第15話~さようなら~
翌日グレバルトの降伏宣言によりファーシェの勝利が決まった。
リーナは負傷したカルラの部屋に来ていた。
「本当に行ってしまうのか?」
「はい、明日には帰ろうと思っています」
「そうか・・リーナがいなくなると寂しくなるな」
「・・・あの」
「どうした?」
「レアンの事なのですけど・・」
「レアンがどうした?まさかリーナと一緒に行くとか言ってないよな?」
「いえ、レアンには・・明日帰る事をまだ話してないです」
「黙って行くつもりか?」
「・・はい」
「あいつが悲しむぞ、なにせリーナに惚れていたからな・・ここに残ると選択肢は無いのか?」
「レアンに会って帰るって言ったら・・私の気持ちが抑えられなさそう・・」
リーナはそう思いながら、先日の自分には出来ないだろうカルラの「愛する人を命懸けて守る」行動に心が折れていた。
「私には心配している家族が待っているので」
「それなら止めないが・・本当に言わないでいいのか?」
「私がいたら仕事さぼりそうだし、レアンにはちゃんと国王をしてもらわないといけないので・・カルラさん・・」
「どうしたリーナ?」
「レアンの事はカルラさんにお任せします・・だから幸せになって下さい」
リーナはそう言うと振り返り部屋を駆け足で出て行ってしまった。
数時間後、樹神の間に現れた元の世界に戻る扉の前に荷物を持ったリーナは立っていた。
リーナが扉に触れるとゆっくりと開き始め元の世界に戻る空間が現れリーナが扉に入ろうとした時に後ろからレアンの怒鳴り声が聞こえた。
「リーナ!明日帰るんじゃなかったのか?そんな事よりも俺に黙って帰るつもりか!」
リーナは足を止めると振り返らずに
「レアン・・ごめん・・私帰るから・・今まで楽しかったよ・・」
レアンはリーナの言葉を聞きながら近づくと手を掴み振り向かせリーナを抱きしめた。
「れ、レアン?」
「質問に答えろ!黙って帰るつもりか!」
「・・・」
リ-ナが目を背け答えられないでいるとレアンが
「帰らせない!リーナ帰るな!ここに残って俺を支えてくれ」
リーナは帰らないと、でも帰りたくない気持ちを交差させていたが、レアンの『帰るな』の言葉に目頭が熱くなってきた。
「帰るなって・・・支えるって私じゃなくても」
「リーナじゃないと駄目なんだ・・」
リーナはレアンを突き放しレアンの顔を見上げると色々な思いで涙が溢れ出てきた。
「レアンを支えるのは私じゃない、だって私はここの人じゃないから、それに家で心配している両親に戻って安心させたい・・だからお願い」
交差する気持ちの中で戻らなければの気持ちを押し出し言うと。
「・・・俺も付いて行く」
「レアンの馬鹿!レアンがいなくなったら皆はどうするの!」
リ-ナは姉が弟を叱るかの様に言うと。
「俺は全てを捨ててもリーナに付いて行く・・一緒にいたいんだ」
レアンがそう言うとリーナの手がレアンの頬を捉えた。
「馬鹿馬鹿馬鹿!本当に大馬鹿なんだから・・国王がいなくなったら国民はどうするの!ベルンさんやカルラさんはどうなるの!何で私の事なんか・・」
リーナがボロボロ涙を流しながら息を荒くしているとレアンは右手を胸に当てると
「リーナを心から愛している、ここに残って俺の妻になって欲しい」
そう言われたリーナは1度俯くと、涙を流した笑顔で顔を上げて打ち明けた
「私もレアンの事を愛しているんだよ・・でも、でも駄目なんだよ」
「何で駄目なんだ?」
リーナは腕で涙を拭うと。
「レアンにはカルラさんがいるじゃないか、元婚約者って事も知っている、だから支えるのは私じゃなくて・・だから」
リーナは少し間を開けてからレアンを指さしながら。
「だからレアンはカルラさんを幸せにしてあげて」
リーナはそう言うと扉に飛び込もうしたが出した手を掴まれてそのまま手を引かれレアンの腕の中に包まれ、そしてレアンを見上げ目が合うと強引に唇を奪われてしまう。
リーナは驚いたがゆっくりと目を瞑り、そして自然に涙が溢れて来た。
リーナは唇が離れると力いっぱいレアンを抱きしめ
「まったく強引なんだから・・始めてだったんだぞ・・キスしたの」
「ご、ごめん」
レアンがそう言うと抱きしめた手を緩めリーナが涙を拭うと腕を組み
