旅する甲虫
パン屋兼洗濯屋の”ヒゲとゴリラ”で
いわゆる”ゲームコーナー”だった。
置いてあるゲームは5台。
おなじみとなった”ヒゲとゴリラ”。
ゴリラを操作し四角で区切られた格子状の線の上にある餌を土人たちを避けつつ食べ尽くす”ゴリラと土人”。
ショットが撃てる車で火星人の想像図そのままの敵や上下するドクロを避けたり倒したりしつつドル袋を回収しながら世界一周する”跳ねる車”。
迷路の中を走る車で追ってくる敵の車を煙幕で文字通り煙に巻きつつ旗の全回収を目指す”迷路ラリー”。
カエルを操作して車の行き交う道路を横断、行く手を阻む川を丸太に伸び乗りつつ対岸の巣を目指す”カエルが帰る”。
どれも魅力的だった。近所が日増しにゲームコーナー化していく、そのことに幸せを感じつつあった。
小銭はまだあるが、もう外出が許されている時間を過ぎていた。早く帰らねば親父から大目玉を貰うのは明白だし、そうなれば翌日の外出にも支障をきたすだろう。
俺は後ろ髪を引きちぎられる思いで根を張りそうな足を家路へと向けた。
家では母が夕飯の支度をしていた。俺の興奮を感じ取ったのか、背中越しになにか良いことがあったかと聴いてくる。包み隠さずパン屋の”倉庫”の件を話すと、またお前はと苦笑いしているのが判るイントネーションが返ってきた。
テレビを点けると以前から話題になっていた「そうでない人はそれなりに」写るカメラ用フィルムのCMがまだ流れていて、それをぼんやりと眺めていたら程なくして親父が帰ってきた。
居間に来るや否や「お前もこういうのを読むようになれ、毎号買ってやる」と何かが挟まっていてそれを紐で縛ってある雑誌を放り渡される。小~中学生向けの学年ごとに分けられて刊行されている子ども向け雑誌だった。しかも渡されたものは、親父の意図によってひと学年上のものだった。
これを読まされること自体が嫌々勉強させられる雰囲気に似ていて余り好きではなく、子供向けのテレビ番組を掲載している子供向け番組専門誌やそれらよりも小さくて電話帳のように分厚い漫画雑誌が読みたいと喚いたが受け入れられなかった。
嫌々ページを開きはしたが、最新電子ゲームの記事や未来から来た青い猫型のアレの漫画は食い入るように読んだ。例の”小さくて電話帳のように分厚い漫画雑誌”のような子供だけに通じる”品性に欠けるが刺激的な面白さ”はなかったが、子供心に興味がそそられる記事や漫画は時間を忘れるには充分過ぎる内容だった。
病み上がりのアディショナルタイムが終わりを告げた明くる日。
下校から猛ダッシュで帰宅して
それだけの
息も切れぎれなまま、一番気になっていた”跳ねる車”のデモ画面を眺める。
どんなゲームなのかを書かれていることが表示されてはいるが、英文で書かれているのでよくはわからないものの、絵付きで表示されているので雰囲気は伝わってくる。
画面が切り替わり、ゲームの解説文の次に表示されたものがまたとんでもなかった。
いわゆる
好奇心がメーターを振り切ったところで小銭を取り出していつものように”例の作法”を実行する。昨日
デモ画面を眺めている間に他の子供がやって来てこのゲームをやろうとしたらたまらない。せっかくの一番乗りを噛みしめる時間はもう
ゲーム少年 椛屋 @momijiya
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