四万四千七百八十九号書架 こ 百四十一区 十四番 百八十一巻 七百一頁 千三百二十四章 二百三節 「ヴンダーカンマーへようこそ」
某月某日、天気。気温二十三度。
日記帳もこれで三冊目になる。
日記帳と言っても、実際は青いハードカバーのノートだ。クリーム色の紙は書き心地がとっても良い。相棒はつやつやした赤い万年筆。海外製の随分古いものだけれど、しっかり手入れしているおかげでまったく支障はない。今もこうして、ブルーブラックのインクをなめらかに吐き出している。
ノートと万年筆を手にしたのは、わたしがここに来てまだまもない頃のことだ。ノートは
近頃はノートも筆記用具もどんどん品薄になってきている。特に万年筆は絶滅危惧種で、中古のものであってもまず出回らない。そんな状況でも、先生たちがわたしのために貴重なものを用意してくれたことが嬉しくて、こうして今日まで日記を書き続けている。
誰かに見せるものでもないけれど、こうやって毎日を書き綴ることにはきっと意味があると信じている。いつか日記を書けなくなる日が来ても、過ごしてきた日常はちゃんとここに残るからだ。
新しい日記帳も、騒がしく楽しい日々でいっぱいになりますように。
某月某日、天気薄曇り。気温二十三度。
またノウサギが貨玖先生の部屋に突っ込んだ。
信じられないがこれで三度目になる。いい加減おかしいと思って第三展示室の什器を確認したら、わずかだけれど隙間があった。どうやらここからガラス戸をこじ開けたらしい。どこでそんな知恵をつけてきたのだろう。
今回の被害は、廊下に積み上げた本の塔が二つ、室内の本の山が三つ。すべて見事に崩落している。触ると勝手に分解していきそうな古い本が多かったので、貨玖先生が出勤してくるまで片付けはやめておいた。この後、ノウサギに拳骨ののち説教。
やってきた貨玖先生に事情を話したところ、最初こそ愕然としていたけれど、結局「博物士の勉強」と称して本の片付けを手伝わされた。博物士がモノの取り扱いのスペシャリストである以上、本だってその対象になるわけだし、稀覯書をたくさん見られたのはたしかにありがたい。けれど、いくらわたしが頑丈だからといって、でかい煉瓦ブロックみたいな古書を何冊も運ばせるのはどうかと思う。もう少しヒトらしい扱いをしてほしい。
ついでに、ノウサギがなぜそこまで貨玖先生の部屋に執着するのかもわかった。先生の机に置いてあるお菓子が目的だったようだ。しかしそのお菓子というのが、「胡麻味噌チーズ明太煎餅・期間限定スペシャルコラボ背脂にんにくトマト味」とかいう代物だった。
もはや何味なのかまったくわからないけれど、貨玖先生はこれがお気に入りでいつも自室に常備しているらしい。以前試しにノウサギに食べさせてみたら随分気に入ったようだよ、と自分から白状してくれたので、今後変なものを与えないようにと厳重に抗議しておいた。
うちの館長とノウサギが同じ味覚を持っているという、知りたくもないことを知った一日だった。
某月某日、天気晴れ。気温二十三度。
大量の昆虫標本群が届く。
持ってきたのはここの常連で、ある会社の社長だという人物だ。子供の頃から虫が大好きで、大学の卒業論文も昆虫を題材にしたらしい。残念ながらその分野での就職は難しく、諦めて商社に勤めたところ、意外な才能を発揮して起業するまでに至ったという。
現在は半ば隠居してのんびりコレクションを眺める毎日を送っていたけれど、いよいよ統合管理局の追及が厳しくなってきたのを機に標本群をここへ寄贈することにしたそうだ。
同じく昆虫少年だった(わたしに言わせれば今でもそうだと思う)比呉先生の喜びもひとしおだったようで、二人でいつまでも話し込んでいた。「ツヤゴライアスタマムシ」や「センストビナナフシ」、はたまた「タリフェルホソアカクワガタ」などなど、呪文のような虫の名前が次々に口から飛び出してくる。
おどろおどろしくも、生き残るために進化してきた強くたくましい虫たちは、見る者を魅了してやまない。
検品作業を手伝いながら、「虫博士」たちに講義を賜った。講義と言っても、最初に捕まえたのはこの虫だったとか、この蛾を探しに海外の奥地まで出かけていったものだとか、要はほとんど思い出話だった。でも話し手が楽しそうだと、聴いているこちらも楽しい。途中休憩も挟みながら、三時間ほどかけて検品完了。そのうち大部分を喋って過ごした。標本群は第四展示室に収蔵する。
