魔素暴走
村の広場に従魔達が集まった。
ヤト、ジョゼフィーヌ、シャルロット、カブトムシ、アラクネの五名だ。
ロスになにかあったかもしれないので、弱い者は連れて行けない。なので、このメンバーを選出したとジョゼフィーヌは言っていた。この村の最高戦力だから問題ないだろう。
残りの従魔達はスライムちゃんのマリーをリーダーにして村の防衛を行うことになった。
そんなただならない雰囲気を察したのだろう。村長が広場にやって来た。
「フェルさん、どうかされたのですか?」
「ロスが森で変な集団を見つけたのだが、直後に念話のチャンネルが切れたらしい。トラブルがあった可能性が高いので、その場所へ行ってみる。村を従魔達に守らせるが、皆も一応警戒してくれ」
「そうでしたか。分かりました。村の皆には伝えておきます。フェルさんもお気をつけて」
村長に頷く。そしてジョゼフィーヌの方を見た。
「ロスが最後にいたのはどのあたりだ?」
「ここから南西に二時間程度の場所です」
結構遠いな。よし、早めに行こう。もしかしたらロスが危ないかもしれないからな。
従魔達へ「行くぞ」と号令をかけ、村を出た。
森の中を疾走する。舗装されている道があるので、走るのはそれほど苦でない。
カブトムシは上空から、アラクネは木を伝って、ジョゼフィーヌとシャルロットは低空飛行で、私とヤトの後についてきている。従魔達も移動は苦じゃないようだ。
走りながら周囲を見渡す。普段と変わらない森のようだが、油断はできない。状況は分からないが、レモとロスが連絡できなくなる程だ。慎重にいかないと。
「ヤト、アビスにいる獣人達は、この状況を何か知っていたか?」
ヤトは私の横を走っている。聞いてからそちらを見ると、ヤトは首を横に振った。
「聞きましたが、なにも知らない様ですニャ。そもそも獣人がなぜこの森に来たのかも分かってないみたいですニャ」
確かにその通りだ。もしルハラで解放されたなら、そのままウゲン共和国へ行くはず。境界の森は逆方向。こっちに来るわけがない。それにディーンなら、ちゃんと国まで送る様に指示を出すと思う。
「どういう状況か分からないというのは不安だな。それにロスのことも心配だ。何もなければいいんだが」
「フェル様、レモ様の魔剣で暴走しているという可能性はありませんか?」
ジョゼフィーヌが後方からそんな事を言い出した。
レモの魔剣か。確かにあの魔剣は使用者を暴走させる。
でも、レモがそんなミスをするかな? それに暴走状態ならゾンビみたいにフラフラしない。目につく物を片っ端から破壊する感じになるはずだ。
あと魔剣が暴走していたとしても、獣人達がいることの説明にならない。
「可能性はゼロじゃないが、おそらく魔剣の暴走ではないと思う。暴走しているなら獣人達の命がないだろうからな」
「確かにそうですね。失礼しました」
「いや、意見は大事だ。助かる」
もしかしたら別の魔剣を持ってきていたのかもしれないから、その可能性も考慮しておこう。
二時間ほど経過して、現場と思われる場所へ着いた。
「ロスが最後に連絡してきたのはこの辺りか?」
「はい。念話時に座標も送ってきましたので、ここで間違いありません」
座標をどうやって連絡しているのか分からないが、確かに何者かの足跡があるし、間違いないだろう。だが、ここは本来の道からかなり南に離れている。こんなところでレモや獣人達は何をしていたのだろうか。
「フェル様、ここから東に二キロ程の場所にロス達と思われる集団がいるニャ。多分、レモ様と獣人達も一緒ニャ」
ヤトが探索魔法を使ったのだろう。大体の場所を把握したようだ。でも、一緒にいる?
