族長
「ここで少し待て。ムクイ、お前はフェルを見張ってろ。族長に話をしてくる」
ドラゴニュートの村に着いたようだ。二人のドラゴニュートは私とムクイを残して村へ入った。
今は三時ぐらいだろうか。お昼を食べた後、結構歩いた。今日中に帰るのは無理かな。ヴァイア達には一応泊りがけだと言っていたから問題はないと思う。
火山の調査と言う割には結構掛かるんだね、とかヴァイア達に疑われていたけど、私がなにか色々やってるのを知っているようで、あまり突っ込みはいれないでくれた。ありがたい。なにかお土産になるものがあれば持って行ってやろう。
だが、この村というか集落を見るとお土産になりそうなものは無いな。掘っ立て小屋みたいな木の家しかないようだし、山の斜面に穴を掘って住んでいるみたいだ。色々と期待できない。
「なあ、お前本当に強いのか? 信じられねぇんだけど」
ムクイが私をジロジロ見ている。
「あの二人には敵わねぇけど、俺だって強い方なんだぜ? あの二人はアンタに敵わないと思ってるみたいなんだが、どう考えても負ける要素がねぇんだけどな。なんかひょろひょろしてるし」
「お前達に比べたら誰だってひょろひょろしているだろうが」
まあ、他の種族をあまり見たことがないのだろう。自分達を標準と考えないでほしい。
「やっぱり信じられねぇな。軽く手合わせしねぇか。暇だろ?」
暇なのはお前達に待たされているからだと理解しろ。
「悪いが止めておく。お前も余計な事をすると怒られるんじゃないか? これ以上たんこぶが増えたら困るだろ?」
「うるせぇ! 全部お前のせいじゃねぇか!」
「お前、本当に次期族長なのか? 短気すぎるだろ。仲間を率いる奴が感情的だと下の奴らが苦労するぞ?」
「お前も親父と同じことを言いやがる。ああ、もういいよ。やる気がなくなった」
そう言うとムクイは地面に座り込んでしまった。
「お前も座ったらどうだ? 時間かかるかも知れねぇぞ?」
「私の事を見張ってるんじゃないのか? 座っていたら私がどこかへ行ったとき追いかけられないだろ?」
「見張ってるだけだ。別にどこかに行っても構わないぜ? 止めろとは言われてねぇ」
コイツだけが独特なのかな。それともドラゴニュートはみんなこんな感じなのだろうか。なんというかいい加減だ。まあいいか。
服に状態保存の魔法をかけて、地面に座る。ゴザとか買っておこうかな。直に座るのは、服に状態保存の魔法をかけていても何となく嫌だ。
それにしても暇だな。そうだ、コイツと話をしよう。色々喋ってくれそうだ。
「ドラゴニュートは狂暴だと聞いたんだが、お前達を見るとそうでもないんだな。お前は喧嘩っ早い感じだけど」
「昔は狂暴だったが、最近はそうでもないらしいぜ。なんつうのかな、俺達には龍神様の言葉を伝えてくれる巫女様がいるんだけどよ、ここ数年、龍神様の声が聞こえないとかでな。それが影響してるとか言ってたけど、難しいことはよく分からねぇな」
「そんなことを私に言っていいのか?」
そこまで聞くつもりはなかったんだけど。よくもまあ、ペラペラと喋ってくれる。一を聞いたら十を教えるみたいな。
「……また俺をはめやがったな? これもお前の作戦か?」
「またってなんだ。作戦も何もタダの世間話だったのに、お前が勝手にしゃべったんだぞ? 前回も今回もお前の自爆だ」
ムクイは顎部分をさすってからこちらを見た。
「……聞かなかったことにしてくれないか?」
「……分かった。聞かなかったことにする」
なんでコイツは次期族長なんだろう。明らかにダメだろうが。そのおかげで情報は得られたけど、なんとなく複雑な気分だ。
「もう一つ聞いていいか? ただ、あまり言い過ぎるなよ? はい、か、いいえ、で構わないから」
「はい」
なんでコイツは素直なんだろう? 根はいい奴なんだろうけど、ものすごく危うい。全然関係ないのにものすごく心配だ。まあいいか、情報を集めよう。
「お前達ドラゴニュートにとって龍神とはちゃんと存在する神として崇めているのか?」
人族や魔族は神がいないものとして扱っていた。ドラゴニュートはどうなんだろう? 龍神に対して下手な扱いをすると敵対するかもしれないからちゃんと聞いておかないと。
ムクイは首を傾げた。言っている意味が分かっていないのだろうか? もっと簡単に聞いた方がいいかな?