コレクションのなかに「バイオリンムシ」という虫がいた。丸っこい羽と長い頭部は、確かにバイオリンにそっくりだ。命名したヒトはなかなかロマンチストだと思う。わたしの目にはどうしてもウイスキーかブランデーの壜に見えて仕方なかったから、そういう風情は持ち合わせていないらしい。少し残念だ。
しかし、統合管理局も困った連中だ。市民生活を集中管理して徹底的に無駄を省き、効率良く社会を回す。その目標は立派だと思うけれど、モノすら無駄だと断ずるのは見当外れだ。
虫社長の話によると、「精巧なデータさえあれば実物は必要ない」と主張して、美術館や博物館の収蔵物を根こそぎデータ化してネット上の仮想ミュージアムに公開し、実物は倉庫行きか廃棄、空っぽになった物理施設は閉鎖、なんて暴挙を繰り返しているそうだ。むちゃくちゃ過ぎて話にならない。
実体を持つ「モノ」の価値をまるでわかっていないし、第一美術館や博物館という場所はヒトとモノとの、さらにはモノを通じたヒトとヒトとの出会いを生む拠点なのに。
とにかく、このところコレクションを持ち込んでくるヒトが目に見えて増えている理由がわかった。つまり統合管理局が、公共施設だけでなく個人の持ち物にまで手を出し始めているということ。
ヴンダーカンマーは、「モノへの愛は人類の普遍的性質であり、これにおいて人類は遍く平等」をモットーとしている。従うべきはそのルールだけで、その他ありとあらゆる思想に対し中立を貫く。これまでそうであったように、これからもそうだろう。この小さなコレクションルームには政治力も武力もない。何かを声高に主張することも、団結して行動することもない。
すなわちヴンダーカンマー《わたしたち》の使命は、体制への反発や抵抗ではなく、託された「モノ」たちをひたすらに愛し、守ることだと思う。
ここならきっと、モノとモノを愛するヒトたちを守ってくれる。何かを大切に思う心を守ってくれる。
ヴンダーカンマーを訪れるヒトはみなそう言う。だったら、その信頼に全力で応えなければいけない。
いけないのだけれど、私に何ができるだろう。いつも守られてばかりで、何も知らないわたしに。
今日はつい書き過ぎてしまった。もう朝の十時を回っている。明日に備えて、そろそろ寝ないと。
某月某日、天気晴れのち曇り。気温二十三度。
遭難した船を救出する。
もちろん本物の船ではなくて、古い地図の海の部分に描かれた絵だ。普段から汽笛をうるさく鳴らすので顰蹙を買っている。
はじめは第五展示室にあったのだけれど、以前ちょっとした事件があって隣の第六展示室へ移動になった曰く付きの地図だ。船があまりにやかましいせいで、近くに展示してあったタカアシガニがとうとう癇癪を起こしたのだ。なんせ足が長くて頑丈なものだから、怒りに任せて暴れるとちょっとした嵐のようだった。巨大な鋏が鼻先を掠めたときを思い出すと、今でも肝が冷える。
そのときは先生たちも手をつけられず、ひたすらタカアシガニが落ち着くまで待った。その後、話ができる程度に冷静になってもらってから、地図を移動することを提案してどうにか矛を(この場合は鋏を)収めてもらった。
新しい居場所に移った地図がしおらしくしていると思ったのも束の間、ほんの数日ですっかり元気を取り戻し、騒々しく航海を続けていた。
何か変だと気づいたのは、汽笛の音色のためだ。
普段はトランペットの下手なアドリブよろしく調子外れに吹き散らかしているのに、今日に限って決まった音の長さと回数を繰り返していた。どこか切迫した響きが気になって見に行くと、真っ白な帆を半分ほども水に浸し、船首を高々と上げた状態で立ち往生していた。さっきの汽笛は、れっきとした救難信号だったらしい。
放っておけば完全に沈没するだろうし、そうすれば展示室も静かになる。とはいえ、そこまで非情にもなれなかった。仕方なく手を突っ込んで船をすくい上げ、もう一度海面に置いてやった。地図に描かれた海なんてせいぜい手首までが浸る程度で、大した深さはない。船はよろよろと動き始め、一番近い陸地に向かって進んでいく。目を凝らすと、米粒ほどの大きさの船員たちが濡れ鼠になりながら溜まった海水をすくっては捨てていた。
調べてみたら、船が遭難した場所は昔から事故の多い海峡だった。潮の流れが複雑なこと、通年に渡って風が強いこと、原因は色々あるらしい。風任せの帆船には厳しい航路だ。なぜそんなところをあえて通ろうと思ったかはわからない。まあどうせ、ラムで酔っぱらった船員たちの度胸試しとか、そんなところだろう。
ぽー、と細く長い汽笛がかすかに聞こえてくる。時刻は午前八時ちょうど。
