出し物と料理

 

 精霊の言葉は絶対の様で、あの後、普通に五回宣誓した。そして五回キスした。


 村の皆は盛り上がってたけど、ヤジが酷かった。最後は皆で「爆発しろ」と言ってた気がする。あれも一種の祝福らしいから大丈夫だとは思うけど。


 でも薬指に六個の指輪を付けるのってタダの嫌がらせだよな。六個目なんかいつ指から落ちてもおかしくなかった。


 見かねた精霊が六個の指輪をまとめて一個にしたので事なきを得た。全属性耐性スキルが付いた伝説級のアイテムになっていたけど、いいのだろうか。


 宣誓の言葉が終わっても、なぜか精霊達は帰らなかった。リエルがもう帰れ、と言ったが、まだやることがあるからこのまま参加する、と言って、ステージを降り、皆に紛れて座り込んだ。精霊が宣誓以外で結婚式に居座ると言うのは、歴史上初めてじゃないかと、皆がざわついてたようだけど、放っておこう。多分、悪い事じゃない。


 色々あったが、これでヴァイアとノストは夫婦だ。


 詳しくは知らないが、出会って数ヶ月で結婚というのは、かなり早く、珍しいそうだ。お互いの相性が良かったんじゃない、とディアが言ってたけど、確かに似合いの二人であるような気はする。精霊の言葉じゃないが、末永く幸せになって貰いたい。


 誓いの言葉も終わり、次からは出し物の部だ。皆でお祝いの歌やら踊りやら芸をするわけだな。


 私はやらないが、ジョゼフィーヌ達も何かするとか言っていた。大丈夫だろうか。果てしなく不安だ。


 そんな不安をよそに、ヤトやメノウ達がテーブルに料理を配置していった。


 ヴィロー商会やエルフのミトル達、それにドラゴニュートのムクイ達が用意した食材。それをニアが調理した料理が次々と並ぶ。初めて見る料理もいっぱいあるな。これは私への挑戦と見た。


 村長がステージに上がり、これから出し物をする旨を宣言した。


 最初の出し物は――村長とミトル達だ。どうやら楽器で演奏するようだな。最初にしては無難だ。


 村長がトランペット、ミトル達はヴァイオリンとかハープとかいう楽器だっただろうか。それで音楽を奏でている。


 うん、悪くない。芸術には明るくないが、落ち着いた感じのいい曲だ。


 よし、今のうちに料理を食べよう。私には料理を制覇するという使命がある。


 まずはサラダ関係だな。トマト、サラダ、キュウリ……色々な物が切っておかれているだけだ。なるほど、自分で食べるものを選び、創作しろということか。


 答えは一つ、全盛りだ。食べない物があるわけない。ただ、ドレッシングにはこだわろう。今日の気分はなにかな……決めた、青じそドレッシングだ。青じその香りがいい。さっぱりした感じがベスト。今日の戦いは長い。まずは軽くジャブ。


 お皿に野菜を一つ一つ盛っていたら、アンリ達がやってきた。


「無事に仕事をこなしたようだな。なかなかの妖精っぷりだったぞ」


「お世辞はいらない。今日のアンリはヴァイア姉ちゃんの引き立て役にしかならなかった。あれはずるい。妖精女王の化身とも言えるアンリでもひれ伏す感じ。でも、アンリにはまだ第二形態が残ってる。負けたわけじゃない」


「今日は負けでいいんだよ。主役はヴァイアだ。準主役のノストだって引き立て役の一人にすぎないんだぞ?」


 ちょっとしょんぼりしているアンリから視線を移し、スザンナとクルを見た。スザンナは髪の毛と同じような薄い青のドレス、クルは白と黒が基調のドレスを着ていた。オールバックだった髪も下ろして、普通になっている。


 どっちもすらっとした感じのドレスだ。二人にはちょっと早いような気もする。可愛らしいよりも、大人っぽい感じがテーマなのだろうか。


「スザンナとクルも着替えたようだな。悪くないが、ちょっと背伸びした感じか? アンリみたいな可愛らしい服でもいいと思うんだが」


「私もクルも十五歳になってないけど、冒険者ギルドに所属している大人だからね。シックで大人の雰囲気を出すのは当然の事ってディアちゃんが言ってた。動きやすいしこれはこれでいい」


「うん、デザインよりも機能性重視だね。魔物に襲われてもこれなら何とか戦えるから」


「ドレス着て戦うってどんなシチュエーションなんだ?」


 大狼のナガルはまた修行の旅に出てしまったし、ロスは遺跡の調査で村を離れているが、狼達が今日も森の警戒にあたっている。もし野良の魔物が暴れたら秘密裏に始末するから連絡をするようには伝えてあるが、私が倒さなきゃいけないほどの魔物はいないと思う。仮にいたとしても、今日この日だけはどんな奴にも邪魔はさせない。


 いつの間にか村長達の音楽演奏が終わっていた。拍手がうるさいくらいに巻き起こっている。確かに良かった。


 どうやら次の出し物までちょっと時間が空くようだな。また何か食べないと。


 食べたことがない料理を優先的に皿へ盛りつけていく。このギョーザって美味いな。ハルマキと言うのも捨てがたい。


 同じようにアンリ達も料理を食べ始めた。美味しそうに頬張っている。


「そういえば、アンリ達はまたバックダンサーとして踊るのか?」


 そう聞くと、アンリとスザンナは暗い顔をした。


「アンリとスザンナ姉ちゃんはお役御免。ヤト姉ちゃんもメノウ姉ちゃんも別のバックダンサーを雇った。アンリは都合のいい女だったと言うこと」


「ニャントリオンもゴスロリメイズも正規メンバーがそろったみたい。これが派遣メンバーの辛いところ」


「派遣だったのか」


 もしかして、ニャントリオンは獣人だけで構成するのかな。でも、アイツらを連れて来たのは三日前だぞ? 練習する暇なんてなかったと思うが。


 ゴスロリメイズはあれだな、ハインとヘルメ。あの二人がバックダンサーなのだろう。ウロボロスの宴でも踊ってたし。


 でも、まだ一人残ってる。


「ならウェンディのバックダンサーをやったらどうだ?」


 アンリがため息をついて、首を横に振った。


「ウェンディ姉ちゃんにもバックダンサーがいる。アンリ達の出る幕はない」


「初耳だ。誰が踊るんだ?」


 いつの間にそんなメンバーをそろえたのだろうか。


「名前は知らないけど、あの人達。登場でインパクトを与えてくるとは侮れない。生まれながらにしてのエンターテイナー」


 アンリが指す方向を見る。


「精霊じゃないか……え? アイツらがウェンディのバックダンサーをするのか?」


「うん。お友達って言ってた」


「結婚のありがたみが薄れないか? なんかこう、精霊が俗っぽくて」


 精霊って厳かと言うか神秘的というかそんなイメージなんだけど。


「それは逆。結婚式の出し物で精霊が踊ってくれたなんて、王族でもないと思う。ヴァイア姉ちゃんは歴史に名を残した。対抗してアンリが結婚する時は魔王に踊って貰う」


「私は踊らないぞ――いや、私はもう魔王じゃなかった。まあ、その時の魔王に頼めば踊ってくれるかもな」


 オリスアがどれくらい魔王をやれるかは分からないし、アンリがいつ頃結婚するのかも分からない。おそらく次の魔王あたりならちょうどアンリが結婚する頃だと思う。


「そうだった。間違い。アンリの時は魔神に踊って貰う。これは決定事項。リンゴ五個でお願いします」


「安すぎる。というか私が魔神になったって誰から聞いた?」


「アンリの情報網を甘く見ないで欲しい。それに赤ちゃんの事も学んだ。コウノトリはフェイク。本当は桃から生まれる。盲点だった」


 桃から生まれるって前にお土産で渡した本の内容だと思う。まあ、それでいいか。説明したくないし。


 魔神の方はおそらくジョゼフィーヌだな。昨日、魔物達をつれて帰って来てたからそこから情報を得たのだろう。口止めするのを忘れてた。


 アンリの結婚式か。予想もできないが、少なくとも私が踊ることはない。おっと、そもそも私の踊りなんかどうでもいいんだ。


「話を戻すが、アンリ達がバックダンサーをしないのは分かった。だったらクルを入れて、三人で新しいチームを組めばいいんじゃないか?」


 アンリとスザンナは「その手があった」という顔をしたが、クルだけは首を横に振った。


「私、踊れないよ。そもそも踊ったことないし」


「クル姉ちゃん、大丈夫。踊りは心。考えない、感じるだけ。昔の偉い人はそう言ってる」


「ちょっと何言ってるか分かんない……え、ちょ、どこ行くの? もしかして練習? これから?」


「うん、ちょっとだけ練習して出し物の最後にねじ込んでもらう。大丈夫、クル姉ちゃんは初々しい所を見せれば受けがいい。後はアンリとスザンナ姉ちゃんがフォローする」


「任せて。最悪、魔法水を使ってクルを操るから。自動操縦できる」


「最初から魔法水を使えばいいんじゃないかな!?」


 クルがアンリとスザンナに連行されていった。まあ、完璧にやるよりもちょっとくらい間違った方が受けはいいよな。


 でも、料理食べなくていいのだろうか。私はまだ本気を出してないんだけど。


 本気を出しているのはゾルデ達ドワーフと、ムクイ達ドラゴニュート、それに獣人達か。まあ、どっちも酒と肉しか口にしてないからそんなに脅威ではない。


 それに私は酒を飲まないし、肉はかなりの量がある。私が口にするまでに無くなると言うことはないだろう。


 一応、他の戦力も調べておくか。


 村の皆やノストの家族、リーンから来た兵士達はどちらかというと酒だな。料理はまんべんなく食べている感じだが減りは少ない。敵じゃないな。


 ヴィロー商会のローシャとラスナは、貴族であるクロウに話し掛けてるな。顔見知りになっておきたいと言ったところか。食事よりもそういう営業を優先しているのだろう。戦力外だ。


 エルフのミトル達はパンと野菜、そしてお酒はワインが多そうだ。肉はミトルが食べているぐらい。これも脅威ではない。


 従魔達は見かけないな。出し物をするからその準備をしているのかも。


 なるほど、敵はいないと言うことか。なら食い尽くさない程度に食べよう。まずは一度全部網羅してから二週目を開始だ。ループって言葉は素敵だな。

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