「龍神は存在するのか?」
「はい」
巫女と言う奴がいて言葉を聞いていると言うなら当然か。ちゃんといる神として崇めているんだな。
「もういいぞ。普通にしゃべってくれ」
「今の質問に何の意味があったんだ? 龍神様がいるなんて当たり前だろ?」
「人族も別の神を信仰しているが、実際にはいないと思っているんだ。ちゃんと神がいて崇めているならしっかり話を聞いておかないと失礼な事をするかもしれないだろ。だから聞いたんだ」
今回はできるだけ穏便に済ませたい。魔王様は叩きのめせばいいとか言っていたけど、そんなことしちゃダメだ。話術と交渉で鍵を手に入れて龍神の祠へ行こう。
「人族は変わってんな。いない奴を崇めているのか。もしかして馬鹿なのか?」
「信仰と言うのは心のよりどころだ。いなくても、見えなくても信じることが大事なんだそうだぞ」
リエルがそんなことを言ってた。でも、ババ抜きでババを引いたらもう女神は信じないとかも言ってたな。
「そういう難しいことは分からねぇ。でも、アンタと話してると面白れぇな。いつか俺も外界へ行ってみたいぜ」
「お前達が言っている外界ってどこを指すんだ?」
「この山以外のすべてを外界って言ってんだよ。俺達ドラゴニュートは龍神様をお守りしているからな。ほとんど外界には行かねぇけど、憧れみたいなものはあるぜ……リンゴ食ってさらにその気持ちが増したな」
エルフ達が世界樹を守っているとかと同じことなのかな。それにしてもリンゴは罪深い。
「そうそう。最近外界から色々な奴が来るんだよ。アンタもその内の一人だな。そんなこともあったから連れて来たんだと思うぜ」
「私以外にも誰か来たのか?」
ちょっと気になる。私の知っている奴だろうか?
「そうだな。つい最近も来たぞ。ドワーフの奴とデカい狼だ。どっちもまだ滞在してた気がするな」
ドワーフはともかく、デカい狼? ……まさかな。
「俺はどっちにも負けちまったぜ。戦士長達以外には負けたことなかったんだけどな。でも、俺に勝てるほどだったから皆にも受け入れられたんだと思う」
「お前、本当に強いのか?」
「アイツらが強すぎなんだよ!」
「なによ、アンタ達、もう仲良くなったの?」
ドラゴニュートが近づいてきた。多分、一緒に来た女性のドラゴニュートだと思う。持っている槍が似ている。顔は区別がつかないからそれで判断。
「話をしていただけだって。で、族長はなんて?」
「会うってさ。付いてきて」
地面から立ち上がって砂を払う。よし、これからが本当の交渉だ。気合を入れないとな。
ドラゴニュートに連れられて洞穴のような場所へと通された。
内部は意外と狭い。光球のような魔法は使われておらず、中央で、たき火をしているだけのようだ。
たき火の向こう側に、族長らしき大きなドラゴニュートが胡坐をかいて座っていた。頭のトサカがムクイよりも派手だ。
そして族長の隣には頭にヴェールを被っている、というか乗せているドラゴニュートがいた。
「族長、連れてきました」
「ご苦労。お前達は下がっていてくれ」
連れてきてくれたドラゴニュートとムクイは頭を下げてから外に出て行ってしまった。
「魔族よ、まずは座ってくれ。害を成すつもりは無い」
良かった。暴れて解決するのは良くないからな。ここは上手く話をまとめて、穏便に事を進めよう。
たき火をはさんで族長らしき奴の正面に座る。
「魔族のフェルだ。お前が族長でいいのか?」
「ドラゴニュートの族長をしているコアトだ。話は聞いている。龍神の祠へ行きたいそうだな? 理由を聞いてもいいか?」
名前は神聖なモノじゃないのだろうか。簡単に教えてきたな。
そしてなんの捻りもなく単刀直入に聞いてきた。うん、面倒がなくていい。意外と魔族とドラゴニュート達は上手くやっていけるのかもしれない。
「私を連れて来たドラゴニュートにも言ったんだが観光だ。人界の有名どころを見て、それについての本を書きたい」
いつか本当にやるかもしれない。今は嘘で塗り固めているが、遠い未来に嘘じゃなくなるかもしれないから嘘じゃないぞ。
「嘘だな」
いきなり看破された。嘘を見抜く魔法は使われていないはずだ。嘘を見破ったというブラフだろうか。
「龍神の祠が有名なわけがないだろう? 我々がそれを外界の奴らに言うものか」
「ムクイは言っていたぞ?」
「あれは特別だ。だが、アイツが言い出す前に山の中腹に洞窟があると知っていたのだろう? 言え、それを誰に聞いた」
周囲から殺気が向けられた。しまったな。見えないけど手練れのドラゴニュートが何人もいるのか。
さて、どうしたものかな。
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