ヴンダーカンマーの閉館時間、みんなが眠る時間だ。
某月某日、天気雨。気温二十三度。
タビビトノキの葉が額を壊す。
わたしの身長の倍、いやもっとあるかもしれない巨大な葉は、わたしがここに来たときから額縁のなかに収められていた。こうやって壁に飾ると一枚の絵画のようでしょう、と自慢気だったのは貨玖先生で、この展示方法を思いついた本人らしい。旅人の守護神ヘルメスのサンダルを想像したと言うと、こんなに大きな羽根を持つ翼なら確かにどんな鳥よりも速く飛べますね、と即座に答えてくれたのを覚えている。
閉館の準備を始めようとした矢先、オナガミズアオが慌てた様子で飛んできた。薄青色の羽をしきりに羽ばたかせながら、扇が目を覚ましそうだ、と妙なことを言う。意味はわからなかったけれど、普段はお人好し(お虫好し?)で穏やかな性格のこの蛾が伝えにきたということは、緊急事態に違いない。
現場である第二展示室に駆けつけ、中へ入ると正面に飾られた巨大な額が目に飛び込んでくる。遠目から見てもはっきりとわかるくらい、その内側が真っ白に濁っていた。ぺたんこに押しつぶされた状態で自分の「体」を少しずつよじり、時間をかけてガラスの板面を割ろうとしたのだろう。濁って見えたのは、細かいひびがびっしりと入っているからだった。
額縁の周囲にあるゴイサギや、大時計の針やラツカヒツジの頭骨が怯えているのがわかる。ここにはケースに収められず、剥き出しのままの標本も多い。もしガラスが割れ、その破片が飛び散れば、それによって傷つくモノもあるだろう。わたしはわざとゆっくり額縁へ近づいていき、目の前に立った。葉が身震いしたのか、額縁全体がぶるりと波打つ。わたしの言いたいことがわかるかと問うても、拗ねたような沈黙が返ってくるだけだ。いたずらを咎められた子供の相手をしているようできりがない。
このまま意地を張るなら燃やしてやろうかと苛立ったとき、肩に留まっていたオナガミズアオがふわりと飛び立った。ゆっくりと額縁へ近づいていきその端へ掴まる。緑色の触角がぴこぴこ揺れる。何か話しかけているらしい。
普段から館内を飛び回ることを好み、様々な標本たちと親交を深めて最近ではすっかり調整役として働く小さな蛾は、やがてこちらへ戻ってきた。差し出した右手の指に留まり、もう大丈夫、と言ってぱたんと羽を閉じる。何を諭したのかついぞ語らなかった。しかし、大丈夫というその言葉通り、タビビトノキの葉はしょぼくれた様子で、ごめんなさい、と呟いたのだった。
貨玖先生も比呉先生も帰ったあとだったので、応急処置としてガラスの全体にテープを貼っておいた。かなり見栄えは悪くなったが、先生たちに事情を話し、新しい額が届くまではこのままだ。仕方がないのでしばらく我慢するように、と伝えると、タビビトノキの葉はあっさりと承諾した。その代わり、巡回の回数を増やしてくれと奇妙な条件をつけてくる。大した手間でもないので、わかったと答えておいた。
問題はこのあとだった。
自室へ戻ると、黙っていたオナガミズアオがおずおずと口を開いた。いわく、あまり叱らないであげてと。わたしのほうは最初からそのつもりだった。小言は先ほどたっぷり並べてきたし、周囲の標本たちにもしっかり謝らせたので、怒る理由はもうない。もし額縁の居心地が悪かったことが原因なのだとしたら、展示方法の改善も考えていた。
そこで、なぜわざわざあのいたずら者をかばうのか、問い返してみる。
パステルブルーの羽を閉じては開き、迷うような仕草をしたあと、善良な蛾はとんでもないことを言った。
彼は、きみに自分を見てほしくて、あんなことをしたんだ。
きみのことが好きなんだよ。
これを書いている今もまだ信じられない。けれど、嘘ではないことは確かだ。ここには手を焼かせる奴はいても、嘘つきはいない。
わたしも一応、恋というものを知ってはいる。知ってはいるけれど。
植物の恋心には、いったいどうやって応えればよいのだろう。
《二人の博物士による対話》
「ああ、貨玖先生。おはようございます」
「おはよう、比呉先生。遅くなって済まないね」
「
「ご苦労さま。ではさっそく運ぼうか……杜都さんは?」
「来館者の対応中です」
「そうか。では、先に始めているとしよう」
「その前にひとつだけ。その来館者が妙なことを言っていました」
「妙なこと?」
「あくまで噂ですが、学芸同盟が大規模な捜索を行っているそうです。対象は
「……先日届いた観測装置は?」