「分かった私の負けレアンの勝ち!ここに残るから私の部屋に置いて来たレアン宛の手紙と白いネックレスを取ってきて欲しい、届くか分からないけど家族への手紙を書いてそのネックレスと一緒に家族に送るから・・それから恥ずかしいから手紙は絶対に読むなよ!」
レアンはリーナをもう一度ギュッと抱きしめると
「分かった、ありがとう、ここで待っていてくれ」と言うと言われた物を取りに走って樹神の間を出て行き、レアンが見えなくなるとリーナは目頭が熱くなり大粒の涙をこぼしながら今出来る最大の笑顔で。
「レアンごめんね・・最後にリーナは嘘を付きました」
リーナはそう言うと部屋に置くはずだったレアン宛の手紙をポケットから取り出し手紙の最後に付け加えた。
『リーナは元の世界に帰りますが、この赤いネックレスをレアンに、白いネックレスをカルラさんへ、リーナから2人への未来の幸せの証として置いて行きます・・そして2人一緒にこのファーシェを繁栄させて下さい・・』
リーナは赤と白のネックレスを首から外すと手紙と一緒に足元に置き元の世界への扉にゆっくり歩き始め、ドアの前に来ると迷いを断ち切るかのように扉に飛び込んだ。
そしてこの世界で最後の言葉を残した。
『ありがとう・・さようなら』
ファーシェに飛ばされてから1ヵ月後の夕方の大聖堂にリーナは戻って来た。
(リーナの世界の1日はファーシェでは10日換算)
リーナは大聖堂を出ると急いで両親の待つ家に走った。
家の前に着くと家の中から懐かしい卓上の宗教戦争の声が聞こえてきた。
リーナは扉を開け家の中に入ると大きな声で「ただいま」と言うと目の前でいなくなった娘の帰宅にカリンは「一時休戦」と言い、クラウゼンは「引き分け」だと言い卓上の宗教戦争を止めリーナに近づき抱きしめた。
その日の晩、ベットで両親に挟まれてリーナは寝ようとしていた、クラウゼンは娘の帰宅で安心したのか鼾を掻いて寝てしまった。
リーナは戻って来た喜びと後悔が交差しなかなか眠れないでいるとカリンがリーナの方に寝返りをして顔を合わすと
「ねぇーどうだった?戻って来れたって事はクリアでいいのか?」
リーナはカリンに『規則だから独り言』と言いファーシェでの恥ずかしい事を伏せ異世界であった事を話し出しカリンは話の所々で頷くとリーナが話の最後に
「お母さん・・ローズノヴァって人は知ってる?」
「ローズノヴァは私の旧姓だ」
リーナが『やっぱり』と思い
「じゃー火山に穴を開けたローズノヴァ砲も知ってるよね?」
カリンは薄笑いをしながら
「頭来たから吹き飛ばしてやった」
リーナは200年前にファーシェに現れたローズが自分の母親であると確認していると
「で、お前は何かやったのか?」
リーナは布団を顔半分までかぶると小さな声で
「ひまわり砲でお城1つ吹き飛ばした・・」
カリンは『プッ』と小さく吹くとリーナは
「母さんが行く時に言った事が今回の昇格試験で分かった気がした」
「そうか、それならリーナが1つ成長した証拠だ」
「でも・・」
リーナが何か言おうとしたところにカリンが
「大事な人を守ったのだろ?それならアルシュールもお許ししてくれるさ・・ところで私の
「ごめん母さん・・アルシュールを治す為に・・接木として使いました・・」
「ノーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
こうしてリーナは手違いで『笑っちゃう級』をクリアーしたが『中級』扱いで試験を終了する事になり、あれだけの事やったのに中級なんですか?とリーナは心で思ったそうです(笑)
この度は白き樹神兵アルシュールを読んでいただいてありがとうございます。
続きというか樹神兵アルシュール2も既に妄想中です(笑)
戻って来たリーナの世界時間で半年後からのお話の予定ですが・・
先に別のネタを書く予定なのでそれが終わって更に他のネタに走らなければ・・
と言うことでありがとうございました。
白き樹神兵 アルシュール 肉まん大王(nikuman-daiou) @tkibook2
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます