宣戦布告
ディアが言っていた通り、夕方にはエルリガという町に着いた。
また一キロ手前でゴンドラから降りて、徒歩で町に向かってる。
上空から見た感じでは、リーンと同じぐらい大きな町のようだったな。町を守る壁も高く、ここにもバリスタがある。
だが、特筆すべきは壁に使われている魔法だ。壁全体が魔道具っぽくなってる。おそらく壁に電気が流れるようになっているのだろう。魔物が張り付いたら電気を流して痺れさせる感じか。
なんでこんなに厳重なのかディアに聞いてみると、この町は大霊峰の登山口に近いようで、そこから来る魔物の対策で色々と備えているらしい。ドラゴンとまではいかなくとも、ヘビやトカゲの魔物が襲ってくるので防衛には気を使っているようだ。
それを聞いたリエルが顔をしかめた。
「ヘビやトカゲか。ラミアとかリザードマンと一緒に牢屋にいたから、ちょっと複雑な気分だな。アイツら元気にしてっかな?」
「そういえば、リーンで別れた後、北の方へ向かったな。この辺に住処があるのか?」
「詳しくは聞いてねぇんだけど、山のふもととか言ってたから近いかもしれねぇな。冒険者に倒されてなきゃいいけど」
リエルが立ち止まり、西にある山の方を見ていた。何日かは一緒に過ごしたわけだし、情が湧いたのかな。私としても一時的にとはいえ、従魔契約をしたから、できれば長生きしてもらいたいとは思っているが。
みんなで山の方を見ていたら「大丈夫じゃないですかね」とユーリが言い出した。
「ラミアやリザードマンとどういう縁があるのかは知りませんが、問題ないと思いますよ?」
「なんで分かる?」
「この町を襲ってくるのはジャイアントスネークとかバジリスク、あとはワイバーンですね。ラミアやリザードマンは山の南側に近い所に住んでいますから、ここまでは来ませんよ」
「この辺りに詳しいのか?」
「ええ、まあ。以前、この辺りを拠点にしていましたので。魔物の皮は結構なお金になりますから、そこそこ強い冒険者はここで稼ぐことが多いんですよ」
そんなことがあったのか。だが、いいことを聞いた。ラミアやリザードマンたちは人族とは争っていないのだろう。なら多少は安全かな。
「拠点が遠いなら大丈夫だな! よし、町へ行こうぜ、暗くなっちまう!」
リエルも元気が出たみたいだし、そろそろ移動するか。
この町でも問題なく入れた。普通の扱いをされると、それはそれでなにか罠があるんじゃないかと不安になる。
「えっと、どうしようか? 私は冒険者ギルドに行くけど、リエルちゃんは教会に行くんだよね?」
「そうだな。じゃあ、泊るところを決めてから二手に分かれようぜ。早く決めねぇと満室になっちまう」
「前に泊ったところならすぐに案内できるけど、そこでいい?」
特に反対意見もないので、その宿へ行くことになった。
そしてあっさりと宿泊の手続きが終わる。今回はユーリも同じ宿に宿泊だ。当然、部屋は別だけど。
「えっと、私とユーリさんは冒険者ギルドに行くけど、フェルちゃん達はどうするの?」
「おいおい、フェルは俺の護衛だから教会行くに決まってるじゃねぇか」
初めて知った。
そもそも私はディアの護衛としてここにいるんだが。でも、さすがに一人で教会に行ってこい、とは言えないか。ディアの方はユーリもいるし問題ないだろうから、私がリエルを護衛するしかないな。となると、ヴァイアはどうするんだろう。
「ヴァイアはどっちに行くんだ? それとも宿で待ってるか?」
「ならディアちゃんと冒険者ギルドを見てくるよ。教会って用がないと入りづらいし、一人だと寂しいから」
「おう、俺もその気持ちは分かるぜ。教会なんか用がなきゃいかねぇよな」
「何でリエルが入りづらいんだよ……まあ、いまさらか。なら、ユーリ、二人を頼むぞ」
「分かりました。では、また後で」
ユーリがそう言うと、三人は冒険者ギルドの方へ向かった。
三人を見送った後にリエルの方を見た。
「教会の場所って知ってるんだよな?」
「だいたいの場所はディアから聞いた。とっとと済ませて飯にしようぜ!」
その意見にはものすごく賛成だ。昼のリベンジをしないとな。
教会の前まで来た。
思っていたよりも大きくはない。リーンの町にあった教会はもっと大きかった気がする。司祭の奴が色々と悪いことをしてお金を稼いでいたのかもしれないな。部屋は金ぴかだったし。
教会に足を踏み入れようとして、ふと、思った。
私って教会に入っていいのか? 怒られるじゃ済まない感じになると思う。ここは中に入らずに外で待つべきだろう。面倒事は嫌だ。
「私はここで待っているから手短に終わらせろよ?」
「何言ってんだよ。教会の中でさらわれるかもしれねぇだろ。一緒に入ろうぜ」
教会で聖女がさらわれるのか。だが、その可能性はあるな。仕方ない。入りたくはないが入るか。
教会に入ると、すぐに礼拝堂だった。祭壇の前でシスターっぽい人が跪いている。祈りを捧げているのかな。
「すみません、よろしいでしょうか?」
リエルが外面用の顔で遠慮なく話しかける。よく知らないけど、お祈り中に話しかけてはいけないのでは?