「すべて分解したところ、小型のカメラと盗聴器が仕掛けられていました。入手ルートも把握済みです。ほぼ間違いなく、学芸同盟の過激派が絡んでいます」
「ふむ」
「今回は数理模型の寄贈の申し出がありました。数日中に届く予定ですが、同じ手口が使われている可能性はあります」
「そのことは、彼女には?」
「伝えていません。今は、まだ」
「いずれ自ずから知ってしまうよ。既にここの意義を理解しているようだからね、我々以上に」
「それは彼女の……性質によるものですか」
「天性、と言うべきかもしれないね。より人らしく表現するならば」
「貨玖先生、この際聴かせてください。先生はこの先、彼女をどうするおつもりですか」
「きみはどう思う、比呉先生」
「僕は……彼女を一人前の博物士に育てたいと思っています。僕らの仲間として、モノを守る一員になってほしい。同時に、彼女が自分自身を守れるように」
「なら心配することはない。無論、私もそのつもりだ」
「しかし」
「そも、彼女ここへやってきた経緯を思い返してみるといい。我々が杜都さんを見つけたことを偶然だと思うかい?」
「……」
「私たちも選ばれてここにいるのだよ、比呉先生。信じてもいいはずだ」
「わかっています。わかっているんです、ええ。外の世界がどんなに変わっても、僕たちの使命は変わらないと。でも」
「心配なのだね。杜都さんが」
「……彼女には、強くなってほしいんです。今の状況はあまりに困難だ」
「我々一等博物士は、モノだけを見ていればよいわけではない。モノが存在する社会、時代、世界。それを無視することはできないのだからね。だから、きみの憂慮は、正しいものだよ」
「……ありがとうございます」
「我々の使命は変わらない。このヴンダーカンマーに収蔵されたモノを守る。そして杜都さんが自身の力で生きていけるようになるまで、彼女を守り、導く」
「はい。……ああそうだ。杜都さんが、ベッドの購入を申請していました。休むときくらいは横になりたい、と」
「なるほど。彼女が『ある』環境を少しでも良くするのも我々の仕事だ。予算を計上するとしよう、まだその程度の余裕はあるはずだ」
某月某日、天気曇り。気温二十三度。
ラブラドライト標本と会話する。
第七展示室はもともと、収蔵のための部屋ではなかった。ヴンダーカンマーはありとあらゆるモノを受け入れるけれど、それは部屋そのものも例外ではない。
真っ赤なビロード張りの椅子、インク壺を置くための窪みがある長机。部屋の真ん中に陣取る丸机、そこに据えられた映写機。
旧制大学の講堂、階段教室。そのすべてを、「収蔵物」として収めたのだ。
改修工事に伴い講堂が取り壊されることを聞きつけたうちの一等博物士たちがどさくさに紛れて持ち出した、らしい。呆れた話だけれど、ヴンダーカンマーにかかればこの程度の部屋を「持ってくる」ことなど、本当に容易いのだった。
古き良き学びの場。それだけでも充分に価値があったけれど、さらに別の役割をこの階段教室は担うことになる。
何年か前、比呉先生が大量の鉱石標本を持ち帰ってきた。
元の持ち主は、「モノ好き」のあいだで有名だったとある鉱物蒐集家だ。そのヒトが亡くなったため、彼のコレクションを引き取ってきたのだという。途方もない数の鉱石たちは、未だ勉強中のわたしが見ても明らかな一級品揃いだった。売り払えば人生を三回ほど遊んで暮らしてもまだまだお釣りが来るかもしれない。当然ながら比呉先生は遺族たちと大揉めに揉め、死に物狂いになって勝ち取ってきたらしい。
ひとつだけ教えてくれたのは、遺族が蒐集家のことを「石狂いの惚け老人」と罵ったのを耳にしたとき、頭のなかでゴングが鳴った、ということだった。実に彼らしいと思ったし、わたしはそういうところが大好きで、尊敬している。
比呉先生の尽力によって散逸を免れたこの贅沢な鉱石たちに、わたしはできるだけ長く優雅な余生を送って欲しいと思った。そのためには、純粋に「モノ」を愛する仲間だけが集う、居心地の良い部屋が必要だった。
たとえば、時間と言葉とインクの染み付いた、美しい教室とか。
それ以来、第七展示室は通称「鉱石教室」と呼ばれ、今でも多くの鉱石が展示されている。
その一角にある、ラブラドライトの標本。コレクションのなかでは珍しく研磨された石で、形は角が取れて丸くなった台形に近く、その短辺を机に接している。つややかな黒の地に、燻したような金色とモルフォ蝶を思わせる金属光沢の青がまだらに入り乱れる。比呉先生が特に気に入っている標本のひとつだ。高さは、先週までは二十二センチメートル。今日再度測ったら三十四センチメートルまで伸びていた。こころなしか横幅も広がっている。
地中から掘り起こされ祖国から遠く運ばれ、土に触れることもない、雨からも風からも隔たれたこの階段教室で、それでもこの鉱石は成長を続けている。
――この国では石は変わらないものの喩えと聞くが。
ラブラドライトは言う。強く主張するように、ひと際青い部分をきらめかせる。
――当方を見れば、変化と成長を望む個体が存在することは明確だ。
わたしは手近な椅子に腰かけ、あなたのような標本はおそらく少数派であるという見解を述べる。
――貴殿の言う通りであろう。しかし、それは当方にとっては大きな問題ではない。当方にとっては、己の望みこそが重要だからだ。
生真面目な固い口調で喋るのはやはり石だから、だろうか。くだらないことを考えるわたしを咎めるように、アンティークの指輪に似た金色がちかりと光る。
――当方は、貴殿の考えを訊きたい。内面的な変化や成長の機会に常に接しているように見受けられるが、貴殿はどのように望んでいるのか。
「内面的な」変化とわざわざ言ったということは、おそらくこの美しい虹色の鉱石は、わたしの正体を理解しているのだろう。わたしに外面的な変化が訪れるとすればそれは「成長」ではなく、「劣化」や「故障」と呼ぶのが正確だ。
もちろん、変化も成長もしたい。いつまでも先生たちに守ってもらうわけにはいかないし、いずれはここを出ていくこともあり得る。だからそのときのための備えは必要だ。わたしはそのように答える。
――杜都殿。貴殿は、そのような消極的な思考でもって、己の行く先を計っているのではあるまいな。
ラブラドライトの口調が、急に厳しくなる。
――当方を見るがいい。地球上の物質が、偶然反応を起こし生まれた無機物だ。貴殿のように歩くことも、話すこともできない。しかしそれでも、当方は望みを持つことができた。より広く、深く世界を知り、少しでも当方の見識を広めたいという望みを。
言葉に詰まる私に、虹色の鉱石はさらに言い募る。
――その望みが当方のなかに芽生えたのは杜都殿、貴殿がいたからだ。貴殿が毎夜この教室を訪れて、それを我々に読んで聞かせてくれたからだ。
思わず、傍らのノートに目をやってしまう。
日記帳とは違う、ぼろぼろの大学ノート。毎日毎日、みんな帰ったあとに開くそれに、新しく知ったことを書き込んでは、声にしてわたしの体に染み込ませた。昨日より、少しでも知識を身につけたい。わずかでも前に進みたい。その一心で日々、書いては読んでいた。大好きな鉱物たちに囲まれるこの部屋で。
誰も聞いていなくてもいい、いっそ迷惑だと思ってくれても構わない。そんな気持ちで続けていた、身勝手で個人的なわたしの行いは、たしかに届いていた。
――貴殿が、変化や成長を心底から拒むなら、無理強いはしない。さりとて、半端な理由で機会を無駄にするならば、決して見過ごすことはできない。貴殿を徹底的に糾弾する準備はできている。
厳しい言葉と裏腹に、石肌の中央を占める青い一片が、天井の灯りにやさしく揺れる。
それはきっと、まだわたしが知らない遠い国の、澄み渡る空の色。
――変化は、成長は、己を守るための鎧となる。だがそれだけではないはずだ。それは果てしない旅路を行く靴になり、終わりのない空を飛ぶ翼になり、貴殿をどこまでも導いていくのではないか。望みを叶えるためにこそ、貴殿は変わっていくのではないか。
わたしは経験したことのない、奇妙な感覚に襲われていた。
鼻の奥が沁みるように痛くて、目は内側から押されているみたい。胸の奥の、心臓があるはずの場所から熱い塊が押し上げられてきて、声が出てこなかった。
――覚えていてほしい。当方をはじめ、この部屋を与えられた鉱物たちはみな、貴殿を愛している。我々に日々語りかけ、惜しみなく心を向けてくれる杜都殿を。貴殿がどのように変わっていこうと、どこへ向かおうと、我々は常に、杜都殿の味方だ。
生まれて初めて泣こうとしているわたしに、ラブラドライトは静かにそう語りかけた。
鉱物に特殊な力が宿るとする解釈によれば、ラブラドライトは力強い信念や、意識の変革、といったものを意味するらしい。
その手の話はあまり信じないのだけれど、ああ、それでも。
まだこんなに、胸が熱い。
某月某日、天気晴れ。気温二十三度。
タイプライターを修理する。
今日は来館者もなく、退屈して館内を歩き回っていたら出張中の貨玖先生から連絡が入った。
