組み合わせ
モニターにアビスとトーナメント参加者八名が映っている。
アビスが出て来てお辞儀をした。
「……では、ルールの説明です。参加者八名の魔物同士による一対一のトーナメント方式です。上位三名にはソドゴラ村防衛隊の四天王の座が与えられます」
ソドゴラ村の防衛隊なのか。
いつも思うんだけど、私の従魔なんだよな? 村を守るのはお願いしたいし、やるのも問題ないんだけど、私に相談とかないの?
別に寂しくはないんだけど、ちょっと相談と言うか、報告してくれないかな?
「……試合のルールは無制限一本勝負。ギブアップするか気絶したら負けです。またコロシアムから場外にふっ飛ばされても負けです」
さすがに食うか食われるかという戦いにはならないか。本気出したらスプラッタだからな。
「……なお、コロシアム内は特殊なフィールドとなっていて、本気を出しても誰も死んだりしません。怪我もコロシアムを出ると直ぐに治る様になっていて、安心、安全な戦いができます」
そんなことができるのか。
「……また、村の皆さんには、優勝者を予想して楽しんでいただくことができます。見事優勝者を当てた方には、森の妖精亭の夕食無料券一回分のチケットを差し上げます」
村の皆が静かになった。そして次の瞬間には大騒ぎになる。
なんと。そんな賞品が出るのか。というか、いつの間に。
ディアが賭け事をするとか言ってたけど、これがそうなんだろうか? 一方的にニアとロンが損をするだけだと思うが。
「フェル姉ちゃんは誰が勝つと思う? 参考にするから教えて」
「私も教えて」
別にズルではないな。ならちょっと考えてみるか。
多分、シャルロットかな。弱点がない。ジョゼフィーヌの実力が飛びぬけているから目立たないけどアイツもかなり強い。
あとは大狼が強いかな。あのユニークスキルを使われたら攻略方法が分からん。
後は相性だから何とも言えないんだけど、ミノタウロスとオークは厳しいかな。進化していればいい勝負ができる可能性はあったかもしれないが。
よく分からないのはロスか。弱くはないと思うんだが、戦っている姿をほとんど見てないからな。
「多分、シャルロットだと思う。対抗に大狼。大穴でロスかな」
「なるほどね」
いつの間にかディアがいた。今の予想を聞いていたのか?
「ディア姉ちゃん、盗み聞きは良くない」
「アンリちゃん。生きていくには綺麗ごとだけじゃ駄目なんだよ……」
そんな大層な話じゃないだろ。
「ところでディア、賭け事ってアレで良いのか? ニアとロンが損するだけだぞ?」
「最初はお金を賭ける事にしようとして村長さんに相談したんだけど、お金を賭けるのは良くないって話になったんだよね」
確かに賭け事にはいいイメージはないからな。
「そうしたら、ニアさんが提案してくれてね、こういう形になったんだ」
「そうか、村に迷惑を掛けたからその詫びも入っているんだろうな」
今日のお祭り用の料理も提供して、さらに賞品も提供するのか。本当に申し訳なかったと思っているんだろうな。だれも気にしてないと思うんだけど、ケジメみたいなものなのかな。
「そんなわけで、三人とも誰にする? 私が名前を書いた紙を持ってないと参加にならないよ?」
「じゃあ、私はシャルロットで」
勝ちに行く。どんな時も全力だ。戦いでも賭け事でも負けるのは好きじゃない。やるからには勝つ。
「アンリも」
「私も」
三人ともシャルロットか。多分、勝てるとは思うんだけど、負けたら何か言われるのだろうか。あくまでも予想しただけなんだけど、負けて怒られたら理不尽な気がする。
ディアが紙に「シャルロット」と書いて私達に渡してきた。
「紙を失くしたら無効だからね? 無くさないようにちゃんと持っておかないとダメだよ? さて、皆にも参加を促そうかなっと。はーい、参加してない人はいないかなー?」
ディアは参加していない人たちの方へ行ってしまった。よく見るとヴァイアも似たような事をしているみたいだ。紙を持って皆に話しかけてる。二人でやっているのかな。
「……では皆さんの予想中に参加者に意気込みを聞いてみましょう」
アビスがそう言うと、シャルロットがモニターにアップで映る。
「シャルロットです。洗濯が得意です。優勝目指して頑張ります」
モニターの下部に字幕がでた。うん、間違いなく翻訳されている。それに意気込みが出た。よし、優勝を狙ってくれ。
「あれなら私にも分かる」
スザンナがモニターを見ながらうんうん頷いている。周りを見ると、皆も理解できたようだ。これは便利だな。もうちょっとコンパクトにしてモニター越しでなくても分かる様なものがあれば便利なんだけど。
次は大狼がアップになった。なんだかきょろきょろしている。
