ドラゴニュートと勉強
「アラクネ、すまないがムクイを食べないでくれないか? ドラゴニュート達の次期族長らしくてな。死んだりすると大変な事になる」
「フェル様は私を何だと思ってるクモ? 大体、どこをどう見たら食べようとしている風に見えるクモ?」
アラクネはクモだと思っている。どこからどうみても、捕縛した側とされた側に見えるんだが。なんかこう、テイクアウト的な感じで。
「アラクネさんと模擬戦をしてもらったんだ。ここにいる魔物達の強さを知りたくてな」
背後から声が聞こえたので振り向くと、パトルとウィッシュがいた。アラクネの糸でぐるぐる巻きにされて。
「三人がかりで負けたのか?」
「情けない話だがその通りだ。自分は強いと思っていたんだが、身内だけの話だったんだな。外界は恐ろしいところだ」
「手も足も出ないとはこの事ね。完膚なきまでに倒されたわ」
私の従魔達が強いだけでドラゴニュート達が弱いわけじゃないんだけどな。
「私なんかまだまだクモ。早く進化したいクモ」
進化か……そうだ、一応伝えておくか。
「ドラゴニュートの村で大狼にあったぞ」
「元気そうだったクモ?」
「ああ、元気そうだった。山にいるという古代竜に会いに行くとか言っていた。進化の方法を知ってるかもしれないとかなんとか」
「長命の種族に聞くというのは確かにアリかも知れないクモ……私は地道に進化の道を探すクモ。それにディア様に本格的に服作りを教わるから忙しいクモ」
魔物として色々間違っているような気もするけど、やりたいことがあるならそれをやるべきだろうな。
「それじゃ私は帰るクモ。次はミノタウロスかオーク達と勝負するといいクモ。魔物ランキング的にそれくらいクモ」
アラクネは右手を軽く上げたあと、この場を離れて行った。アイツも普段何しているのか分からんな。それに魔物ランキングってなんだ? まあいいか、今はムクイ達のことだ。
「ムクイ、この村はどうだ? 一日程度じゃ分からんかも知れないが、やっていけそうか?」
「もちろん! 昨日の宴で村の奴らと色々話をして、意気投合したんだぜ? 美味い物を食べてステージの出し物を見て、楽しかったなー」
ムクイは昨日の事を思い出すような感じになっている。そんなに楽しかったのか。
確かに昨日、ムクイ達は村の皆と話をしていた。笑っているかどうかは分からなかったけど、雰囲気は楽し気だったな。
「それにここにいる魔物達が強いから気に入ったぜ! いつでも模擬戦ができるって最高だよ! それに、ダンジョン内なら怪我しても大丈夫らしいからな!」
そういえばアビスがそんな事を言っていた気がする。アビスの中で死ぬことはないとかなんとか。理由は分からないけど、なんかそういう事ができるんだろう。
ムクイとしては好感触といったところか。他の二人はどうだろう?
「パトルはどうだ?」
「やっていけると思う。私達の姿を見ても驚かないし、気さくに話しかけてくれるからな。あとは私達にできるような仕事があれば問題ないだろう。それは今日、探してみるつもりだ」
なるほど、仕事か。それなら狩りの仕事かな? でもあれはオーク達がやっている。戦力的には十分だからムクイ達もやるとなると多くなりすぎるかもしれない。その辺りは私じゃ分からないな。
「ドラゴニュート達なら狩りが仕事になりそうだけど、色々ルールがあるかもしれないから村の狩人に聞いてみてくれ。今日はもう狩りに行ってしまったかもしれないがな」
「分かった。後で聞いてみる。色々とすまないな」
「私が連れてきたんだから、ある程度の面倒を見るのは当然だ。それじゃ、ウィッシュの方はどうだ? やっていけそうか?」
「もちろんよ。美味しい料理に美味しいお酒。もう私、ここに永住する」
ルネみたいなことを言っている。もうすこし真面目なタイプだと思ったんだが。
「あ、ずりーよ! 俺も俺も!」
ムクイがウィッシュの言葉に便乗した。気持ちは分かる。でも、お前は次期族長だよな?