骨董品の万華鏡が多数入手できたこと、それの運搬のために明日は出勤が遅くなること。それから、「カルチェラタン」から届いた荷物は必ずバックヤードで検品を行うこと。
手に取った羊皮紙には、先生らしい簡潔な文面が「絶滅した」言語で書かれていた。それが言語と知らなければ、記号とも図形ともつかないマークが不規則に並んでいるようにしか見えない、西の大陸に住んでいた先住民族の言葉だ。時制も主語と述語の順番もめちゃくちゃなそれを先生は自在に使いこなす。
こっそり
それでも、ここではないどこかから手紙が届くのはやっぱり嬉しい。この奇妙なコレクションルームが、決して世界と隔たれているわけではないことがわかるからだ。
さっそく返信を書こうとキーを叩いた瞬間、ばきんと嫌な感触が指に伝わってきた。驚いて手を引っ込め、もう一度こわごわとキーを押し込んでみる。今度はまるで手応えがなく、空振りしている。間違いない、アームが折れた。さっきの貨玖先生からの手紙を書き終えたときに力尽きたのだろう。
すぐに修理したかったけれど勝手がわからず、比呉先生に手伝ってもらった。まずは倉庫の引き出しを片っ端から開け、予備の部品を探し出す。次にカバーを取り外し、折れたアームを新しいものと交換する。せっかくなので溜まった埃も丁寧に拭い、外装を磨き上げると見違えるほど美しくなった。ぴかぴかのタイプライターでさっそく返事の手紙を綴る。杜都、と署名したあとに、符丁の改行を四つ入れると、パピルスはタイプライターに飲み込まれて消えた。
比呉先生に礼を言い、手紙に書かれていた数理模型の話を伝える。ついでに「カルチェラタン」とは何か尋ねると、先生はなぜか少し迷ったような素振りを見せたあと、学芸同盟の通称であると教えてくれた。
学芸同盟。
学問と芸術を偏愛する奇人たちの巣窟。真理を追求するためのすべてがあり、それ以外は何もない。俗世を離れた人外魔境、象牙の巨塔。
知識欲の前ではヒトの命など吹けば飛ぶ、秘密のない秘密結社。多数の研究者、芸術家を要する集団に対して、ヨーロッパに実在した学生街の名前をつけるのは決しておかしくはない。ただ気になるのは、その学生街が過去に起こった革命において重要な拠点となっていたことだ。それを踏まえた、つまり反体制の姿勢を表明するための名乗りなのだとしたら、少し厄介かもしれない。
ヴンダーカンマーの中立性もそうだけれど、わたしは誰かの主義主張のためにここを利用されるのを好ましく思わない。こちらに手を出すつもりなら正々堂々斬り込んでくればいいのに、回りくどい手段を取るところも実に気に入らない。先生たちは隠しているけれど、少し前に学芸同盟から寄贈された天体観測装置に不審な機器が仕込まれていたことは、とっくに知っている。
いたずらなノウサギも、したたかな虫たちも、お調子者の船も、寂しがり屋の大きな葉も、気丈な石たちも、貨玖先生も比呉先生も、ここを訪れる人たちも、わたしはみんな守りたい。みんなを守れるようなわたしへと変わっていきたい。
何かを奪うより、何かを守るほうがきっと辛く苦しいのだと思う。それでも、わたしはそれを選ぶ。
一度は出来損ないとして捨てられ、燃やされるはずだった身だ。
生き残ったのだから、それを無駄にはしない。たとえどんなに道が険しくても、わたしはやりたいことを、やるべきと信じることをやる。
ふわあ、と大きなあくびが出た。
朝から夕方まで授業をこなしたあと、深夜まで起きているのは結構しんどい。親も早く寝ろってうるさいし。でも今日は、どうしても起きてなくちゃいけない用事があった。
「ヴンダーカンマー」の噂は、モノ好きのあいだでは有名だ。
古今東西ごちゃ混ぜに、なんでも収蔵する驚異の部屋。最近では収集家たちが
ぼくたちのやりたいことはただひとつ。すべての学問と芸術を、あらゆる人に行き渡らせること。そのためにはまず人もモノも全部ぼくたちのところに集めて、分類して、体系付けて、管理しなくちゃならない。「教授」はぼくたちのことを、トリコロールの旗を持ち民衆を導く女神に喩えていた。我々はこの世界の文化を先導していくんだって。
その通り、優秀な者は世界を率いる義務がある。
たとえば、史上最年少で
ぼくが今夜、こうして夜更かししているのは、その義務を果たすための小さな一歩を踏み出すためだ。
部屋の灯りは消してある。顔を上げると壁時計が目に入った。日付が変わって、六月九日。午前一時まであと五分。
突然蛍光塗料を塗った針の先が、シュールレアリスムの絵みたいにぐにゃりと歪んだ。
