたちを批判してるんじゃない。
ただ、そちらの世界と僕たちの世界との違いを示しているだけ。
第一印象は悪かった。これは普通。僕だからじゃない。誰だってそう思う。
警察を呼ばなかっただけマシ。いや、呼んでも、リリスは見えないのか。
そうしても、俺が困るだけ? え、そういうこと?
俺が変態扱いになるわけ??
こんがらがってきた。もういいや。
ああ……と。もしかしたら、僕について書くことも必要なんだろうか。
そうしたほうが、こちらでのリリスの様子がより詳細に伝わるかな。
僕はごくごく一般的な高校生だ。学年は一年。高校は三年間あって、その前は中学。妹はこの中学生の二年だ。中学も三年あって、その前は小学……って、説明はいいんだよな、たぶん。
そういうのは資料かデータなんか、そちらにちゃんとあるんだろう。そんなことをリリスが話していたような気がする。彼女の言葉はあいまいで「言えない」「秘密」が多いし、そもそも魔女だから信じていいのかどうかわからないけれど。
魔女というは、こちらではイメージが良くない、基本的には。昔は火あぶりの刑とか、暗黒面もあるし。異質な存在だな。それも資料かデータにあるだろうけど。
俺にとっても良いイメージじゃないことは書いておく必要があると思う。
オカルトとか、好きじゃないし。魔女って言われても「怪しい」だけ。
けど、リリスは魔女と言いながら、魔法を使わない。こちらには魔法を使いに来たわけじゃないから、というのが言い分だ。使えないわけじゃなく、使わない。これも試験の一つなんだろうか。魔法を我慢する生活、とか。
俺はてっきり魔界からやってきた魔女が人間に悪さをしていくパターンというか、試験というのはそんな感じの、どれだけ人間を不幸にしたかで決まるんじゃないかと思ったのだが、そうリリスに問うと、唖然とされ、三秒程ガン見された。
「あんた、私を誰だと思ってるのよ」
魔女だろ。というのが答え。が、違うらしい。魔女、魔女、言っているが、というかリリスが自分でそう言っているから魔女と呼ぶが、俺からすると魔女というよりただの……なんだ、表現が難しい。
いきなり乗り込んできたホームステイ希望の外国人か、襲来してきた宇宙人(にしちゃ面白みのない容姿だけど。期待するのは、タコみたいな星人か、グレイタイプかな)か、もっと簡単に言うと、やっぱり猛暑で狂った女にしか見えない。
女って言うか、少女? でも同い年の相手を少女と呼ぶのは違和感がある。自分のこと少年って呼ぶのも気に入らないのと同じで。お互いに十六だから少年少女なんだろうけど。この言い方は好きじゃないんだ。バカにされてるみたいで。
どうだ、試験官殿、さま。僕のことが少しは伝わっただろうか。
まだ、足りないかな。わからないな、どう書けばいいんだろう。
最初から事細かに時系列で書くべきなんだろうか。
そうしたほうがわかりやすい?
だったら夢のことを書いた方がいいのかもしれない。
俺が小さいころから繰り返し見ていた夢だ。
まずは、そこから始めようか。
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