恋に凶器 紹介(という名のただの雑談)

新芽夏夜

恋に凶器 紹介(という名のただの雑談)

「月に弾丸」

紹介者:吉野桜、反町空見


「つまり『届かない』という意味なんだって」

「最初の仮タイトルは『銀の弾丸シルバー・ブレツト、私のハートを撃ち抜いて』だったらしいよ」

「そっちの方が恋愛小説っぽいのに。何で変えちゃったんだろ?」

「初掲載時の合同誌のテーマが『月』だったから、らしいけど」

「それでこれ? 逆に意味が分かりにくくなっていると思うんだけど」

「まあ、元のも銀の弾丸を撃っているのは吸血鬼の方だし、ちぐはぐなんだけどね」

「それで『カーミラ』って偽名を付けるなんて、皮肉なものね」

「でもこの人との出会いがきっかけで、澄は人外病に強い関心を持つようになって教員を目指すようになったんだって」

「私の薬を処方してくれている芹川先生も、同じだそうよ。この人がいなかったら、今の道には進んでいなかったって」

「そして私達も。ずっと誤解し合ったままだった」

「人は死んだら何も残らないって言うけれど、それは嘘ね。少なくともこの人は、二人分もの人生を変え、自分の生きた証を刻んだ。手の届かないところに行ってしまっても、痕は残っている」

「桜さんの中にも? 残っているの?」

「ええそうね。紛れもなく、私の人生の一ページに……複雑?」

「ううん。それが、今の桜さんなら」

「改めてよろしくね、空見ちゃん」


「雪にナイフ」

紹介者:狼河るう、玉簾珠琉


「つまり『切れない』という意味だそうですけど……」

「それは私達に対する嫌みかしら」

「いや、さすがにそれは時系列的にもないと思いますけど……」

「ともあれ、このシリーズは全作百合だそうだけど、二作目にしてヒロイン二人とも男性経験有りっていうのはどうなのかしら。それも一人は援助交際からの風俗店勤務、もう一人は未亡人ってニッチ過ぎるでしょう。看板に偽りありじゃない?」

「えっと……『この作品は作者の趣味一二〇パーセントで出来ています』だそうです」

「隙間産業なのね」

「あはは……」

「それで、作品紹介が私達の役目だそうだけど……要するにNTRからのNTR返しでしょ。しかも夫の遺影の前でって、どんな未亡人モノAVよ。それで逃げて追いかけさせて手中に入れるって、とんだプレイね」

「たまちゃん、一応私達まだ高校生だから……あんまりそういう事をあけすけに言うのはちょっと……」

「私達も負けていられないわね、るう?」

「お、お手柔らかにお願いします……」


「花に毒薬――レイン・リリー」「花に毒薬」

紹介者:千代十和、人魚(仮名)


「……って、つまりどういう意味?」

「ここからタイトルに意味を持たせることよりもその時のテーマと字面重視になったらしいよ」

「綺麗な花にもトゲがある、的な意味かしら」

「毒薬変じて薬となる、薬も過ぎれば毒となる、的な意味かもね」

「タイトルといえば、これみたいに副題があるのはスピンオフで、副題がないのが本編という法則らしいよ」

「えっ、じゃあ私達のも本編があるってこと?」

「一応構想としてはあるらしいね。それも、曽おばあちゃんじゃなくて私達がメインで」

「へー。ただ締めに困って意味有り気に会話文だけ出したその場限りの使い捨てじゃなかったんだ、私達」

「そんな裏事情聞きたくなかったよ……」

「じゃあ私の名前もその時にはちゃんと書かれるのね」

「えっ」

「えっ?」


「海に窒息――人魚の手紙」

紹介者:石蕗つづら、天生蓮歌


「つまり地上で息が出来ない人魚が海で窒息する、という矛盾を表しているそうだけど」

「そもそも人魚って肺呼吸? えら呼吸?」

「えー、どっちなんだろう? とりあえず人外病の型名は症状の特徴から分類されたものだから、あくまでも人間であることに変わりはないんだけどね。ステージⅣになるとまた違ってくるけど」

「そういう逃げ設定ね」

「こーら、滅多なこと言わないの」

「今のは滅多にメタを掛けているのよね?」

「恥ずかしいから解説するのやめてくれる⁉」

「作品紹介を他作品の登場人物がするっていう時点でもう今更だと思うけど」

「まあ、私達も含め、皆ろくに解説してないけどね」

「自分の話ばっかりね」


「鳥に檻籠」

紹介者:豊依清花、豊依咲耶


「安直ね」

「まあ、定番といえば定番だけど」

「初出の合同誌ではネタが丸被りしていたそうよ」

「そりゃそうなるわよ」

「それにしても『鳥』って大雑把すぎじゃない?」

「爬虫類も大概だと思うけど」

「ネタ切れでネタ被りって、酷いわね」

「この紹介もね」


「鏡に金槌」

紹介者:道行享子、鈴音澄


「そもそもタイトルの付け方が近年のトレンドから逆行しているのよね」

「じゃあ現役フリーライターの享子さんならどう付けます?」

「『身体は人外だけど、人並みに恋したいっ!』」

「これはこれで狂気を感じる……」

「『妹が可愛すぎて生きるのが辛い』」

「違う意味に聞こえる!」

「ところでさらっと私出てきてるけど、私がメインの話はあるの?」

「私達の馴れ初めはちゃんと考えてあるそうですよ?」

「それなら良かった」

「ただ……」

「ただ?」

「ちゃんと形にするかどうかは未定だそうです」

「はぁー⁉」





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