ノマ
いきなりの問題発言。
ダズマが十七年前に死んでいた?
「ダズマはトラン城にいたぞ? アンリと戦ってる」
『そのダズマは魔素で作られた人形です。ゴーレムのようなものですね。ノマの拠点にはその残骸がありました』
「いや、意思の疎通がちゃんとできていたぞ? ただのゴーレムならあんな受け答えはできないはずだ」
単に動作させるだけなら可能だが、ダズマはアンリと話をしていた。受け答えにおかしな点は無かったと思う。
『あれは思考プログラムが受け答えをしていただけです。思考プログラムには私と同じ疑似永久機関が使われていました。自分を本物のダズマだと思わせていたようです』
「そうなのか? そんなことが可能――そうか、機神ラリスの技術があれば可能か」
『正確には機神ラリスがダズマをそのように作ったようです。ノマと機神ラリスには契約があったようですので』
機神ラリスとの契約か。
「色々と知らないことが出てくるな。よし、まずは全部聞こう。質問はしないから判明していることを教えてもらえるか?」
『分りました。どうやら料理も届いたようですので、まずは食事をしてからですね』
机の上に料理が並ぶ。おそらく転移されたのだろう。気になることは多いが、まずは食事をしてからだ。
食後にアビスの話を聞いた。
暴走後、ダズマ、そしてノマの探索を行ったところ、城の東にあるちょっとした丘にノマの隠れ家と思われる場所があったらしい。そこで、ダズマとノマの死体を見つけた。死体とは言っても二人とも魔素の体であるため、機能が停止した状態で見つかったということだ。
隠れ家をアビスが調査するとノマの日記が見つかった。そこには主にラーファの事が書かれていたそうだ。
ダズマは生まれた時から体に疾患があった。ラーファはその診断、治療のために当時名医と言われていたノマに接触してきたらしい。そして診断の結果、臓器を移植するという方法であれば治せるかもしれないと言ったそうだ。
ただ、臓器は誰でもいいわけではなく、適合者は限られる。もっとも可能性が高いのは血縁だった。それに年齢が近い方がいい。実際に検査したわけではないが、アンリがその適合者になれる可能性が最も高かったそうだ。
ラーファは決意する。ダズマのためにアンリを殺し、臓器を奪おうとした。だが、暗殺に失敗。しかもアンリを守ったマユラを殺してしまった。そして村長達はアンリを連れてトラン国から逃げた。
ラーファの暗殺は当時のトラン王にバレた。トラン王から母子共々処刑すると言われたらしい。ラーファは自分だけならともかくダズマを死なせるわけにはいかないと、逆にトラン王を殺した。
その後、トラン国の王はダズマとなり、ラーファは摂政となった。だが、国よりもダズマの命が大事であるラーファは、執拗にアンリを捕らえてくるように命令を出す。
しかし、ついにはアンリを捕らえることができずに、ダズマはこの世を去った。
残されたラーファはそれを認めることがでず、狂ってしまったらしい。
哀れに思ったノマはダズマの代わりになる人形を用意することにした。タダの人形ではなく、成長し、考え、ラーファの期待通りに動く人形。それには神の力が必要だと考え、自分が第三世代の生き残りだと説明して、機神ラリスに謁見を求めた。
ノマは謁見を許されたが、当然、そんなことに興味がない機神ラリスは願いを一蹴した。だが、ノマは知っていた。エデンは魔族の侵攻がなく楽園計画が破たんしようとしていることを。
ノマは取引をした。ダズマをトラン国の新しい王にして、より多くの戦争を起こし、人族を減らすと。
本来、楽園計画は人族同士が戦わないようにする目的もあるが、一時的にならそれもやむを得ないと、機神ラリスは了承したらしい。そして機神ラリスはダズマを作った。成長する魔素の体、それに疑似永久機関の思考プログラムにダズマ本人だと思わせる対処、すべて機神ラリスがやったらしい。
ノマはその作られたダズマをラーファに見せた。神の力により蘇ったとそう伝えた。
だが、ラーファはその子はダズマではないと一目で見破る。ただ、そのダズマを見て精神が安定したらしい。それに別の計画を思い付いた。
ダズマは一歳にもなれずにこの世を去った。ごく一部の人にしか知られることなく死んでいったダズマを、誰もが知っている名にしてやろうとラーファは考えた。
それは人界征服。人界で最初の統一王としてダズマの名を残す。それがラーファの目的になる。
「壮絶だな」
『はい。また日記にはその後の事も書かれていました。トラン国で魔法を使わせなかったのは、本物のダズマが死んでいることを図書館の情報に書かれないようにするためだったようです』
「そんなことが可能なのか?」
『ノマがかなり気を使ったようですね。図書館を見ましたが、ダズマが亡くなっていると言う情報はありませんでした』
……ちょっと気になるな。理論的には可能なのかもしれないが、そんな事のために国全体で魔法を禁止にさせるか?