重力のベクトルが渦を巻く。体が天井に向かって倒れ込み、内臓が持ち上がる。ベッドも机もめちゃくちゃに舞い上がる。本やノートやシャープペンシルが宙を飛び、逆さまの窓がめくれる。見えない嵐にかき混ぜられる部屋のなかで、声も出せずにもがく指の先に、何かが触れた。
わずかな光に、六角柱のシルエットが浮かび上がる。
氷の化石みたいに透明な輝き、騎士の剣みたいにまっすぐな姿。
石英の原石標本。
こんなに綺麗なものが世の中にあると知ったとき、大袈裟でなく生まれてきてよかったと思った。一生をかけてもこの石のことを知りたいと思った。
ぼくが勉強にのめり込み、やがて
冷たく鋭い感触を掴み取った瞬間、重力の渦が解ける。一瞬の浮遊感を挟んで、世界が静まり返った。
足元にはベッドの柔らかさではなく、敷き詰められたタイルの固い平面。頬に触れる空気は沈殿している。物音ひとつなく、高周波音みたいな耳鳴りを遠くに感じる。ここが広い空間であることがすぐにわかった。
唐突に、ひとつの気配。
固く閉じた目の向こうにぼんやりと明るさを感じた。馴らすようにゆっくり、少しずつ目蓋を上げる。
「こんばんは」
静寂に落ちた声の水滴が、波紋を作って辺りを揺らす。そっと手渡すように穏やかな声が耳に届き、ぼくはその声のするほうへ顔を上げる。
薄暗闇に、人影がひとつ。
黒い髪は肩に届く程度、肌は真っ白。そして、瞳がわずかに青い。
身長はぼくより高く、やさしく笑みを浮かべる顔は男にも女にも見える。黒いパーカーに白衣を羽織り、左手にはランプをぶら下げている。
古めかしい真鍮の枠で覆われ、厚手のガラスで作られた火屋を持つランプ。
そのなかから光を放つのは、電球でも蝋燭でもなく、小さな三日月だ。
ぼくはこくりと小さく喉を鳴らし、その人へ話しかける。
「ここが……ヴンダーカンマーですか」
頷くのに合わせて、三日月が揺れる。ソーダ水に落とした鉱石みたいに。
「無事着いたようでよかった。立てる?」
ぼくを同年代と見たのか、親し気な口調で話しかけてくる。白衣のポケットに突っ込んでいた右手をこちらに差し出して、ぼくは立ち上がろうとそれを掴んだ。
びくり、と手が震えてしまったことに、この人は気づいてしまっただろうか。
皮膚の張りも、筋肉の撓りも、骨の固さも、人間のものとまったく変わらない。変わらないどころか、同一だ。ただそれがおそろしく冷たい。血の通わない温度。ヒトではなく、モノの冷たさ。
そうか。
ヒトではなく、モノ。
ヴンダーカンマーに選ばれるための、意思を持つ博物館を満足させるための、迂遠な努力が頭を過ぎる。ぼくはどうにかしてここへ辿り着かなくてはならず、そしてついにそのチャンスを掴んだ、使命を帯びた身だ。
ぼくが、今夜ここへ来た理由。
忌々しい
人と寸分違わない外見を持ち、言葉を解し、ひいてはモノとさえ意思を交わす、
それが今、目の前にある。
「初めて来た人には、色々と案内をしなくちゃいけないんだけど。でもきみには必要ないみたいだね」
あまりの精巧さに見惚れて、その人の言葉の意味を一瞬理解し損なった。
「ここのことは、よく知っているみたいだし」
はっとして視線を合わせたことを、ぼくはひどく後悔した。
表情も口調も変わらない。ただこちらを射抜く目だけが、凍るように青かった。
「先日は観測装置と数理模型をありがとう。検品はしたけど、展示室に持ち込むのはやめておくよ」
「……どうして」
引きつる喉から無理やり吐き出した言葉はひどく幼く響いて、その人は咎めるように片方の眉を吊り上げる。
「モノを侮っちゃいけないよ。わたしたちはきみが思っているよりずっとヒトのことがわかるんだ。特に野心にあふれているようなのはね」
いいかい、とその人は言葉を継ぐ。
「ヒトがモノを見るとき、モノもまたヒトを見ている。きみたちのところにあるコレクションもそうだよ。彼らはいつも見ている。
ぼくたちを糾弾するような物言いに、混乱した頭が次第に怒りに染まっていく。生まれたての星みたいに真っ白に発熱する。
「ぼくたちは正しいことをしているんだ。
ぼくはなおも言い募る。
「ぼくたちの使命は、分配のための蒐集だ。貴重なモノを、価値のある知識を、残らず集めて整理して、編纂して、体系付ける。そして、誰もが簡単にアクセスできる学芸のデータベースを作るんだ。すべての人のために。だから」
「それって」
その人は躊躇うことなく、ぼくの言葉を遮った。
「やっていることは
ぼくは再び、言葉の意味を理解し損ねる。
「うちにコレクションを寄贈してくれたヒトが教えてくれた。