「永住とはいかなくても、この村とドラゴニュートの村を行き来できるようにすればいいんじゃないか? 多分、この村から北の方へ行けば村まで行けると思うぞ?」
道はないだろうけど、大狼が行けたんだ。ムクイ達でもそれほど苦にならないと思う。
「それはいいわね! バジリスクの肉とか人気があったみたいだし、それを持って来れば他の食べ物と交換してくれるかも」
「うむ、一度そういうルートを開拓してみるのも悪くないな。途中にいるラミアやリザードマン達とも交流が増えるかもしれん」
色々考えているようだ。私としては村でちゃんとやっていけるかどうかが気になっただけだから、これ以上は確認しなくてもいいか。
「大丈夫だというのが分かったから私は戻る。何をするのも構わないが、やる前に誰かに相談しろよ。あと、村に関わることなら村長に許可を取るんだぞ?」
「ああ、もちろんだ。勝手なことはしないから安心してくれ」
「分かった。信じる。それじゃあな」
よし、アビスに連絡して外に出してもらおう。
「すまない、ちょっと待ってくれ」
「どうかしたか?」
「アラクネの糸を切ってくれないか? 三人とも動けないんだ」
そうだった。青虫みたくなっているムクイ達を解放してやらないと。倒れていてもワニっぽいから違和感がなかった。
ムクイ達を助けてからアビスの外に出た。
昼食にはまだ早い。なら村長の家に行ってウゲン共和国の事を聞いてみるか。村長は色々と博識だからな。行ったことは無いだろうけど、情報は持っている気がする。
村の広場に戻って来てから、ふと思った。ヴァイアの店から直接村長の家に行った方が良かったかもしれない。余計な手間を掛けてしまった気がする。まあいいか。今日は意外と暇になりそうだから時間はたっぷりある。
「たのもー」
村長の家へ足を踏み入れる。テーブルに村長とアンリとスザンナが座っていた。アンリとスザンナが並んで座り、その対面に村長がいる。どうやら勉強中のようだな。
「アンリ、救援が来た。私達は助かる」
「スザンナ姉ちゃんは甘い。ここはまだ敵国。包囲網を逃げ出すまで安心しちゃダメ」
「お前達は何を言ってるんだ」
「フェルさん。どうされました? もしかしてフェルさんも勉強されたいのですかな?」
アンリとスザンナが期待した目で私を見ている。私が勉強をすると言ったところで何も変わらないと思うんだが。それに勉強を邪魔するつもりもない。
「村長にウゲン共和国の事を聞きたいと思ったんだが、勉強をしているなら後にする。邪魔したな」
「待って。フェル姉ちゃん、見捨てないで」
「子供が助けを求めてる。冒険者なら助けるべき」
「状況的に見捨てても問題ないと思うぞ」
とはいえ、なんとなく助けてやりたい気もする。でも、勉強はしておいた方がいいよな。どうしたものか。
村長の方を見たら、村長は笑顔で頷いた。
「アンリ、スザンナ君。算数はここまでにして、次はフェルさんと一緒にウゲン共和国の歴史を勉強することにしよう」
二人が笑顔でバンザイをしている。そんなに嬉しいのか。勉強が算数から歴史に変わっただけなんだけど。
「フェル姉ちゃんはここに座って」
アンリが椅子から降りて私に勧めてきた。なるほど、私の膝に座る気か。まあ、いつもの事だな。
椅子に座るとすぐさまアンリが私の膝に座った。そしてスザンナは離れていた椅子を隣にくっつけて、私の体に寄りかかる様にしている。子供って体温が高いから暑いんだけど。
村長はそんな私を見て微笑んでいる。
「フェルさんは相変わらず子供達に好かれていますな」
「もう少し大人になって貰いたいものだ」
「フェル姉ちゃんの質感は最高。くせになる」
「うん、魔性の女」
「だれが魔性の女だ。そもそも、そういう単語をどこで覚えてくるんだ? 教育に悪いから教えた奴を殴ってやる」
……午後にディアとリエルを殴ることが決まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます