第十一章
今後の予定
「ごふっ」
急に腹に衝撃を受けた。上半身を起こして周囲を見渡す。一体、何があった?
あれ? ここは私の部屋か? そうか、寝てたんだな。でも、なんだったんだ、今の衝撃は?
腹部を見ると、アンリとスザンナが私の腹に頭を乗せていた。そう言えば、昨日、宴の後、一緒に寝たな。遅くまで王都の話をしてやった。
もしかして腹の痛みはコイツらか? 寝相が悪いのはリエルだけでいいのだが。
随分と部屋は明るくなっている。窓の方を見ると、日が差し込んでいた。もう朝だろう。ならとっとと起こさないと。
「二人とも起きろ。いい天気だぞ」
二人の体をゆすると少しぼーっとしているようだが、少し目を擦ったら目を覚ましてくれたようだ。
「おはよう、フェル姉ちゃん」
「おはよう、フェルちゃん」
「ああ、おはよう。起きたなら私の腹から退いてくれ。あと、お前達は寝相を良くしろ。ものすごく腹が痛かった」
「フェル姉ちゃんは食べ過ぎ」
「そういう因果関係じゃない。お前らが寝ている時に私の腹を攻撃したんだよ」
二人とも首を傾げているけど、分かってないのか? ……まあいいか。
「私はシャワーを浴びてから行く。先に食堂に行っててくれ。奢ってやるから注文して食べてていいぞ」
「うん、朝食は大事。スザンナ姉ちゃん、先に行ってよう」
スザンナは頷くとアンリと一緒に部屋を出て行った。それを見送ったあと、部屋に鍵をかけてシャワーを浴びる。
シャワーを浴びながら昨日の事を思い出す。昨日の宴は楽しかったな。
やはりニアの料理は最高だ。「下手な事はしないで普通に焼くのが一番美味いね」とか言って、焼いただけのドラゴンの肉が出てきたけど、色々楽しめるように何種類ものタレを用意してくれた。ニンニクを使ったタレが好みだったな。とろっとしたチーズも捨てがたい。でも、ワサビのタレは何となく敬遠した。
ニアの料理には劣るけど、ヤトとメノウが作った料理も美味しかった。サンダーバードの肉を串に何個か刺して焼いたものとか、カラアゲとか言う揚げ料理みたいなものはとても好みだ。あと、バジリスクとワイバーンの肉を使った野菜と合わせたピリ辛炒めみたいな料理も良かった。食べた後に、ヤトとメノウから「どっちが美味しいですか!」とか迫られたのが面倒だったけど。
メノウと言えば、昨日は出し物の最後に歌ったり踊ったりしていたな。ゴスロリ服で。
そしてなぜかバックダンサーとしてアンリとスザンナもいた。メノウとおそろいのゴスロリ服で。一回二回の練習でやれるようなクオリティじゃなかった。アイツら普段何してるのだろう?
まあいいか。さあ、朝食を食べに行こう。昨日の料理を思い出したらお腹が鳴ってしまった。早急に腹を満たさないとな。
着替えてから食堂へ来た。アンリとスザンナがいつものテーブルにいる。でも今日はそれ以外のテーブルにも客がいるようだ。
皆と挨拶を交わしながらアンリ達のいるテーブルへ近づく。だが、ローシャが邪魔するように私の前に立った。
「ようやく起きてきたわね! 貴方ね! ドラゴンの肉をお土産で振る舞うなんて何考えてんのよ!」
いきなり怒られた。朝っぱらから一体なんだというんだ。
「おはよう。何を怒っているのか知らんが、まずは挨拶しろ」
「え? あ、おはよう……じゃなくて、ドラゴンの肉よ! あれだけの量があったら、大金貨十万枚くらいになったわよ! いえ、それでも安いくらいだわ!」
「硬貨は食べられないだろうが」
「他の食材に代えればいいでしょ! なんて、なんてもったいない……! ものすごく美味しいとは思ったけど、食べ終わってからネタバレするなんて、味わうこともなく飲み込んじゃったわよ!」
そんなこと知るか。
「まあまあ、会長。フェルさんにはドラゴンの肉を調達できる手段があるということです。次は売ってもらいましょう」
次もお土産になるだけだから売らないけどな。そうだ、思い出した。千年樹の木材とやらを売ってやるつもりだった。
「昨日、ラジット商会が商売できなくなった部分をフォローすると言っていたが、ちゃんとやってくれるんだな?」
「もちろんですぞ。儲けが出るのは間違いないですからな。しかし、急にどうされました?」
「ちゃんとやってくれるなら、エルフが持ってきた千年樹の木材とやらを売ってやる。だから影響が出ないように頑張れよ」
ラスナとローシャの目がこれでもかと見開いた。目が飛び出るぞ?
「よ、よろしいのですかな?」
「良くは知らんがお前達が欲しがるということは結構な金になるんだろう? なら相場の半額で売ってやるからちゃんとやれ。お前は、金は裏切ったりしない、と言ったんだ。もし、できなければ、私を裏切った、ではなく、金を裏切った奴として覚えるぞ?」
ラスナは肩を震わせながら笑っている。いや、どちらかと言うと笑いを堪えているのかな?
「素晴らしい。これほど楽しい気分になったのは久しぶりです。フェルさんは私をよく理解されているようですな」
理解したくないけどな。
「お任せくだされ。このラスナ、金が絡む約束事を破ったことは生まれて一度もありませんぞ?」
「そうか、なら期待している」
「さあ、会長。忙しくなりますぞ。我々のネットワークを使ってラジット商会の穴を埋めませんとな!」
「いいんだけど、最近、私よりもラスナの方が会長っぽいわね? 狙ってるの? あげないわよ?」
二人はそんなことを言いながら宿を出て行った。
朝から疲れたな。まあ、しばらく村で休んでから獣人達の国へ行くつもりだから今日くらいいいけど。
アンリ達がいるテーブルにつくと、ヤトとメノウがやって来た。今日は走って来ないな。以前、ニアに怒られたから普通にしているのだろう。
二人と朝の挨拶を交わしてから朝食を頼む。
「アンリ達はもう食べ終わったのか?」
「うん、美味しかった。あの野菜スープならアンリでも全部飲める。ピーマンだって怖くない」
「この宿の料理っていつ食べても美味しい」
アンリもスザンナもニアの料理は絶賛しているな。なぜか自分の事のように嬉しい。
「ねえねえ、フェルちゃんの今後の予定は? しばらく村にいるの?」
スザンナの質問にアンリも興味があるのだろう。ものすごく見られてる。
「二、三日はこの村に滞在するつもりだ。その後、獣人達の国へ行く予定だな」
「獣人達の国というとウゲン共和国のこと? 私は行ったことないけど、アンリは行ったことある?」
「アンリも行ったことない。フェル姉ちゃんはウゲン共和国に行くの?」
「そうだな。村やアビスの中でヤト以外の獣人を見ただろ? アイツらの故郷だな。恩返しがしたいとか言って村まで来たけど、そろそろいいかなと思ってな」
本当は魔王様に呼ばれているからだけど。
そういえばドレアがルハラへ行った時も何人か連れて行ったよな。ルハラはウゲンと休戦できたのだろうか。
「分かった。アンリも準備しておく」
「いや、連れていかないぞ。なんで行く気になってる?」
「フェル姉ちゃんがいないと刺激が足りない」
「その歳で刺激を求めるんじゃない。大人しく村で留守番をしていてくれ。ええと、村の守りは任せたから」
二人ともブーブー言っているがダメだ。スザンナはともかくアンリを危険な目に遭わせるわけにはいかないからな。
「お待ちどうさまですニャ」
ヤトが朝食を持ってきてくれた。ヤトにも話しておくか。
「ヤト、数日後に獣人達の国へ行く。一緒について来てくれ。ヤトがいてくれた方が話は早いだろうからな」
「ニャ? でも、ウェイトレスの仕事があるニャ」
ウェイトレス自体はメノウがやってくれるだろうから、しばらくヤトがいなくても店は困らないだろう。ニアかロンに許可さえもらえれば大丈夫かな。
そこへロンがやって来た。ちょうどいい。
「おはよう。ロン、ちょっといいか?」
「おう、おはよう。昨日はドラゴンの肉をありがとうな、美味かったぞ。で、どうした?」
「ああ、ヤトを連れてウゲン共和国へ行こうと思っている。しばらくヤトを休ませてくれないか?」
急にロンが真面目な顔をした。
「……フェルは俺に死ねと言っているのか?」
「そんな事、一言も言ってないだろうが。話を聞いてたか?」
ロンじゃなくてニアに話をしないとダメだな。
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