「違う、ぼくたちは……!」
続く言葉は出てこなかった。
万人に学問と芸術を届ける。それを実現するための
その主張に疑いを抱いたことはなかった。人間が愚かなことを繰り返すのは、ひとえに知識が足りないから。ならばこの星に生きるすべての人に学問と芸術を届けよう。
たとえそれが残酷な行為であっても。
人間と区別がつかないほどの意識を持ち、思考し、言葉を話し、知性と理性でもって行動する究極の自動人形の手足を、小型爆弾で吹き飛ばすことであっても。
「ああそうそう、もうひとつだけ」
まっすぐにぼくの目を射抜いていた視線が、わずかに下へ逸れる。
「うちは危険物の持ち込みは禁止です。普通の博物館と同じようにね。だから、その隠し持っている物騒なものはわたしが預かるよ」
再び差し出された手は、どんなに観察してもやっぱり、人のそれだった。
ぼくは黙って、ポケットに押し込んだ小さな塊を取り出し、その手へ乗せる。青い瞳がしげしげとそれを眺め、そして驚いたことに、にっこりと笑った。
「よかったね、きみ。この爆弾に恨まれずに済んだよ。きみの立場が危うくなるのは困るけれど、それでもやっぱりモノを壊すのは嫌だってさ」
「ぼくの、立場?」
「変に聞こえるだろうけれど、この爆弾はきみのことを悪く思ってはいないよ。勉強熱心で賢くて、情熱にあふれた少年だって言ってる。まあ多少爆弾としての自覚が欠けてるかもしれないけど」
どうして。
どうしてそんなことが言えるんだ。
ぼくはただ、自分の使命のことしか考えていなかったのに。
ぼくはこの小さな凶器を、ただの道具としか思っていなかったのに。
「どうして、ぼくなんかを……」
だから言ったじゃん、とその人はまた笑う。瞳の青はいつしか、抜けるような雨上がりの空の色に変わっていた。
「モノはヒトをよく見ている。それにね、モノはヒトのことが大好きなんだよ。ヒトがモノを愛するのと同じようにね」
爆弾をポケットに放り込み、ふう、と大きく息を吐く。
「きみがヴンダーカンマーに呼ばれた理由がちょっとわかったよ。今こそ成長のとき、ってことなんだ。きっとね」
どこか独り言のようにそう呟いて、ぼくに近づいてくる。握ったままのぼくの手をそっと取った。
「だってさ、きみにも大事なモノがある。誰にも渡したくない、決して譲れない、魂の分身みたいなモノが」
強張った指が魔法のように開く。
氷の化石、騎士の剣。地球が作り上げた宝物。
ぼくの手の熱が伝わって、じんわりとあたたかい。
ぼくの、宝物。
「何かを心から大事に思うか。ここが問う資質はね、それだけなんだよ。どこに属していようが、何をしていようが関係ない」
石膏のように白い手が離れた。
「モノへの愛において、すべてのヒトは平等である。これはヴンダーカンマーのルールなんだ。きみがどんな野心を持っていても、モノを愛するヒトであるなら、わたしはきみを信じる。わたしは、モノを愛するきみを信じたい」
ちりん、と高く涼しい音が響く。ランプのなかで、三日月がひときわ輝く。
宣誓の声は強く澄んでいた。
「わたしは、モノとモノを愛するヒトたちを守る。この誓いに例外は存在しない。だから、わたしはきみを守る」
左手を掲げる。三日月はますます光を放ち、淡い暗闇を追いやる。
膨らんでいく光の輪に、固く閉ざされた扉が照らし出される。大理石と漆喰と漆塗りの、膨大なコレクションをその向こうに収める扉を。
「わたしは杜都。きみの名前は?」
「……
「良い名前だ。よろしくね、瀬記くん」
扉が動いた。床を震わせ、蝶番を軋ませて、ゆっくりと開いていく。
「ここは
そして、朗々と言葉がこだまする。
「ここは
扉の向こうは真の暗闇。
「そして、ここは
杜都さんはそこへ一歩、踏み込んだ。
まっすぐにぼくを見て、顔を綻ばせる。楽しそうに、嬉しそうに、幸せそうに。
ぼくは信じられるだろうか。モノへの愛を、モノからの愛を。そして、モノを愛する誰かへの、愛を。
今はまだわからない。でも、信じたい。
杜都さんが、この驚異の部屋が、ぼくを信じてくれたように。
「歓迎するよ。わたしたちの仲間、わたしの新しい友達」
ランプが揺れる。三日月がりんりんと鳴る。
それを合図に、暗闇が霧散した。次々に灯りが点る。展示室が姿を現す。
モノたちが、目を覚ます。
「ようこそ、ヴンダーカンマーへ!」
月浜定点観測所記録集 第一巻 此瀬 朔真 @konosesakuma
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