「戦闘しているという事か?」
「そんな感じじゃないニャ。一緒に東へ向かって歩いている感じニャ。でも、すごく鈍いニャ」
一緒に歩いている? もしかして、ロスが獣人達を保護しながら村へ連れて行こうとしているのだろうか。
いや、待て。それなら道を通るはず。道じゃない場所を歩く必要はない。
「ヤト、先導してくれ。追いかけよう。ただ、注意しろ。なんとなく不気味だ」
考えても答えなんかでない。なら行動あるのみ。
「分かりましたニャ」
そう言ってヤトが走り出した。遅れないようにヤトをついて行こう。
数分でレモ達に追いついた。
ここは木がかなり生い茂っている場所だから、昼間なのに薄暗い。でも夜目のおかげか、ちゃんと見ることができるレベルだ。
木々が邪魔で見づらいが、禍々しい感じの大剣を背中に担ぎ、同じように禍々しい鎧を身につけた、頭に角のある女性がいた。間違いない、あれはレモだ。それにロスと数体の狼がいる。ロスと一緒に森を巡回していた狼だろう。
獣人達も報告があった通り十人いた。
レモ達は私達には気づかずに、ずっと東の方へ歩いている。でも、歩き方は随分とフラフラしているし、木にぶつかったり、転んだりしている。なんだあれ?
ヤトが音を立てずに私の横へ立った。
「どうしますかニャ? 声を掛けますかニャ?」
それしかないだろうな。なんとなく怪しいけど、ただ見ていても仕方がない。
「ヤト、すまないがアイツ等に話しかけてもらえるか。危険だと思ったらすぐ逃げてくれ」
ヤトは頷くと、レモがいる集団へ近づいた。
「レモ様。ヤトですニャ。こんなところで何されているのですかニャ?」
ヤトがレモに話しかけると、フラフラしていた全員がピタリと止まる。そして全員が一斉にヤトの方へ振り向いた。
「ニャ!?」
あれは怖い。無表情と言うかなんというか、全員が生気を感じさせない目でヤトを見ている。
そして「あー」とか「うー」とか言いながらヤトに襲い掛かった。歩いていた時とはまるで違う機敏な動きだ。
「ヤト! 逃げろ!」
言うや否やヤトは影移動で影に潜った。それはいいのだが、私が大きな声をだしたので、レモ達がこちらを一斉に見た。
そして全員がこちらに向かってゆっくりと歩き出す。なんてホラー。怖すぎる。
そんな中、レモが背中の剣を両手で構えた。
「あー! フェル様じゃないですか! 助けて! なんかレモ様がおかしいんです!」
なんだ? 誰が言った? 周囲を見渡したが、レモ達以外はいない。従魔達は空を飛んだり、木に登ったりしていて近くにはいないんだが。
「俺ですよ! 俺! 以前、フェル様に叩き折られそうになったじゃないですか! それに名前を付けてくれたでしょ!」
叩き折る? 名前を付けた? あ、もしかして。
「タンタンか?」
「そうです! タンタンです! 俺の主人であるレモ様が変なんです! 助けて!」
レモの持つ剣。魔剣タンタン。インテリジェンスソードとか言う意思を持った剣だ。レモが剣を構えたから、喋れるようになったのだろう。
「念のため聞くが、お前がやってるんじゃないよな?」
タンタンは使用者の精神を乗っ取り暴走させる魔剣だ。もしかしたら、ジョゼフィーヌが言うように、この状況はタンタンがやっている可能性がある。助けを求めるのも演技かもしれない。
「そんな事しませんよ! コイツら仲間を増やすだけでスプラッタな事はしないんです! フェル様なら知ってるでしょ! 俺は血とか大好きなんです!」
嫌な証明の仕方だが、確かにそうだな。タンタンが暴れていたらこんな程度では済まない気がする。でも、仲間を増やす? コイツらは一体何をしてるんだ?
よし、魔眼でみよう。状態をみるだけなら頭痛はしないからな。
……魔素暴走? なんの状態だろう? 初めて見る。しかも全員、同じ状態だ。
でも、どうすれば治るんだ? とりあえず殴るか?
「あ、フェル様。ソイツらに噛まれたりすると同じようになるんで注意してください」
「それを先に言えよ」
かなり距離を詰められていたので、転移して木の上に逃げる。そこから下を見るとレモ達は私を見失ったためか、キョロキョロしている。
何となく状況は分かった。おそらくレモやロスは獣人達に噛まれたんだろう。そしてゾンビみたいになった。ただ、ゾンビっぽいだけで、死んではいないようだ。
どうしたものかな。噛まれる前に殴り倒して気絶させることはできると思う。獣人や狼達はそれで問題ない。
だが、レモとロスに関しては厳しそうだ。対策を考えないといけないな。
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