声を掛けられたシスターは、立ち上がってこちらを見た。随分と若いシスターだ。私達よりも若いか?
「はい? 教会になにか御用でしょうか……まあ、同じ女神教のシスターですね。そちらの方は……魔族?」
シスターの目がギラリと光る。狩人の目だ。リエルもたまにあの目になる。
「なるほど、分かりました。教会で生命を終わらせに来た……そういうことですね?」
「全く違う。なんで死ななきゃならん」
「安心してください。痛みもなくスパッとやります。得意です」
そんなのが得意だなんて、嫌なシスターだな。もしかして異端審問官なのだろうか。
ここはリエルに任せるしかないな。すがるような目でリエルを見ると、リエルは頷いた。
「待ってください。この魔族は危険ではありません」
「魔族はみんなそう言うんです。騙されてはいけません」
年齢的に私以外の魔族を見たことないだろ。どうしてそう言い切れるのだろうか。もしかして、重度に洗脳されている?
……魔眼で見たけど洗脳されていないな。素でそう思っているのか。コイツ、狂信者だ。
「魔族はそう言うかも知れませんが、私はそんな嘘を言いません。このカードを見てください」
リエルはカードをシスターに見せた。青く光るカードを見て、シスターの目が大きく開かれる。
「せ、聖女リエル様!? あのお優しく、純粋で、まるで古典に出てくる天使様のような、あの聖女リエル様!?」
笑わすな。リエルへのイメージもそうだが、天使がそういうイメージなのがさらに笑える。
「はい、リエルです。では、この魔族が危険でないと言うことは理解してくれましたね?」
「で、でも、リエル様は聖都で静養中だったのでは……なるほど、そういうことでしたか。リエル様のご病気というのは嘘で、本当はこの魔族を調教していたのですね。理解しました」
嘘を見破るのは早いのだが、仮説が斜め上過ぎる。でも、それでいいや。早く用を済ませて帰りたい。
「いえいえ、勘違いなさらないでください。私達人族は魔族とも手を取り合えると信じて一緒にいるのですよ」
おお、嘘くさいけど、ちょっとだけ嬉しい気がする。
「なんと慈悲深いお言葉。分かりました。私も今日からそのような考えをするように致します。魔族さん、もう、殺そうとはしないのでゆっくりしていってください」
「ああ、うん」
これが聖女パワーなのだろうか。これも一種の洗脳だよな。勇者パワーの次に嫌だ。
「魔族さんのことは分かりましたが、本日はどういった御用でこちらにいらしてくれたのですか?」
「聖都に連絡をしたいのですが、念話用の魔道具をお借りしたいのです。構いませんか?」
「それでしたらこちらへどうぞ。時間外ですが、リエル様が使われるのなら問題ないでしょう」
シスターに案内されて、部屋に入った。
机と椅子ぐらいしかない質素な部屋だ。そしてテーブルの上には台座があり、その上に水晶玉が乗っかっている。これが念話用の魔道具かな。
「では、ご自由にお使いください」
そう言ってシスターは部屋を出て行った。
「とくに私がいても咎めないんだな。部屋から追い出されるかと思った」
「さっき、魔族のことを報告するからって言っておいたんだよ。あと、四賢に連絡するからシスターは席を外してくれともな」
いつの間に。結構、抜かりないんだな。
「じゃあ、ちょっと待ってくれ。すぐに連絡するから」
リエルは椅子に座り、水晶玉に手を置いた。そして魔力を流す。
水晶玉から声が聞こえて、名前の確認をしているようだ。そして繋ぎたい相手をアムドゥアと答えていた。
途端に、水晶玉から慌ただしい感じの音が聞こえてきた。
『おい、リエル! お前、今、どこにいるんだ!』
「よお、久しぶりだな、アムドゥア」
『そんな挨拶はいい。いろんなところでお前の目撃情報があってこっちは混乱していたんだ。迎えに行くから場所を言え』
やっぱり連れ戻す方向で女神教は動いているんだな。これは普段からリエルの護衛していないと危ないか。
「悪いが、もう帰るつもりはねぇよ。そんなことよりも異端審問官のことだ。アイツら一般人を巻き込むような戦いをしやがったぞ? お前の部下だろうが。何やらせてんだよ」
『なに? いつの話だ?』
「昨日だよ。リーンの町で襲われた。詰所に突き出したから何とかしてやれよ」
『リーン? ということはラジット商会絡みか。アイツら、俺達を私物化しやがって……いや、それよりもお前、リーンにいたのか?』
「おう、魔族と一緒にな」
静寂だ。何となく雰囲気で分かる。絶句しているんだろう。
「そうそう、ついでに宣戦布告もしておく。俺は女神教を潰すつもりで行動するから、教皇やほかの四賢にもそう言っておいてくれ」
ついでで宣戦布告するなよ。
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