魔眼や神眼を持つ人は稀だがいる。だが、本当に稀だ。よほどの事がない限りダズマの情報を深く見ようとするとは思えない。そこまでする必要があったのだろうか。いや、まあいいか。それは後で考えよう。
「えっと、まだ話に続きはあるか?」
『はい。機神ラリスの件です。機神ラリスは十三年前に停止していました』
「十三年前か」
私と魔王様が管理者達を止めていた頃だ。まさかとは思うけど、それが原因になってないよな?
『信じがたいのですが、ノマが機神ラリスを止めました。どうやら機神ラリスに創造主を殺した事を咎めたようです。親殺しは大罪だと』
「それは確かに大罪だ。だが、管理者に通じるものなのか?」
『罪としては通用しないと思います。ですが、矛盾を突かれて混乱したようですね』
「矛盾?」
『創造主を殺す理由を論破されたようです。機神ラリスは楽園計画の妨害になる創造主を殺した。しかし、妨害の根拠となる情報が間違っている。それをノマに指摘されて混乱した隙を突かれたようですね。強引に主要な装置を壊したようです』
ノマって一体何者なんだ? 本当にタダの生き残りなのだろうか?
それに情報が間違っているとの指摘ができるのは何でだ? それは管理者よりも情報を知っていると言う事になる。楽園計画の事も知っていたようだし、タダの生き残りがそんなことをできるのだろうか。
『機神ラリスが停止した後は、その技術を奪い、本格的に人界征服に乗り出そうとしてたようです。ただ、問題が起きました』
「問題?」
『はい、アンリ様が生きているという情報がトラン国に伝わったのです。ラーファは酷く怯えたそうですね。神に選ばれた者がやってくると』
「……そうか」
ラーファは一体どういう気持ちだったのだろう。
自分の息子のためにアンリを殺そうとしたのは許せない。だが、普段からアンリの母に劣等感を抱いていた上に、息子を治すためにはアンリの臓器が必要になる。同じ状況なら誰だって同じことをするんじゃないのか?
同情するつもりじゃないのだが、なんとなくやりきれない感じはする。自分ではどうすることもできない理不尽、か。夢の中の私がそんなことを言ってたな。
『その後、トラン国はアンリ様を恐れて外部との接触を断ちます。その後十年ぐらいは今の形にするための対応をしていたようですね。それも終わってから改めてアンリ様の暗殺をしようとしたようです』
国民全員をダンジョンに入れるという対応か。ゴーレム兵やダズマを動かすための魔力を作り出すためにそこまでするとはな。
『話は以上になります。他にも色々と調べていますが、おそらく新しい情報はでないでしょう』
「そうか。なら質問していいか?」
『はい、どうぞ』
「ノマは何で死んだ?」
『自害した理由ですか? おそらく逃げられないと思ったのではないでしょうか?』
そうだろうか。確かにノマは罪に問われるような事をしていただろう。だが、機神ラリスを止めることができるほどの奴が自害するだろうか?
「次の質問だが、ダズマの墓をどうやって見つけた?」
『それはノマの日記に書かれていました。書かれていた場所に墓があったのを確認しています』
「墓の下に遺体はあったか?」
『え? さすがにそこまでは調べていません。私は何とも思いませんが、人族はそう言うのを気にされるのでは? それにゾンビ化を防ぐためにどの国も火葬です。あっても灰ですよ?』
本当にダズマは亡くなったのだろうか。日記に書かれた内容と墓だけで結論付けるのは良くないと思うのだが。それにどれもこれも証拠がない。日記による証言だけだ。
『何か気になる点でもあるのですか?』
「なにか見落としている気がする。そもそも、なんでアビスはノマの日記を鵜呑みにしている?」
『特に矛盾がないからですね。それにダズマの疾患についてはジェイ達の証言もあります』
ジェイ……? そうか、疾患の事はジェイに聞いていたっけ。そう言えばジェイの奴は……。
「ジェイとレオはどこにいる?」
『これからは冒険者として生きるらしいです。他のインテリジェンス系アイテム達と一緒に旅に出ました。ああ、大丈夫ですよ。トラン国に敵対しないという誓約魔法を使いましたから、今後、敵になることはないでしょう』
「どこへ向かうか言っていたか?」
『いえ、ですが、ロモンへ行く船に乗ったようですね。ヴィロー商会のおかげで海路も復活しましたので』
「それはいつだ?」
『フェル様が一度目を覚まされた頃ですね』
三週間前か……ならもう到着している可能性が高い。行って確認してみるか。
「カブトムシを呼んでくれ。ちょっと出かけたい」
『今からですか? その、体は大丈夫なのですか? そもそもどちらへ?』
「リーンだ。もしかしたら、そこにノマがいるかもしれない」
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