「我も何か言うのか? フン、我が負ける訳がない。優勝者を予想するなら我にするのだな」
大きく出たな。まあ、あのユニークスキルが破れない限り負けないだろう。ただ、他の奴等って何かユニークスキルを持っているのだろうか? 魔眼でも見てないし切り札になるようなスキルを持っていたら大狼でも危ないと思うけど。
次はアラクネがアップになった。
「私クモ? もちろん優勝クモ。皆を倒して進化するクモ。あ、そうだクモ」
いきなりアラクネが背中を見せた。羽織っているベストの背中に猫のマークが描かれている。ニャントリオンだ。
「服飾ブランド、ニャントリオンをよろしくクモー」
宣伝してる。遠くでディアが頷いているのが見えた。ああいう宣伝もあるのか。
「フェル姉ちゃん、どうしよう。あれも買わなきゃ。お小遣いが足りない。冒険者になって稼ぐしかない。もしくは傭兵」
「落ち着け。冒険者も傭兵も五歳じゃ無理だ」
ちょっと興奮気味のアンリをなだめながらモニターを見ると、今度はカブトムシがアップになっていた。
「パワーなら誰にも負けません。全員、場外にふっ飛ばします。あ、ゴンドラによる快適な空の旅、青雷便をよろしくお願いします」
また宣伝している。青雷ってカブトムシの名前だっけ? 青雷便というサービス名になったのかな。
「私も水竜便とかやろうかな」
「サービスが競合するからやめてあげてくれ」
この狭い村で同じサービスは良くない気がする。確執のもとだ。
次はロスかな。
「主のフェル様に私の勝利を捧げて見せよう」
おう、既にシャルロットに賭けてしまった。先に聞いていたらロスに賭けていたんだが。
せめて応援はしよう……アンリ、スザンナ、そんな目で私を見るな。私のために戦ってくれるとは思わなかったし、ワザとじゃないんだから。
次はミノタウロスか。
「私は魔界のミノタウロス族の代表でもある。負ける訳にはいかない」
そういえばそうなんだよな。でも、どうだろう。進化していないし、ユニークスキルもないはずだ。厳しい戦いになると思うんだが。でも魔界育ちだからな。簡単には負けないと思う。
「あと、嫁のためにも負けられない」
「アナタ! 頑張って!」
画面が移り変わって、もう一体のミノタウロスが映った。応援しているようだ。
そして男性達から舌打ちが聞こえた。あとリエルからも。どうしようもないな。
次はオークだ。
「私も魔界のオーク族代表だ。負ける訳にはいかん」
オークもミノタウロスと同様に強い奴を送ってくれたんだよな。強いんだけど、どうかな? ちょっと相性が悪い。同じ人型の魔物とかだったら勝てるかもしれないけど。
「アンタ! 負けたら今日の夕食抜きだよ! 気合入れな!」
あれだ。尻に敷かれているというあれ。苦労しているんだろうな。
なんだか男性陣からものすごく応援されている。現在進行形で同じ苦労をしているのか、それとも未来の自分を重ねてしまったか……。どっちでもいいか。
次はコカトリスだな。これで最後か。
「結果は見えている。石化ブレスを何とかしない限り私には勝てん」
自信満々だ。確かにその通り。石化ブレスを何とかしないとコカトリスには勝てない。
「石化ブレスってどう対処すればいいかな?」
スザンナがこちらを見ながら質問してきた。アンリもこっちを見ている。
「屋外なら風下にならないような場所取りが必要だな。屋内なら送風の魔法とかを使うのが効果的だ」
「送風って生活魔法の?」
「そうだ、発火とかと同じ生活魔法だ。生活魔法といっても使い方しだいだぞ。まあ、私の場合は魔力が多すぎて調整できないからそれなりの効果になるだけなんだけどな」
「アンリのお母さんも熱魔法の調整ができない。だから料理があんなことになる。でも、そのおかげで熱耐性を覚えた」
私もお茶でヤケドしたことがある。私は熱耐性を覚えなかったな。猫舌無効でもいいんだけど。
「……はい、全員やる気ですね。ではトーナメントの組み合わせを行います」
そう言ってアビスは白い箱を取り出した。
「……この箱の中に一から八まで書かれた球が入っています。それを順番に取って貰います。それがトーナメントの組み合わせになります。ではどうぞ」
従魔達が箱から球を取り出す。そして全員が球をこちらに見せた。
一 コカトリス
二 ロス
三 大狼
四 アラクネ
五 オーク
六 シャルロット
七 ミノタウロス
八 カブトムシ
大狼とアラクネが一回戦なのか。両方強いんだけど、どっちかは四天王にはなれないんだな。
「……では第一試合はコカトリス対ケルベロスのロスです。少し時間をおいてから開始します。しばらくお待ちください」
さて、どうなるんだろうな。
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